第12話 歌姫と炎の試練
「まだ準備途中なんだけどなぁっ?!」
そんなことはかまわずに、戦闘は始まるものです。
空から落ちて来たように見えた炎の魔獣。多分実際は火山からの大ジャンプか、近くの森にいたかなんだけど。……いや、後半ナシで。こんなでっかいやつ、10メートル離れてても気づくわ。
なんて考えてたら、大きな口がウチに向けて開いていた。
やばい、マミる。
途端、体がとっさに動いて、立体音響を魔獣の口と垂直になるように立てる。いわばつっかえ棒ですな。魔獣の口を開いたままにできるってすごい金属の強度。奮発した甲斐がありました。
開いたままの口の奥、喉から黄色い光が見える。
あ、これドラゴンで見た。炎来ます。
魔獣の下顎に足を引っ掛け、立体音響に声を当てれられる態勢に。
個人的に殺意マシマシで伴奏石をひねる。
倒さないといけないし、致死性の高そうな歌でもいいよね?!
「♪お願いキスで目を覚まして欲しいの 白い棺から連れ出すように 」
「キス」の「キ」で冷気がどっと溢れ出し、黄色い光が白く塗り替えられる。
いよっ、さすがは「白雪姫」の歌。
今ばかりは「白い雪を呼び出す歌姫」だけど!
ラチがあかないと感じたのか、魔獣がブンと大きく顔を振り上げる。
ウチ、飛ぶ。わー高ーい(白目)。
ここで他のみんなが現状を受け入れ、戦闘を始める。落ち始める頃には、ラクトとランスの刃の煌めき、アーサーの炎吸収、サビナの水魔法、カシスの植物魔法が見えた。
って、落ちてますやん。
「♪紅、黄金に彩られ 揺れる木々たち横切りながら……」
ひねられたままの伴奏石から和風なメロディが流れ、それを合図に風の歌を歌う。もちろん立体音響は地面に向けて。
なんということでしょう、発生した風のおかげで落下被害を受けずに済みました。
ですが、地面と接触した途端に、炎の魔獣がこっちに向かってくるではないですか。
「マリ!!」ランスの声が響き渡る。
「♪君は王女 僕は召使い」
黒曜の爪が抉った地面。そこにウチは確かにいた。
でもウチはその反対側、ラクトたちのそばに瞬間移動。
双子な偽物で、逃がされる姫の歌。自分なりにもお見事な判断力。
……さて、おふざけは終わりにしたいところ。
今の所見た限りでは、この魔獣はウチだけをターゲットしている。
属性は炎。氷や水に関する歌はないと思え。
つまりはアーサーと同じ戦法で行けばよし。
でもあの時と同じ弾幕爆破だと一撃一撃の威力が低い。とはいえ一発で決めるタイプの印象を持つ原曲は発動が遅そう、そして一発では沈まないかもしれない。
確実に火力を、となりますと……あの歌だ。でも一人だとちょっと辛いかな?
……いやいや、今から「十人分裂」は時間がかかりすぎる。
よし、原点回帰といきましょうか。
立体音響をくるりとこっちに向け、「ビーム」モードにする。
伴奏石から流れる、ギターとドラム。
ウチの隠し芸、とくと味わえ。
「♪白いイヤホンを耳に当て 少しニヤッとして合図する」
「♪染み込んだこの温度が」
「♪ドアをノックした瞬間に溢れ」
「♪そうになるよ まだ見えない? 目を凝らして臨む争奪戦」
「♪あの日躊躇した脳裏から」
「♪今だ、取り戻せとコードが鳴り出しそう」
信じられるか?
これ、全部ウチ一人だぜ。ぜーんぶ違う声。正確には「PVで中心になったキャラの声真似」。
はい、一人で全員演じるくらいは声真似が自慢です。
ちなみに複数人まとめて歌ってそうな部分は地声な。
使う声が増えるたびに、立体音響から溢れる熱と魔力の光の筋が増える。紫、灰色、赤、水色、緑、ピンク……。
なんともカラフルな熱線。まだまだ増えますよ。
炎の魔獣は炎のカーテンをまとって、光線をしのいでいる。うん、まだしのげるかぁ。
じゃあもっと増やさないとな。こっちの攻撃を全て守っているなら攻撃できないでしょう。
そう思ってました。
やばい。ラスサビが近いのに、全員の声が出たのに。
なんでまだバリアー突き破れてないのん?
「♪少しだけ前を向ける」
まずいまずいまずい。これで全員の声だ。ラスサビ前はちょっと静かになるから威力ががくんと落ちる。バリアーなしでもこっちに近づいてくる。
『その程度か、邪悪の王の飼い犬よ。』
そう笑う声が聞こえる。
あぁ、がめおべらだなこれ。
二回は死にたくなかったんだけどなぁ。
今度死んだら、どこに行くんだろう?
別の場所で、記憶も抜けて?
それとも今までの成果リセット?
はたまた本当に死?
どれも、嫌だ。
「♪少年少女前を向け」
……あれ、ウチそこ歌ってない。
なんでサビナが歌詞を知っているの?
「♪眩む炎天さえ希望論だって」
ラクトまで?!
そういえば炎の魔獣が歩くのを止めている。
あの眼差しは、もしや、驚き?
「♪思い出し 口に出す」
「♪不可思議な 出会いと別れを」
カシス、アーサー、どこでウチの歌を覚えたの?
周りが暗い。いや、ウチたちに光が集まっている?
「♪ねぇねぇ突飛な世界のこと 散々だって笑い飛ばせたんだ」
ランス、ううん、みんなの手が、ウチの背中や腕、肩に当てられる。
暖かな力が流れ込む。これが、魔力?
みんながウチに力を分け与えてくれている、そんな気がして。
「♪繰り返した夏の日の向こう」
もう、迷わない。
『——♪合図が終わる』
頭に響いた知らない女性の声を合図に、ウチたちは一斉に声を張り上げた。
「「「♪少年少女前を向け 眩む炎天さえ希望論だって ツカミトレ ツカミトレと 太陽が赤く燃え上がる……」」」
歌姫のウチの声を土台にまとまる、みんなの歌。戦士や盗賊の力強い声、魔法使い二人の炎を帯びた声、大自然と調和するハーフエルフの声。
全ての集大成が、炎の魔獣に突き刺さる。
もう、バリアーなんかも意味をなさない。
「「「♪感情線の メビウスの先へ!!」」」
歌が終わり、そこに残ったのは。
脳天がえぐれ、焦げ付いた狼の亡骸だった。
「……これで、三体終了だね。」ふ、と一息つくと、他のみんなが変な表情。どうしたの。
「ねぇ、僕たち、さっきまで何してたっけ?」カシスの一言で気づく。
こいつら操られてた。そりゃウチの歌に突然ハモり入れられるわけですわ。
……じゃあ、誰に?
ウチは不可能として、誰が可能か。
結論は出たけど、いささか信じられない。
「神のみぞ知る、かなぁ。」
あの光、あの温もり。気絶していたときに感じたアレとよく似ていた。
そして大人三人(二十歳行ってる組のことをウチはこう頭の中で呼んでる)の密かな会議の内容からして、『女神』が助けに入ったんだろう。
確かレグシナは勝利の女神。女神様のおかげで勝てたも当然。
でもこんなに地上に影響及ぼしていいんですか、女神。
ま、いっか。みんな生きてるし。
「さて、次はどっちへどれくらい?」
アーサーの予測を聞いて崩れ落ちるまで20秒。
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