第8話
受付を終えてから数分後、早速希ちゃんの戦術競技が始まった。
「――えっと、ルールは」
私はガイドブックを取り出してルールの解説を確認する。
今回は1VS1の対戦で一片が50メートルの四角いリングのような場所で戦って相手を場外へ落とすか、戦闘不能にするか、相手が降参すれば勝ちになるみたい。
武器の使用も認められているけど条件があって、錬金術で作成されたものに限るって書いてある。
――つまり、錬金術で作った物なら剣でも爆弾でも好きなだけ使用可能って事。
ちなみに試合はトーナメント方式で行われて、順位によって学校にポイントが振り分けられる。
調合、採取の競技でも順位によってポイントが与えられて三種目のポイントの合計が一番高い学校が優勝になるってわけ。
――私は少し心配になって希ちゃんの対戦相手を確認する。
「――えっ!?」
希ちゃんの対戦相手は去年も戦術競技に出て四位だった人みたい。
これは、知らせた方がいいのかな。
――けど、相手が強いって知って緊張しちゃうかもしれないし、あ〜もう一体どうしたらいいの。
リングの横に置かれているベンチで試合開始を待っている希ちゃんは、相手の事を知らないのかベンチの上に寝転んで携帯ゲームをしていた。
「ああもう。もうすぐ試合が始まるっていうのに……」
「まあ、今は希ちゃんを信じて見守ろうよ」
「そうは言っても心配だというか――そういえば先輩は去年も参加したんですか?」
「私は去年は先輩のサポートで出場したよ〜。確か去年は総合二位だったかな〜」
「へ〜そうだったんですか」
二位なんてかなり好成績じゃないか、サポートと言っても先輩もかなり貢献したんだと思うし。
……ん? 二位?
「あの……先輩。二位って上から二番目の二位って事ですか?」
「そうだよ〜。他に二位なんて無いでしょう? ふふっ奈央ちゃんも面白い事言うんだね〜」
「いやいやいや。その――実は私達の学校って錬金術の名門校だったりするんですか?」
「えっと、まあどちらかと言うと、学校がってより先輩達が凄かったかな」
「卒業した先輩達がですか?」
「色々と破天荒な人達でね〜。錬金術の才能は凄かったんだけど問題も少し多くてね、そのせいか最初は多かった部員も最終的には二年生の部員は0で一年生は私だけになっちゃったんだ」
「それは、その……なんと言うか……」
「あ〜。私は色々とあったけど楽しかったよ。先輩達のお陰で私の実力もどんどん上がっていったしね〜。今だから言うけど私って入ってから基本の中和剤を作れるようになるまで三ヶ月もかかったんだ〜」
先輩って天才タイプかと思ってたけど意外と努力の人だったんだな。
「ま〜そんなこんなで、先輩達が卒業して私一人になっちゃった時に二人が入部してくれてすっごく助かっちゃったな。私一人だと人数不足で廃部になる所だったしね〜」
「けど、また廃部の危機になってますが生徒会と何かあったんですか?」
「……まあ、先輩達は調合に失敗して部室を爆発させる事も多かったからね。実力以上の無理な調合ばっかり挑戦して2日に一回は大爆発が起こってたかな〜。凄いときは部室棟が丸ごと吹き飛んだ事もあるんだよ〜」
「……ああ、だから他の建物に比べて部室棟だけ建物が新しかったんですね」
「そんなこんなで生徒会に目をつけられちゃって、大会で上位を取れなければ廃部って条件を言い渡されちゃってね〜」
「――それで見事達成してしまった訳ですか」
「そうだね〜」
「それで残りの部員が先輩だけになって、人数不足で自然消滅するはずだった錬金術部がまた復活して生徒会の悩みが再発してしまい次は優勝をしないと廃部と言う条件持ちかけられたと?」
「多分そんな感じかな〜」
「卒業した方達って色々と凄かったんですね」
「そうだよ〜。――あっ、そう言えばたまに遊びに来るかもとか言ってたからそのうち会えるかもしれないよ〜」
「う〜ん。会いたいような、怖いような」
「奈央ちゃんも実際に会ったら仲良くなれると思うよ〜。――あっ、そろそろ希ちゃんの試合が始まるみたい」
先輩の声に反応して希ちゃんを見ると、まだ寝転びながらゲームしてる。
ああ〜もう、なかなかリングに入らないから審判の人に注意されちゃった。
――あれっ? 何か審判の人に抗議してる?
