第7話

 お昼時。いつもは雪とともに摂るものだが、今日はなぜか違い、今は智乃と昼を摂っている。


 「あのべったりな彼女さんが急にご飯は一人で食べてって。何か心配とかないの?」


 「あー? うん。特には。でも朝も言ったけど夢と同じ事にはならないことを願うだけだな」


 「夢って?」


 「ん? イジメ。何かガラの悪い女二人に難癖付けられて、そんで助けに入ったら殴られて俺が宙に吹き飛ばされたんだよ」


 そっと腹をさすってみせる。

 高笑いは申し訳ないと踏んだのか、はしたなくだが箸先を口にはさみ笑いを堪えている。

 

 「そこまですんならもう笑われたほうがましだよ。てか女子に男の体を浮かせるほどの力はないからな? 現実じゃなくて夢の中でのことだからな?」


 「わかってる分かってるって。夢の中でとはいえ、女に喧嘩で負けたのが悔しいんだろ? 可愛い一面じゃないか」


 「可愛くなんてねーだろ」


 ぶっきらぼうに答える。

 実際に言われてみれば、俺の胸の違和感は、まさにそれだったのかもしれない。

 現実ならば女に負けることは弱すぎなければ、もしくはその女が強すぎなければありえないことだろう。

 ありえないと否定しながらも、実際にそうなってしまったという現実を受け止めることが出来ず、胸に違和感が残ったのかもしれない。


 「……でも、もし違ったら」


 「ん? なにが違うって?」


 「……俺ってさ。恋、してるのかな?」


 この胸に出来た蟠りは来いなのかもしれない。

 そうとしか考えられない。

 きっと先ほど智乃に言われたせいかもしれないが、現状それしか浮かばないのならばそれが真実になるのだろう。


 「恋って……そりゃ彼女いるんだからしてるでしょ」


 「……まぁそうかもしれないけど。でもそうじゃないんだよ」


 「そうじゃないて……まさか二股かけたいとか?」


 訝しそうな顔で聞いてくるが、適当にあしらう。


 「なんか覚めたっていうか、そこまで好きじゃないんだけど、それでも偶に、っていうか、さっきの夢の時に雪がイジメられてた時に胸に変化違和感があったんだよ」


 「はぁ!? 覚めたってあんた何様よ!」


 「彼氏様だよ」


 「……でも。それはイジメられたのが気に食わないとか、好きな人が嫌な目にあうのは嫌だってことじゃないの?」


 諦めたように言ってくる智乃に、若干と納得をしながら弁当に箸を刺す。


 「好きな人が・・・・・嫌な目にあう・・・・・・のは嫌だ・・・・、ね」


 「そうよ。だって昔イジメられてるアンタを見てて私も嫌だったもん」


 「昔って……そいつは嬉しいこったな」


 「ふふっ。私の気持ちに気付かなかった鈍感さん」


 「なんだい? そんな鈍感に好意を向けてきていた物好きさん」


 正直驚きだが、よく考えてみれば、昔、だ。ならば今ここで証明しろとは言えないし、確かめる方法もない。

 普段ならばきっと高揚するのだろうが、冷静に考えればそんなものだ。

 でも、好いていてくれたというのは胸の中に留めておいてもいいだろう。


 しばらく二人は口を閉じた。

 整理の時間だろう。

 一人は告白をされたことで、一人は言われた原因が本当に『好き』なのかということなのかということで。


 そんな静寂が僅かにも起こっていた事で油断していたのだろう。

 俺は完全に気が抜けていたのだろう。

 予測線はあったが、予測や警戒をしなければ、そんなものは意味のないものにないってしまうのだろう。


 「――卯園くん! 卯園くんッ!!」


 「どど、どした!?」


 焦った様子で現れたのは、小柄で俺の肩ほどまでしかないほどの腰ほどまで伸びた髪を汗で湿った頬に引っ付けた少女、雪と親しくしている下篠したしのゆうだ。


 どこかから走ってきたのか、元から運動が苦手な下篠でも以上なほどに息を切らしており、汗も目に見えるほどにはかいている。


 「ゆきが、ゆきがっ」


 「おうおう、ひとまず落ち着いて深呼吸なー」


 「いや、ない……っ」


 息を切らしまともに話が出来なさそうにまである下篠をあやすが、それを嫌がるように差し伸べた手を弾く。

 それをみた智乃が面白くなさそうな顔を向けるが、下篠は臆する様子を見せず、俺の肩を力強く握り締めてきた。


 「雪が屋上でイジメられてるんだッ!」


 ゾワっと、体の置くから湧き出るものを感じた。

 月汰のことを汲み取ってか、智乃は机に広げてある弁当を片付け始めた。

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