第四話 『未来』

「美味しい! これ……ッ! ンぐッ! すっごくッ! 美味しいよ!!」


「そりゃアレと比べればな」


「お部屋もいっぱいあるし、広い!!」


 目の前で家の食料プラントで生産された栄養補給パックをせかせかと口に運んでいるの岸薪 真帆。

 小説化の卵というところか。


 俺も以前は小説化の卵でっあった訳なのだが……腐りきってしまった。


「まっ、一人じゃ広すぎると思っていたところだ。好きなだけ居てくれていい」


「…………」


 真帆が急に黙り込んで上目遣いで此方を見て来た。

 可愛いじゃねぇかよ……。


「えっと、ほんとうに……?」


「あ、ああ」


「私の書いたものが正式に書籍として認められるまで、でも……?」


 成る程。そういう事か。

 つまり彼女はこの、執筆をするのに最適な生活環境に居候させて欲しいという訳だ。

 真帆は可愛い。居候させるのあたって嫌な部分などは無いのだが……さてどうしたものか……。


「まっ、お前が俺みたいな男と生活するのが嫌じゃなければそれでも構わんぞ」


「おお! …………顔は、けっこうタイプだわ……」


 最後の方に小声で何かを言ったようなのだが、聞き取れなかった。


「何か言ったか?」


「ううん、別に! それじゃあ早速移住申請を……っと」


「待て待て待て! 自分が言ってる意味わかってんのか? 結婚だそ結婚。居候どころの話じゃなくなるぞ!?」


「えっ……私とじゃ、嫌?」


「嫌……じゃないけどな。お前はいいのかよ。最近じゃクローンによる人口維持が普及して来たのもあって、結婚してる奴なんていないだろ」


「んふふ、もしかしたら私の小説に足りないのってそういう、他の人が経験した事の無い出来事なのかも!!」


 ……一理あるな。


「ふむ……確かにそういった、あまり人が経験していない事を経験するのは悪くないかもしれないな」


「でしょでしょー」


「まっ、俺は一読者兼旦那として真帆の面白い作品が出来上がるのを楽しみにしているさ」


「大船に乗ったつもりで全裸待機していてよ!!」


「ほぅ……全裸待機とな」


「今の冗談だから本当に脱がないでね」


「……チッ……」


 心を読まれた。


「あっ、でもえっと、名前は?」


「平賀龍一だ」


「龍一の電脳アバターの女の子! あの子の裸は見てみたいかも!!」


「おい」


 これは……けっこうな変態を拾ってしまったかもしれない。


「他の人が経験した事の無い体験か……」


「ん? 何か名案があるの?」


「いや、知ってるだろ? 今参加者を募集しているライフマルタゲーム」


「命と……実験体……? なにそれ」


「最初にクリア者に賞金五千兆円。百人チームでクリアしたとしても一生遊んで暮らせる賞金の出るオンラインゲームだ」


「すごい! それに優勝したらすっごい小説書けそうだよね!!」


「ああ……ただし、そのゲームの中で死んだらリアルでも処分される。ブルーエッグが主催のデスゲームだ」


「え……それって、ゲームの中で死んだら現実でも死んじゃうって事……?」


「そうだ。勿論、ログアウト自由途中リタイアが可能ではあるが……上位であればあるほど死ぬ危険が高い。しかも、参加費用で二十万必要だ」


「にじゅうまんえん……」


 真帆があばー、と涎が垂れてきそうなだらしない顔をしている。


「まぁ、結婚するのであればそこは俺が出そう。問題は参加するかどうかだ」


「…………」


「そし真帆が参加するというのであれば、俺も付き合おう」


「えっ……死んじゃうかもしれないんだよ……?」


「面白い作品。読ませてくれるんだろ? なら俺は手伝うさ。ドキドキとワクワクを求める……一読者としての心を取り戻した、この俺がな――!」


「龍一……分かったよ。わたし、そのデスゲームに参加する!! 面白い作品を龍一と読者様に送り届けるために!!」


こうして俺達はデスゲームへと参加していく訳なのだが、続きが書かれるかどうかは別のお話。

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夢の続き ~読んでほしい少女と諦めた僕~ 龍鬼 ユウ @Nikolai-2543

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