第5話
「ふーん。じゃあ彼女さんがすきすぎて夢まで見ちゃったのか」
妹が呆れたように程よくほぐれているじゃがいもを突いていた。
本当ならば注意すべきものなのだが、既に卯園家では見慣れた光景で、親であり、叱るはずの立場にいるはずの親も、そんな妹の行動を楽しそうに見つめているだけだ。
「好き過ぎてって部分は訂正だけどな。まあその内容が少しばかし変なものでな」
「変って? 性格が変わっちゃってたとか?」
「いや、性格は同じなんだけどな。ただいじめられてんだよ。それも二人掛かりで」
「うはー。それは純情なお兄ちゃんには辛いねー」
「だから純情ってところは訂正しろ。でもそれで何か妙に心がざわついてな」
そっと自分の胸に拳をあてる。
なぜあんなにも感情の突起が表れたのかが分からない。
既に感じなくなって入るが、早鐘の鼓動の感覚が未だに胸に残って違和感しか覚えない。
怒ったような感覚や、独占欲にも似た言動をしていたことや。
何もかもに違和感を持ってしまう。
普段では抱くはずもない感情を、いや、抱いているかもしれないが、それが分からないほどのもので、それが今回、認識できるほどまでに膨れ上がったのだ。
違和感があって当然というものなのだろうが、なぜか引っかかってしまう。
違和感が、普通の違和感ではないと感じてしまうように。
「おにーちゃーん! ぼーっとしてたら冷めちゃうよー?」
「ん? あ、ああ」
妹に呼びかけられ、ようやく箸を動かす事が出来た。
しかし引っかかる違和感。
なぜあの時に、夢の中なのに抱いてしまったのか。
「本当になんでだろうかね」
「さぁ。でも彼女イジめらRて怒らない彼氏はいないでしょ」
俺の不意に呟いた一言に返してくれた。
彼女でも好きじゃないと言いそうになるのを何とか堪えると、再度、ため息を吐いてしまう。
「もう、ため息ばっかして。ご飯全然進んでないじゃないの」
「……ああ。なんか調子で無くてな。母さん、悪いけど残させてもらうわ」
「え、えぇ。それはいいんだけど……
「ちょっ、お母さん!」
「へぇー。妹よ、一つ、忠告をしてやろう。ヒロインにはまだ早いぞ?」
ニマニマとしながら俺の最大の決め顔で言ってやる。
すると妹は先ほどの母さんからの暴露のように恥ずかしがるような素振りは見せず、無造作にはしたなく箸をテーブルに置いた。
纏う雰囲気から分かるが、最低でも絶対にテレていないことだけは分かる。
「誰が私がお兄ちゃんのヒロインだって?」
「えっ、い、いや、それは言葉の綾というべきものというべきか……」
「……はぁ、もういいよ」
先ほど俺が吐いたのと似せるように、肩を揺らし、深く息を吐いた。
そんな妹を見ていると、ふと、呆れにもにたようなジト目を向けてきた。
「でも彼女がいるのにそんなこと言うなんて。お兄ちゃんはホントに変わらないよね」
折角彼女が出来たのに、といつも多い一言を付け足してくる。
俺はそれを軽く受け流すと、もう一度、母さんに謝りを入れて席を立つ。
「俺はもう寝るから。風呂も朝入るから戸は閉じちゃっていいからなー」
「わかったよ。お兄ちゃん、最近おきるの遅いから明日は早起きしなよ?」
「おうおう、分かってるって」
ひらひらと、手の甲をだらしなく振ると、居間から出た。
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