第9話

 ――希ちゃんは相変わらず、自分は何もしないで自動で動く掃除機が相手の服を奪い取って勝ち進んでいた。

 希ちゃんと当たった瞬間棄権を申し込む女生徒もいて、もう希ちゃんの無双状態だ。


 そして、なんだかんだで準決勝まで勝ち進んでいた。


「うふ。貴方今回の大会でかなり暴れてるみたいね?」

「う〜ん。希は何にもしてないんだけどなぁ」

「貴方の戦い方って私は好きよ」

「ふ〜ん。そうなんだ……ん? 何だかこのお姉さんおかしい気がする!? 希の危険センサーが大音量で警報を鳴らしているよっ」


 今回も希ちゃんは試合が始まった瞬間、相手の服を吸い込んだ。しかし……。


「あれ? 何ともない?」

「うふふ。私の事を知らないようね。私は服を脱いだ姿を他の人に見せつける事が好きなのよ!」

「なんですと〜」

「さあ、今から私と燃えるような熱い戦いをしましょう」

「――棄権します」 

「――は?」

「棄権するよっ。希はこれ以外の錬金術で作った道具持ってきて無いし」

「ああ〜ん。せっかく私の体を皆さんに見せつけられると思ってたのにぃ」


 希ちゃんはそのまま会場を後にして私達の待つ控室に帰ってきた。


「う〜ん。もっと行けると思ったけど、とんでもない人が残っててよぉ」

「……コホン。戦い方はともかく希ちゃん4位なんて凄いよ〜」

「……そうですね、私としては次はちゃんと希ちゃん本人も戦って欲しいんだけど」

「そうだね、次の大会から本気だすよっ」


 希ちゃんはそのまま寝転がってゲームをはじめた。


「先輩、もしかしたらいきなり優勝出来ちゃう可能性が出てきましたね」

「そうだね、けど次から私達は人数が少ない状況で戦わないといけないからそこが心配だよ〜」

「そう言えばそうでしたね……ああ、後二人部員がいれば……」

「今更言っても仕方ないよ。今回は私達で頑張ろ〜」

「そうですね、先輩頑張って来てください」

「うん。行ってくるね〜」


 希ちゃんの次は先輩の番だ。

 普段はゆるふわな人だけど、錬金術に関してはとっても努力家で去年も好成績を残した凄い人だ。

 先輩の結果次第では優勝も見えてくる。

 頑張って下さい、先輩。


 ――美里は調合の会場に到着していた。

 殆どの学校はメインとサポートの二人体制で挑むので、かなりの苦戦を強いられるだろう。


「さてと準備をしないとね〜。――えっと私の場所は……あっ、あそこか〜」


 ――美里は自分が調合を行う場所へと向かっていた。

 会場には学校毎に決められた調合場所が用意されていて、そこには2つ錬金釜が用意されていて2人で協力して1つの調合アイテムを作りだす。

 料理のメインシェフと下ごしらえ担当みたいな感じだ。

 一応人数が足りない学校は1人で2つの釜を使うことも許可されているけど、同時調合は失敗するリスクが高いので基本的には1人で1個の釜を使うことになる。

 

 自分の競技場所まで辿り着いた美里に隣の場所にいる人物から声をかけられた。



「――あら? 貴方は前回の。ふふ、お久しぶりね」

「あ〜。確か前回二位の。えへへ〜、久しぶりだね〜」

「――前回はお互いサポートでの参加でしたが今回はお互いメイン調合師のようですね。前回はしてやられましたが今回は私が勝たせていただきます」

「うん。私も負けないよ〜」

「――ところで貴方のサポートメンバーはまだいらっしゃらないのですか?」

「今回は私1人で参加なんだ〜」

「――えっ!? 1人で上位を狙う気なのですか? ――くっ、私も舐められたものですね」

「ああ、そんなんじゃないよ。実は私の学校今年は部員の数が少なくてね〜。出場するのでギリギリだったんだ〜」

「あら? 去年は随分と部員がいらしたと思いましたけど」

「あ〜。その人たちは全員三年生だったんだ。私以外が全員卒業しちゃって今年は新入生の二人と参加なんだ〜」

「――そんな理由があったとは知らず。失礼を言って申し訳ありませんでした」


 隣の女生徒は深々と頭を下げた。

 結構礼儀正しい娘なのかな? まあ私は別に気にしてないし、そんな事しなくてもいいんだけどな。


「ううん。別に気にして無いからいいよ。それに上を狙うのは本当だしね」

「そうですね。こちらは2人がかりで行かせていただきますが、やるからには手加減はしません」

「こっちも負けないよ!」

「どうやらそろそろ始まる様ですね。それでは私はこれで」

「うん。またね〜」


 会場にある高台に審判員が上がって封筒から紙を取り出した。

 調合の試合は1つの会場に参加者全員が集められ、審判員がお題を発表してから外に設置されている巨大な倉庫に材料を取りに行って調合を開始する。

 つまり人数が多いと何を作るのが2人で相談をする事もできるし、手分けして材料を調達する事も出来る為、品質のいい材料が手に入り易いのだ。

 早速、審判員の口から今回のお題が発表される。


「今回のお題は薬とする。制限時間は3時間、それでは調合開始だ」


 薬……薬……。

 最高難度のエリクサーかエリキシル剤を作れば満点は貰えると思うんだけど流石に1人だと難しい……かな?

 まあ、二人でもかなり難しいんだけど。

 ――ここはポーションで行くのが無難だと思う。

 少しいい材料を使ってハイポーション――いや、アルティメットポーションで行こう。

 流石に学生でエリクサーなんて作れる人なんてそうそういないし、無事に完成さえすればかなりの高得点が期待できそう。


「よし、決まった!」


 周りを見ると、他の生徒も作る品物が決まって倉庫へと走り始めているみたい。

 私に話しかけてくれた娘も何を作るか丁度決まったみたいで、サポートの娘に指示をだしている。

 ――今回は私1人しかいないんだ。少しでもいい材料を手に入れるために急がないと。

 私は精一杯の力で倉庫へと駆けていった。


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