白南関攻防戦 04


「つまらないな」

 そう言い出したのは、ジノだった。

「何がだ?」

 遮光服に身を包んだアイザックは、炊煙が上がるトロール軍を眺めているジノの言葉に、疑問を投げかけた。

「ここまで休息なしで戦ってきたトロール軍だからね。今は安息の時間を楽しんでる。たっぷり食事を採り、これから昼過ぎまで眠る気だろう。それがつまらないんだ」

「……ジノ、何を考えているんだ!?」

「アイザックさんは将軍なんだよね?」

「ああ」

「で、ぱっと見た感じ、遮光服を着たヴァンパイアは十人程度。この人数で昨日の昼、あのトロール軍を相手に戦ったの?」

「いや、我らだけの力ではない。白南関の防衛設備はレバー式になっており、ヴァンパイアの力でなくては動かせないが、主にトロールを相手にしたのはヒトの兵だ。まもなくここへ上がってくるだろう」

「やはり。ここではヒトを、兵士として使っていると思ったよ。それで人数は?」

「凡そ二〇〇〇だ」

「成る程ね……」

 ジノは再び、トロール軍に目を向けて、言った。

「ねえ、アイザック将軍。今からヒトの兵五〇〇を連れて、トロール軍左翼に奇襲を掛けてくれない?」

『なな、何だと!?』

 このジノの言葉には、さすがのアイザックも、顔色を変えた。

「無謀だ! ヒトの兵士とトロールでは、個の力が比較にならない。返り討ちに遭うのは、火を見るより明らかだ!」

「あー、違う違う。そんな大それたことを考えているわけじゃないんだ。だってさ、敵さんがわざわざ目の前で休憩してくれてるんだよ? 中には眠っている兵士もいるだろう。そんな彼らが眠るテントに火がついたら、どうなるだろうね?」

「うっ……!?」

 アイザックは、ジノの作戦を吟味した。

 確かに今、トロールはやっと休めると、緊張の糸を切った状態だ。

 幾ら主力のヴァンパイアが眠りにつき、白南関は手薄になっているとはいえ、今この時間は敵味方、双方が完全に“ヴァンパイアがトロールに攻めることはない”と思い込んでいる。ジノの策は、その盲点に手を突っ込んでいるのだ。

「面白いかもしれないが、午後にはトロールが攻めて来るだろう? それに、トロールはまだ一〇〇〇〇を超える兵を擁してるんだぞ?」

「だからこそ今なんだよ。アイザック将軍がヒトの兵士を率いて敵左翼に奇襲を掛ける。すると、トロールにとって休憩だと思っていたこの時間も敵襲があると知ることになる。そうなったら、次はどこを攻められるのだろうかと疑心暗鬼に駆られ、トロール軍全体がおちおち寝ていられなくなるよ」

「!……」

 アイザックとジノの視線が交錯する。

「ヒトの兵士は騎馬五〇〇。私が引き連れ、敵左翼に突入し、火矢を放って奴らのテントを焼き払った後、すぐに引き返す。これでいいのか?」

「結構。くれぐれも敵に手を出さないように。少し入り込んでテントを焼くだけでいい。特に、こちらのヒトに死人を出さないように。ヒトは戦力でもあるけど、ヴァンパイアにとっては貴重な栄養源なんでしょ?」

 若干、ジノの声に感情が込められた。それは、怒りと悲しみとが入り交じった、複雑なものだった。

「それは、そうだな。ヒトはなるべく死なない方がいい。何せ、補充が面倒だからな」

 ジノの感情を察することが出来なかったのだろうアイザックの言葉に、ジノは一瞬、腹の底から怒りの感情がわき起こったが、それをアイザックにぶつけても仕方ないことを悟り、瞳を閉じて感情を鎮めた。

