第12話
――控室のモニターで試合を観戦していた私は先輩が帰ってくるのを控室で待っていた。
横では希ちゃんが試合の結果には興味なさそうに携帯ゲームをしている。
バタンと控室のドアが開かれて美里先輩が入ってきた。
「あはは〜。その……みんなゴメン」
「先輩。10位なんて大健闘じゃないですか」
「ん? もう終わったの? お疲れぇ」
「もう、希ちゃんもせっかく先輩が頑張ってきたのに労わないでどうするのよ」
「希、今忙しいから後でねぇ。――うおおおレアキャラきた〜」
「せっかく希ちゃんが頑張ってくれたのにゴメンね」
「ん? 別に希は何もしてないよ?」
「本当に何もしてなかったよね……」
「それでも上位を取ったから凄いよ〜」
「そう言えば、今の私達の順位は……」
私はモニタに表示されている会場の電子掲示板を見た。
そこに表示されていた祈ヶ丘高校の順位は――――。
「7位ですか」
「う〜ん。今回優勝するのはちょっと無理かな〜」
「まあこんなモンじゃない? 希は楽しかったし満足だよっ」
「諦めちゃ駄目です。まだ私の結果次第で優勝も狙えますよ!」
「そうだね〜。けど奈央ちゃんは今回が初参加なんだし無理して怪我したら駄目だからね」
「わかってます」
「んじゃ、頑張ってねぇ」
「うん。行ってくる」
私は部屋を出て会場に向かう。
――少し早めに会場に到着した私は自分が出場する競技のルールの最終確認をするためにルールブックを確認する。
カバンから薄めの本を取り出してパラパラとページをめくり、あらかじめフセンの貼ってあるページを開く。
「――えっと、私の担当の素材採取のルールは――」
――素材採取とは二人で協力して決められた素材を集めて会場に戻って来た順位でポイントが与えられる……か。
場所が複数在る場合は一人だとかなり不利かもしれない。
けれど、今は人数の差で嘆いている場合じゃない。
やる気だけなら二人分あるんだ。
私が気合を入れ直していると、審判員の人が会場に入ってきた。
そして、会場脇に控えていた係員さんに何かが入っている袋を渡された。
――いよいよ始まるんだ。
「調達場所は各自の判断に任せる。そして、資金が必要な場合は開始前に配った袋の中にある範囲での使用を認める。それでは今年のお題はこれだ」
電光掲示板にデカデカとお題が表示された。
――えっと、お題は……キャベツ?
えっ? あの、お店で普通に売ってるやつでいいの?
「それでは開始だ」
――参加者は一斉に会場の外へと飛び出していく。
「いけない。私も急がないと」
人の波に押されるままに私も会場の外へと押し出された。
私はカバンから地図を取り出して周辺を確認する。
「えっと…えっと……この周辺でキャベツが手に入る場所は――――」
ここの周辺だとキャベツ畑とスーパーがあるみたい。
ちなみに地図に書かれている場所の所有者には、あらかじめ話が行っていて勝手に持っていっても後で錬金術協会が代金を支払うらしい。
スーパーやコンビニでは普通に買い物をすればいいみたい。
そして、集めた素材は後でスタッフ一同で全て美味しくいただくみたいなので大量の素材を集めそのまま捨ててしまう事も無いみたいだ。
二人いる学校は二手に別れて調達に行く所が多いみたいだけど、ちょくちょく二人で同じ方向に向かって行く学校も見受けられる。
――私も迷ってる場合じゃない。
ここは直感を信じてスーパーに向かおう。
ちなみにこの試合も錬金術で作られたアイテムの使用は認められている。
つまり空を飛ぶアイテムを使って目的地までショートカットする事も認められているのだ。
私は先輩からあらかじめ渡されていた空飛ぶ箒を取り出してまたがった。
一応大会前に使い方を教えてもらったし問題なく飛べる――――はず。
……けど何でだろうか。
「――おかしい。皆、絨毯(じゅうたん)やソリなどのあまり速度の出ない物を使っている人が多いような……」
先輩からは箒が一番早いからこれがお勧めって聞いたんだけど扱いにくいのかな?
