第11話
私は集めてきた材料を机の上に広げた。
必須素材の朝露(あさつゆ)の雫。
傷薬の湿布薬。
水の調合に使う食材一式。
――こんなので本当に高品質のアルティメットポーションなんて作れるのかな。
けど、ここまで来たからにはもう後には引けない。
今の私の全力をぶつけないと。
「よ〜し。がんばるぞ〜」
何を隠そう、私は愛読の料理漫画を参考にリドルグルメをちょくちょく作っているのだ。
私はまず錬金釜に水を入れて釜の下に火をつけた。
水が沸騰して熱湯になった所でラーメンのスナック菓子を投入する。
お菓子の固いラーメンがふやけて普通のラーメンになったところで駄菓子のビックカツを投入してからコーラをたっぷりと釜に投入する。
――ここで豆知識。
コーラにはお肉を柔らかくする効果があるんだよ〜。
――ん? 何か視線を感じる?
「あれ? 何か周りの娘達が私を見てる?」
まあ、皆が錬金術の調合をしている中で私だけ料理をしてるから目立つのは仕方が無いんだけど、これも調合に必要な物なんだから今は料理に集中しないと!
カツが柔らかくなった所で割り箸を投入してメンマを作る。
最後に隠し味のバニラエッセンスを入れて完成!
――なんだけど。
「あっ!?」
私はバニラエッセンスの入っている瓶を落としてしまった。
周辺にバニラの心地よい香りが広がっていく。
「これを入れないと完成しないのに〜。あ〜もう私のバカ」
私は持ってきた材料の中に代わりになるものが無いか必死になって探すと手にひんやりとした物が当たった。
「こっ、これなら!?」
私はとっさの機転でバニラアイスを釜に放り込んだ。
バニラって付いてるしきっと似たようなアジになるはず。
それにバニラアイスもラーメンもとっても美味しいから美味しいものを組み合わせたなら絶対に美味しくなるに違いない。
いい感じに煮えてきた所で出来た料理を丼に入れる。
「名付けて美里特性。バニラコーララーメンだよ〜」
――けど、調合に必要なのはラーメンのスープだけなんだよね。
う〜ん。捨てるのは勿体無いからここで食べちゃおっと。
私はズズズとラーメンをすすって食べ始めた。
調合する時間を考えると少し急いで食べないと。
「――あら、美味しそうね」
「うん。とっても美味しいよ〜」
隣で調合している娘が話しかけてきた。
「けど、そんなの食べてて調合は大丈夫なの?」
「うん。ズズ……これは……ズズ……調合に……ズズ……使うの」
「調合に? ははん、なるほどね。良かったらそれ後で作ってね」
「いいよ〜」
隣の娘は自分の調合に戻っていった。
――やっぱり凄い娘になるとこれが調合に使うんだって解るんだな〜。
「よしっ。完食!」
私はオーマイ美里と叫びたくなる衝動を抑えながら、残ったスープと他の材料をもう一つの錬金釜に全て入れてアルティメットポーションの作成に入る。
「よ〜し。くるくる〜」
私は普段の三倍のスピードで釜の中身をかき混ぜる。
急いでかき混ぜる事で効果が三倍に……はならないんだけど時間の問題でちょっと早めに完成させないといけないから急いでかき混ぜる。
「後30分で時間です。まだの人は急いでください」
審判員の人から残り時間が告げられた。
周りを見たら、もう既に完成してる学校もあるみたい。
「うう〜っ、急がないと〜」
もう完成させる事だけを考えて無心で作る。
「――あと、五分です」
「よ〜し。できた〜」
私は錬金釜の中から完成したアルティメットポーションを取り出した。
ちょっと独特の臭いはするけど、効果は問題ないはず。
――審査の終了の合図の後すぐに調合品の審査が始まった。
審判員はプロの錬金術師が勤めていて、1つづつ調合難易度、品質、ちゃんと使えるかを確認しながら点数を付けて回っていく。
私が審査される順番は後ろの方なのでちょっとだけそわそわしながら審判員さんが来るのを待っている。
――数分後、コツコツと足音を響かせながら審判員さんがゆっくりと私の場所にやってきた。
「――ふむ、君の制作した物はアルティメットポーションだね?」
「はい。結構自信作なんですよ〜」
「どれどれ」
審判員さんはその場で自爆技を使って爆発して軽い傷を負ってから私の作ったアルティメットポーションを飲み始めた。
直後、傷が治りだして全快したみたい。