 所詮、ヴァンパイアにとってヒトとは、その程度の存在なのである。

 それを理解しろという方が、難しいのだ。

「……大丈夫。この一手で、トロール軍全体が、また緊張感に包まれることになる」

「留守はジノに任せていいのか?」

「いいよ」

「ならば……やるか!」

 アイザックは両拳をがしん、と打ちつけた。

「ヒトの兵を使うとなれば城門を開かねばない。宜しく頼む!」

「任せてくれ。そちらも、抜かりのないようにね」

「うむ!」

 気付けばアイザックは、自然とジノに片膝を突いていた。


        ★ ☆ ★ ☆


 それから半ハルの後、トロール軍左翼はアイザック将軍率いる兵士に奇襲を受け、睡眠用のテントを焼かれ、阿鼻叫喚の渦に叩き落とされた。

 これを見た本陣や右翼のトロールは、直ちに全員を叩き起こし、警戒態勢を取る。しかしその頃にはもう、アイザックらは白南関の中に逃げ込んでいた。

 正に、電光石火の一撃を食らわせたのだ。

 その頃、ジノのもとに伝信鳥が二羽、飛んで来た。

 その足に括り付けられた書簡に目を通すと、ジノは笑みを浮かべ、予め用意しておいた二通の手紙を伝信鳥の足に取り付ける。二羽の伝信鳥は再び蒼穹を舞った。

「ジノ殿」

 ジノの頭の上から、声が降りかかる。特注の遮光服に身を包んだアイザックが、ジノがいる望楼に戻ってきたのだ。

 アイザックの態度が、大きく変わっていた。それまで「ジノ」だった呼び方が「ジノ殿」に変わるほどに。

「やあ将軍。奇襲は成功したでしょ?」

「ああ。こちらはヒト一人失うことなく、トロール軍を大いに混乱させることができた。素晴らしい戦果だ。我が主も、お喜びになるだろう」

「うん。それはよかった」

「それにしても恐るべきはあなただ、ジノ殿。昨晩、あれだけの戦いを繰り広げ、トロールたちは完全に油断していた。まさか攻めている自分たちが、守る我らから奇襲を受けるなど、夢にも思わなかったようだ」

「だからこそ頼んだんだよ。そうでなければ、五〇〇で一〇〇〇〇超えのトロール軍に突っ込んでくれなんて言えないよ」

「正直言って、その知略、とてもヒトとは思えない。心底、感服した」

「まだまだだよ、将軍。今回の奇襲は、次なる手の布石に過ぎないんだから」

「まだ何か手を打つのか!?」

「いや、今すぐじゃないよ。でも、これで――」

 ジノは、白面姿で表情が見えないアイザックに、こう告げた。

「この戦い、今夜で終わらせられるよ」

 

        ★ ☆ ★ ☆

 

 結局、トロールたちは一食だけ取れたものの、相変わらずの睡眠不足、疲労困憊のまま、その日の午後を迎えた。

 白南関攻防戦の、再開である。

 当然ながらほとんどのトロール兵の顔色は悪く、足取りは重かった。それを将校が必死に鼓舞したが、眠いものは眠い、空腹なものは空腹なのである。

 そんな状態で白南関を攻めたトロール軍だったが、前日に比べて明らかに精彩を欠いていた。まず、地上から十メルのところにある段差に鉤縄を掛け、城壁を上るトロール兵。その動きは緩慢だった。

「放てぇ!」

 そこへ容赦なく、アイザックの号令が掛かる。

 白南関にずらりと並んだヒトの兵士が、下のトロールに向かって矢を射かけた。昨日の猛攻を耐えきった白南関の面々の士気は、確実に上がっている。それに対してトロール軍は、全体的に動きが鈍かった。

 ジノは白南関攻防戦を望楼から眺めていた。

 魔物対魔物の戦いを見るのは初めてだった上に、この白南関がいかに優れた防衛設備を整えているのかを目にして、少し興奮気味だった。

 トロール軍が鉤縄や長梯子を城壁に掛け、それを登り始める。城兵は主にヒトの兵士で、必死に矢を射かけるが、トロールの急所には中々当たらず、二、三本の矢などものともせずに登ってくる。

 そして、頂上付近までトロール兵が溜まりきったところで、アイザックが「今だ、一番レバー!」と叫ぶ。すると、白南関城壁のスリットの右側から巨大な両刃の剣が現れ、勢いよく横に滑った!