空を飛ぶことをイメージすると、ふわりと足が地面から離れて空へと飛び立つ。
――ふう。これなら何度か……ってイギっ。
「いだだだだ……あっ…こ、これっ……凄く……食い込ん……でくっ…ああっ……」
箒の棒が私の股間に全力で食い込んでくる。
……皆が箒を選ばない理由ってこれのせいだったんだ。
「けれどこれはチャンスよ」
皆がスピードの出ない道具を使ってるなら私にも勝てるチャンスがあるかも。
私は股間の痛みに耐えながら猛スピードで目的地へと向かっていく。
本来なら風を切りながら空を飛ぶ事は気持ちのいい物なんだろうけど、今の私にそんな事を考えている余裕なんてなかった。
今は少しでも早く前に進みたい。
――数分後。
空の上からスーパーが見えてきた。
私はそのままスーパーの入り口前へと着地する。
「痛つつ……どうやら私が一番のようね」
ここに来るまでにあんなに痛みに耐えたんだ。
これで私より速い人がいたらいたたまれなかっただろう。
私はそのまま走ってスーパーの中へと入って行ったのだが、そこには壮絶な光景が繰り広げられていた。
「えっ!? 何これ? ……私が一番に到着したはずじゃ」
スーパーの中ではお客さん全員で商品を奪い合っていた。
「どうしてこんな事が!?」
「――ちょっとゴメンよ」
「――えっ!?」
声のした方を見るとエプロンを身に着けた店員さんらしき人が立っていて、その手には……シールを張る道具が握られている。
店員さんは慣れた手つきで商品に値下げシールを貼って行く。
「ちょっと、そこどいて!」
「はいっ!? ――わあっ」
私は突然どこからか現れた鉄球の様な人に弾き飛ばされてしまった。
若干ふらつきながらその人の手の中を見るとそこには……。
「お惣菜!?」
もしかしてここで戦っている人達って大会の参加者じゃ無くて、ただセール品目当てのお客さんなの!?
――競技相手じゃないならセール品を避けてれば何とかやり過ごせるかな?
私は野菜コーナーを探してキャベツを見つける事ができた。
「値引きシールはまだ貼られていないみたいね」
この辺りは人が少なくてなんとかなりそう。
私はホッと胸を撫で下ろす。
するとすぐ前から威勢のいい声が店内に響き渡る。
「野菜のセールはじめるよ〜」
「えっ!?」
いつの間にか現れていたシール担当の店員さんがキャベツにシールを貼り始めてしまった。
「だめぇえええええ」
私の声は虚しく店内に消えてしまい、他のコーナーからセール目当てのお客さんが集まってきてしまった。
「ちょっと、それ私のよ」
「――きゃっ」
またもや私は吹き飛ばされてしまった。
そして、店の入り口が開かれて他の生徒がなだれ込んできた。
――遅れてきた生徒もどんどん到着してきてるみたい。
「どうしよう。早くしないと売り切れちゃうかも」
私は意を決してキャベツの山へと走っていくと横から割り箸が飛んできた。
「お前もセール品を狙いに来たんだろうがそうはいかねーぞ」
「あの……私は別に定価でもいいんですがそこのキャベツを一玉だけくれませんか?」
「ふん。この店にはもう定価のキャベツはもう無いからそれは通用しないね」
この人は一体何を言っているのかとキャベツの山を見ると、いつの間にか全てに値下げシールが貼られていた。
遠くで半額シールを貼る係の人が親指を立ててお買い得だから好きなだけ買っていってくれとアピールをしてくれた。
「何で貼っちゃうの〜」
目の前の人達は飢えた狼の様な目でセール品を狙っている。
――もしかして私とんでもない場所に来ちゃった?
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