「ふむ、効果が発動するまで少し時間がかかるみたいだけど性能は問題ないようだね」
――やった。
審判員さんの反応は中々上々みたい。
私は机の下でグッと拳を握って勝利を確信した。
「89点とする」
私は電子掲示板の暫定順位を確認する。
――現在9位だ。
何とか一桁にしがみつけた。
これは中々なかなかじゃないだろうか。
審判員さんは私の次の人の審査に入った。
ちょうどこの娘で最後みたい。
「――ふむ、君の作ったものはエリキシル剤か。学生でこれを作るなんて凄いじゃないか」
「――えっ!?」
私は飛び上がりながら隣の机を見た。
そこには虹色の液体が置かれていた。
参考書で何回か見た事があるし審判員さんも言ったので間違いないと思う。
「…………エ、エリキシル剤!?」
一口飲んだらどんな怪我でも一瞬で完治する秘薬中の秘薬。
錬金術の最終到達地点の一歩手前と言われている、今回のお題で作られる中で最高難易度と言える物がそこにあった。
「よろしい。では今から私は半殺し状態になるから君が飲ませてくれたまえ――ふんぬ!」
審判員さんは気合を入れた後、魔力が審判員さんの中心に集まっていった。
「皆さん、少し危ないから離れていてください」
「ええ〜っ! 今言うんですか!?」
私は必死になって机の下に隠れると、その瞬間に審判員さんは大爆発した。
私は恐る恐る机から顔を出して、どうなったのか確認をするとそこには瀕死の審判員さんが倒れていた。
「だ、大丈夫ですか〜」
「これを飲めば大丈夫だから安心していいわよ」
私に声をかけてくれた隣の娘はそのまま倒れている審判員さんにエリキシル剤を飲ませた。
――ゴクッ。ゴクッ。
「――あ、あれ?」
――なかなか審判員さんが立ち上がってこない。
本当に本物のエリキシル剤なんだろうか?
その……別に本物かどうか疑ってる訳じゃないんだけど、実際に見るのはこれが初めてなんだから少しだけ心配というか。
私はゆっくり、そ〜っと、慎重に、ノロノロと足音を立てずにすり足で審判員さんに近づいて行く。
「大丈夫よ――ほら」
「えっ? ――――あっ!?」
審判員さんは指を少しピクピクとさせた直後、バッと立ち上がり空中で一回転くるりと宙返りをしたあとにポーズを取りながら着地を決めた。
「わ〜。すご〜い」
私はたまらず拍手を送った。
私の拍手にあとを押されてか周りの人も拍手を始めて、まるで演技を終えたオリンピックの体操の選手に喝采を送っているようだ。
しばらくして拍手が終わり審判員さんが審査を始める。
「傷が完治しましたし、エリキシル剤で間違いありませんね」
「この日の為に頑張ってきましたもの。当然です」
「ふむ……95点ですね」
――ガーン。
最後の最後に今日の最高得点を叩き出されて私は10位に落ちてしまった。
「効果が効いてくるまで少し時間がかかるようですね。次回は更なる完成度の物を期待してます」
「ありがとうございます」
――私は後片付けをしてトボトボと二人の待つ控室へと帰っていく。
「ちょっと待って」
「えっ?」
私は後ろを向くと私の隣でエリキシル剤を調合した娘が私を呼び止めたみたい。
「えっと。何かな〜?」
「貴方の実力はこんなものじゃないでしょう? 去年99点を取った貴方ならもっと凄いのを作れたはずじゃないの?」
「あはは〜。去年は先輩が凄かったからね〜」
「……次の大会までにサポート出来る人が入部してくれるといいわね。――貴方とは本気の勝負がしたかったわ」
それだけ言って、その娘は自分の学校の控室へと帰っていってしまった。
――本気。
――本気か。
一応、エリキシル剤のレシピは頭の中には入ってたんだけど一人だと厳しいかなって少し簡単なアイテムを選んだのが失敗だったかな〜。
あはは〜。せっかく希ちゃんが頑張ってくれたのに私は10位か〜。
……あれっ、何だか悲しくなってきた。
けど今先輩の私が情けない顔をしてたら次の競技の奈央ちゃんに心配かけちゃうよね。
今回は負けちゃったけど、春の大会は絶対に負けられないな〜。
――ううん違う。
次は絶対に負けないだ。
春までに新入部員が入ってくれたらいいんだけど、他の人に頼らないで一人で最上級のアイテムを作れるようにならないとな。
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