 これによりトロール兵が掛けた鉤縄や長梯子がスッパリと撫で斬りにされ、それに捕まっていた兵士たちは、高さ二十メル近くから、地面へと叩きつけられた。さすがに頑丈なトロールでも、その重さが故に地面に激突すると、潰れたトマトのようになっていた。中には、上から降ってくる仲間によって、圧し潰されるものもいた。

「これは、凄い!」

 ジノはその恐るべき破壊力を秘めた巨大な刃に目を奪われつつ、感嘆の声を漏らした。

「何てものを城壁に仕込んだんだ、キリエというヴァンパイアは!」

 一度の跳躍で白南関の高さである二十メルを超えられる種族は、存在しない。

 故に、攻城戦用の兵器でも持っていない限り、鉤縄や梯子が唯一の攻め手となる。それを、巨大な刃によって一瞬にして無効にしてしまうという、えげつない仕掛けだった。

 しかし、トロールも頑健さで売っている種族だ。この程度、一度や二度食らっても、諦めずに鉤縄を投げ、長梯子を掛け、盾で矢を防ぎながらじりじりと壁を上がってくる。

「アイザック将軍、あの刃、連続じゃ使えない?」

「! ……よく分かったな。相変わらずの聡さだ」

「だってあのブレードがあれば、他の仕掛けは必要ないもんね。さあ次は、どんな手かな?」

 ジノの瞳は、爛々と輝いていた。これが戦であり、一歩間違えればトロール軍の侵攻を許してしまう重要な局面である。しかしジノは、この戦いでストーリア公国軍側が負けるとは、露ほども思っていなかった。

「先ほどの発言に加えて、その余裕、その自信……何か、秘策でもあるのか?」

 アイザックが、思わず訊く。

「うーん、まあね。策は練ったよ。でも、この昼を凌がないと話にならない。まあそれこそが、アイザック将軍に課せられた重要な任務でもあるけどね」

「それは、その通りだな」

「しかし、こんなにもヒトの兵士が戦ってくれるなんて……やっぱり、トロール軍にここを落とされたら、真っ先に餌にされるのはおまえたちヒトだぞ、とか吹聴したんでしょ?」

「あまり先を読まれてしまうと、こちらが説明することがないじゃないか」

「やっぱり、そうだと思ったよ」

 ジノは深い溜息と共に、それが紛れもない事実であることを悟っていた。

 今のトロール兵は、皆が餓えている。後ろに下がっても食事にはありつけないし、何より今、頭上に輝く太陽が顔を出しているうちに、白南関を陥落させてしまわなければ、昨晩の二の舞である。

 眼前の壁を踏破して白南関を制圧し、ヴァンパイアの棺桶の蓋を開けて殲滅し、白南関のヒトを余さず食らう。今のトロール軍にとって、食事も睡眠も取れない戦いになった以上、それがどんなに困難でも、下がることは許されない。

 活路は、前にしかないのだ。

 そして、ヴァンパイアにとってはこの昼の時間こそ生命線である。

 しかしジノは、ほぼ確信していた。

 この白南関は……落ちない。今のトロールでは、落とせない。

 故に、皆が緊迫した表情で戦う中、ジノは一人、眉一つ動かさず、大嫌いな魔物、トロールが落ちていく様を冷たく眺めていた。

「ジノ殿。そもそもダークエルフの国グレイウッズと隣接し、彼らと戦っていたトロールが何故、急に我らの白南関を襲ったのか、分かるか?」

 望楼から細かに指示をしながら、アイザックがジノに訊いた。

「それはね、ダークエルフと戦っているからだよ」

「うん?……ど、どういうことだ?」

 ジノは戦いから目を離さないまま、アイザックに説明した。

「トロールはグレイウッズ王国を本気で手に入れたかったようだね。だけど、一方向からの攻撃ではダークエルフを倒せないことを悟った。何せダークエルフは森中の戦いに長けている上に、その弓術は一射で分厚いオーガの胸板を貫くほどだというからね。キミたちヴァンパイアが夜に無敵の強さを誇るように、森の中のダークエルフは最強の狩人だ」

「確かにここ数ヤーズ、トロールは何度もグレイウッズ王国を攻めているが、全て失敗し、撤退を余儀なくされているな」

「そこでトロールは考えた。自国であるブランド共和国側、つまり東からだけではグレイウッズ王国を落とせない。ならば空白地帯を通り、北と東の両面から攻撃すれば勝機はある、とね。ところが、それを許さない国がある」

「成る程、それが我らということか。確かに我らストーリア公国とグレイウッズ王国は同盟関係にある。もしトロールが今の二方面攻撃を行おうとしたなら、ヴァンパイアは北のトロール軍の背後を突くな」

