第13話

 私はいまだにセール品を狙う狼の目をしている人達を前に動けないでいた。


「もらったよ」 


 私の後からやってきた生徒がセール品のキャベツを手に入れるべく狼達の群れに近付いて行った。


「渡すか!」

「きゃっ」


 生徒は品物を手に取る前に吹き飛ばされる。


 ――どうしよう。こうしている間にもどんどん常連ぽい人達にキャベツが取られて在庫が少なくなっている。


「何かこの状態を打開するアイテムは――」


 私は何か持ってきてないかカバンの中をまさぐった。

 ――爆発しか持ってきてない!?

 う〜ん。流石に室内で爆弾を使うわけにもいかないよね。


 周辺は生徒とお客さんがセール品のキャベツを奪い合う熱気で暑くなってきゃってる。

 なんだかアイスクリームが食べたくなってきゃった。


 ――ん? アイス?

 もしかしてここにもあるかも。

 

 私は野菜売り場を後にしてアイス売り場に走り出す。

 夏場だからかアイスの棚にはかなりの種類のアイスクリームが陳列されている。


「あっ、これ美味しそう」


 ……って、そうじゃない。

 

「えっと――――あった!」


 私はドライアイスに指を指して店員さんを呼び止める。


「あの、これください」

「それかい? まあアイス買ってくれたら少しだけ持っていってもいいよ」

「ありがとうございます」


 私はアイスクリームを購入して携帯用の錬金釜にドライアイスと水を入れて調合を始める。


 ドライアイスと水を組み合わせると凄い煙が発生するんだ。

 ――って、これって調合というより科学実験な気がしなくもないけど、まあ今は気にしないでおこう。


「できたっ!」


 私はドライアイスと水を組み合わせて発生する煙を室内に解き放った。


「わ、なんだこれ!?」

「何も見えない」


 今のうちにキャベツを手に取り会計を済ませて外に飛び出した。


 外に出た瞬間、何者かから攻撃を受けた。

 突然、炎の玉が私に向かって飛んでくる。

 私は何とかそれをかわして火が飛んできた方向を向く。


「一体なに!?」

「おっと、ここから先には行かせないよ」

 

 そこには店の外で戦っている生徒が数人いて、そのうちの一人が私に攻撃してきたのだった。

 

「貴方、店の中に行かなくていいの?」

「そっちは相棒が行ってるからね」


 つまり、二人で同じ方向に行った生徒は一人が調達役で一人が妨害役みたいな感じの分担だった訳か。


 けど、ここでの勝利は戦いに勝つ事じゃなくて、ここから逃げ出す事だ。

 空に行けば私のスピードについてこれる生徒はいないだろうし、まずは箒に乗れるスペースまで走る事がいまの目的。


「どうやらアンタが一番乗りみたいだね」

 

 戦っている他の生徒もまずは最初に出てきた私の足止めをしようと集まってくる。


「流石にこれだけ相手にするのはきついかな――」

 

 武器は軽い爆発が起こせる爆弾くらいか。

 

「よし、こうなったら」


 私はスーパーの入り口に爆弾を投げて入り口を吹き飛ばした。

 すると中に篭っていた煙が外に流れ出してくる。


「何この煙?」

「ま、前が見えない」


 今の内に逃げ出そっと。

 私は箒を取り出してまたがり空へと飛び立つ。


「――はうっ」

 

 ここに来た時に箒にまたがって空を飛んでいた事もきつかったけど、今はキャベツの重さが加わって私の股間を更なる重さが締め付ける。


「もう少しだから頑張らないと――」


 しばらく飛ぶとゴールである会場が見えてきた。

 

「――今の順位は?」


 会場に設置されている電子掲示板には現在ゴールした人数が表示されている。


「まだ誰も到着してない!?」


 振り向いてみたら後ろから追いかけてくる生徒はいないみたい。

 ――これは何とか行けるかな。


 私が気を抜いた瞬間、反対側から高速で飛んでくる物体が見えた。


「何か来る?」


 遠方からロケットに乗って突撃してくる生徒が見えた。

 

「――このままだと先にゴールされちゃう」


 私は必死でスピードを上げて突き進む。

 もう着地とか考えないでゴールに体当たりする位の気迫で風を切る。


「いっけええええええ」


 ――数秒後、私はゴールの後ろの壁に突き刺さった。


「――採取してきたものの確認をするので出してくださいね〜」

「…………はい」


 タッチの差で私は2番になってしまった。

 相手も壁に激突する気――というか止まる事を考えていない乗り物だった為、会場の壁に2つの人型の穴が空いていた。


「はい、確かに確認しました」

「ありがとうございます」


 私が判定を終えて帰ろうとすると、一位でゴールした人の審査員の様子がおかしかったので近付いてみる。


「あ〜。これはキャベツじゃなくて白菜だね。これじゃゴールは認められないね」

「そんな〜」


 え? え?

 どうやったら白菜とキャベツを間違えるの?

 ――けど、という事は。

 私が一番!?


「……何か試合に勝って、勝負に負けた気がする」


 けどまあ、一番を取れたことだしこれは最終順位も期待できそう。


 ――数分後、その日の試合がすべて終わり最終順位が発表される。


「先輩いよいよですね」

「うう〜っ。緊張するよ〜」

「希、早く帰ってアニメ見たいんだけど」

「出ました!」


 ……一位は私達の学校じゃなかった。

 そこから順番に下を確認していく。


「3位ですか……」

「みんな初出場で3位何て凄いよ〜」

「けど、優勝しないと廃部だって……」

「まだ2回もチャンスはあるんだし、次の大会まで練習を続ければきっと大丈夫」

「……そうですね。はい、明日から頑張りましょう先輩」

「うん。明日からはビシビシいくよ〜」

「んじゃ。そろそろ帰ろっか」

「そうだね〜」

「次は優勝しましょう」

「お〜」


 私達は決意も新たに次の大会に向けて活動を始めるのだった。

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