なんか、リングの真ん中で駄々をこねて審判の人が困ってる……。
審判の人が判った判ったといったジェスチャーをして希ちゃんから何かを預かってチェックを始めてる。
「あれって、さっきまで希ちゃんが遊んでた携帯ゲーム? まさか試合中に遊ぶつもりなの?」
「あ、あはは〜。希ちゃん頑張って〜」
先輩は若干引いてるし、本当に大丈夫なの?
――戦術競技のリング上、希ちゃんは相手と向き合っていた。
「貴方。私相手に随分と余裕みたいね? 私は去年ベスト4だったのよ」
「へ〜。凄いねぇ」
「くっ、なんなのその態度! 私は去年4番目に強かったのよ!」
「けど希は去年出てないから凄さが解らないよ」
「つまり、貴方が去年いたら私より上だったと? あははっ面白い事を言うのね。まあいいわ、試合を楽しみましょう」
「う〜ん。希はゲームやってた方が面白いんだけど」
「本当に何なのよその態度は! いいわ始めから本気で行って一撃で終わらせてあげるわ!」
――応援席で私と先輩は希ちゃんの試合を見守っていた。
「――あの。何か希ちゃんの相手凄く怒ってるみたいなんですけど」
「ハッ。これはもしかして相手を挑発して試合を有利に進めるための戦略なんじゃ!?」
「……いえ、普通に会話をしてただけだと思います」
――試合開始のゴングがなったと同時に4位の人が希ちゃんに突撃していった。
4位の人の手には2メートルくらいの大剣が握られていて、それを軽々と扱っている。
「先輩、あんなに大きい剣使ってもいいんですか!?」
「錬金術で作られてる剣だったら大きさとかは関係ないの、それに重さもかなり軽く作られているみたい」
「だからあんなに軽々と扱っているんですね。って、錬金術の腕前もかなりの物を持ってるみたいじゃないですか。あ〜希ちゃん怪我だけは気を付けて……」
私の心配など知らずに、希ちゃんはリングに寝転びながら携帯ゲームを始めている。
スキだらけの希ちゃんに4位の人が剣を振りかぶって思いっきり斬りかかった。
――そして、宣言通り勝負は一撃で決まった。
「えっ? 斬ったはずなのに何で無事なの? こうなったらもう一回……あら? 何か会場の様子がおかしいような?」
「はい」
希ちゃんはカバンから鏡を取り出して相手に今の自分の姿を見せた。
4位の人は一瞬何が起こったのか理解できないと言った表情をした後に悲鳴をあげた。
「……えっ…あっ……キッ、キャーッ。ななな、何で私の服が」
「ふっふ〜。それはこれの事ですかな?」
希ちゃんはいつの間にか持っていた掃除機の中から相手が着ていた服を取り出した。
……あれは、この前私が間違えて作ってしまった服だけを吸い込む掃除機だ。
暴走しないように厳重にしまっておいたのにいつの間にか無くなっていたんだけど、希ちゃんが犯人だったのか……。
「あっ、手が滑ったぁ」
希ちゃんはそのまま場外に服を投げ捨てた。
「――どうするの?」
「きっ、棄権しますぅうう」
4位の人は服を拾って控室の方に走って行ってしまった。
――希ちゃんは一番危険な戦術競技を選んだんだと思ってたけど実際は違ってたみたい。
希ちゃんは一番何もしなくてもいい競技を選んだのだった。
――それ以降の対戦も希ちゃんは服だけ吸い込む動く掃除機で女生徒の制服を脱がして戦闘不能にするという外道としか思えない戦略で勝ち進んでいくのだった。
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