「そういうこと。だったらまずは邪魔な同盟国、ストーリア公国を落とそうと考えたのさ。何せストーリア公国は総兵士数が一〇〇〇程度だからね。トロールは五〇〇〇〇くらいでしょ? 一五〇〇〇も出せばストーリア公国を攻略出来ると、高を括ってたってことさ」

「ははっ、それは浅はかな計算だな。確かに我らは総兵士数で劣るが、個の力をまるで理解していない」

「うん、オレもそう思うよ。戦略的には、あながち的を外しているわけでもない。ただトロールは、三つも大きな誤算をしてしまった」

「それが、この白南関なんだろ?」

「それが一つ。もう一つは、昼の白南関をヒトの兵士が守っているということさ。これが野戦だったら、ヒトなんてトロールに比べれば矮小な存在だからね。簡単に打ち破られただろう。しかし弓矢を上から放たれれば、一本二本程度じゃ効かなくても、何十本ともなると、さすがにトロールとはいえ厳しい。だからオレらフェザーミルは矢を大量に持ち込んできているんだ。トロールたちは、そこを履き違えたんだよ」

「ふむ、それで三つ目は?」

「トロールがヴァンパイアそのものを侮りすぎたことさ。オレがトロール軍の軍師なら、着陣直後の昼にいきなり攻めたりしない。もっと離れた位置で一旦布陣し、将兵をたっぷり休ませてから早朝に奇襲を掛ける。ところがトロール軍は到着し次第、白南関を攻撃してしまった。結果的にトロール軍は僅か二ディエで疲弊し、後ろにも下がれず、落とされると分かっていても白南関の壁を登らなくてはならない事態に陥った」

「!……と、ということは、あの午前中に我らが行った奇襲の、本当の目的は――」

「そう。あれはただ闇雲にトロール軍を攻撃する為にやったんじゃない。ヴァンパイアは昼でも攻められるぞ、という意思表示をしたのさ。その結果、昼に食事し、眠れるはずだったトロールは、その時間も警戒しなきゃならなくなった」

「ジノ殿、あなたはやはり天才だ。ヘネシー様が侍従贄フィーズに選んだだけはある」

「どうも」

 ジノは今、白南関の第二の防衛設備である、等間隔に空けられた外壁の穴から、何やら液体を掛け、それを浴びたトロールが苦悶の表情を浮かべて、その巨体を支える腕の手を離し、仲間を巻き込みながら落下していくのを目にしていた。

「ところでアイザック将軍、あれは何? 酸かな?」

「いや、もっと単純なものだ。誰でも、ヒトでも作れるものだ」

「となると、熱湯かな」

「その通り」

 ヒトも魔獣も妖魔も、熱湯などを浴びせられたら、ひとたまりもない。火蜥蜴サラマンダーならいざ知らず、トロールに対しては、こんな単純な手も大きな武器となるのだ。

「凄いなあ。これがストーリア公国南の国門、白南関か。そんな仕掛けがある場所に、梯子なんか掛けられない。となると、自ずとトロールが上がってくる位置が限定される。そこに待っているのは遮光服を着たヴァンパイアと、矢を番えたヒトってわけだ」

「ああ。昨日の昼は城壁の上まで何体かのトロールが到達してしまったが、そこには必ず一名のヴァンパイア兵と、ヒトの兵数十名を配置していたんだよ」

「そしてトロールたちと戦闘になった。でも、相手はただですら身体が重く、しかも二十メルを登り切ったばかりで、疲れ果てている。討つのは容易いね」

「全てジノ殿の推察通りだ。幾ら力が強くても、足場が不安定な梯子や縄でこの高さを登るのは、相当の体力が必要だ。白南関の城壁を登り切ったトロールは、既にを手負いの状態であると言っても過言ではなかった」

「昨日から飲まず食わずで、ろくに寝ていないトロールじゃ、もう城壁の上まで登る体力は残ってないよ。特に将軍から奇襲を受けたトロール軍左翼はね」

「そこなんだ、私が引っかかったのは。何故、先の奇襲は左翼のみだったんだ?」

「それは今夜になれば分かるさ」

「?」

 ジノとアイザックがそんな会話を交わしていたその時、トロール兵の希望を断ち切る刃が、再び城壁を滑っていた。

 結局、この日の昼。トロール兵は城壁上から射かけるだけで、ぼろぼろと落ちていった。睡眠と食事の不足により、それはトロール兵の疲労がピークに達していた証拠であり、明らかに前日のような粘りがなかった。

 そして結局、トロール兵は一人たりとも白南関の城壁上に足を着けることはなかった。

 トロール兵が上がってこなければ、楽に白南関を守ることが出来る。奇しくも、その面でもジノの言う通りになったのである。

 そしてゴーン、ゴーン、と、彼らにとって絶望の、そして白南関の面々にとっては希望の鐘が鳴り響いた。

 日が暮れたのである。

 それは即ち、ヴァンパイアの時間の到来であった。


        ★ ☆ ★ ☆

 

「アイザック将軍! 昼の奇襲の件は耳にしたぞ。よくやった。それに今日はトロールを一体たりとも寄せつけなかったと聞いている。さすがは我が右腕よ」

 時告げの鐘が鳴った後。

 ゴダードらヴァンパイアは、ヒトの血液を飲んだ後、白南関の望楼に上がってきた。

 無論、その中にはヘネシーらフェザーミル勢の姿もあった。つまりヴァンパイアたちは、万全の体調で、戦場に繰り出せるのである。

「ゴダード様、お褒めに預かるのは光栄ですが、今回の手柄は、ここにいるジノ殿の知力によるものです」

 片膝を突いて頭を垂れるアイザックに対して、ジノはテーブルの上に地図を広げ、バトリアというゲームの駒を手にしていた。

「何と、それではあの奇襲は、そなたが考えたものではなかったのか?」

「はい。それも踏まえて、お願い申し上げます。彼はヒトであり、侍従贄フィーズではありますが、ジノ殿の策を、お聞き入れ願いたく」

 アイザックは、昼間のやり取りで、ジノのことを心の底から認めていた。ジノは、ただのヒトではないということも。

「ジノ、あなた、まさか一睡もしてないの!?」

 ヘネシーが、ジノに問う。

 だがジノは、テーブルの上の盤面に集中し、返事はしなかった。

 ヘネシーの言う通りジノは少しの食糧と水を飲んだだけで、睡眠は取らなかった。

 睡眠欲よりも、集中力の方が勝っていたのである。

 そして、その場にいる者たちを驚かせる発言をした。


『この戦を、今宵で終わらせる』


『!?』

 ジノはゴダード、アリューゼ、ヘネシー、ライバー、ターシャらの前で、駒を地図上の盤面に並べていった。

「ここから敵の篝火を見ると、トロール軍は我らの右手から見て左翼、少し下がった位置に本陣、右翼の順に兵を多く配置しているのが分かる。総数は一二〇〇〇程度と見た。つまり左翼に五〇〇〇、本陣に四〇〇〇、右翼に三〇〇〇だ」

「黙れ、このヒト風情が! ヘネシー様の許可もなく発言して――」と、ターシャ。

「今はあなたが黙りなさいターシャ!」

 ヘネシーに厳しく叱責され、ターシャは「申し訳ありません」と謝罪した。

「ゴダード子爵もジノの話を聞いて。いいわね?」

「は、ははっ!」

 アイザック将軍ならともかく、女侯爵であるヘネシーの頼みを、子爵のゴダードが断れるわけもない。

 そして再び、ジノが語り始めた。

「何故、トロール軍は左翼に兵を厚くしているのか……答えは明白。その後ろに、輜重隊がいるからだ」

 ジノは盤面に置いた三つの駒、即ちトロール軍の左翼の後ろに輜重隊の駒を置いた。

「成る程! だから昼間、ジノ殿はトロール軍左翼に奇襲を掛けろと言ったんだな!?」

「ご名答」

 ジノは盤面に目を落としながら、アイザックに応えた。

「故に、こちらの最大戦力であるゴダード子爵とアリューゼ将軍は、リンカーフォル軍の全軍である二〇〇を率い、左翼を叩いて貰う。敵軍左翼は昼間の奇襲を受けて最も弱っているから、やりやすいと思うよ」

「うむ、確かにそう聞いている。しかし、そこに我が軍を全軍当てるというのは……」

「勘違いしないで欲しい。ゴダード子爵軍は敵左翼を殲滅する必要はない。敵左翼を突き破って走り抜け、そこから左に転回し、敵本陣を側面から突いて貰う」

「ほほう……それは承知したが、では、フェザーミル軍は?」

 ゴダードの問いにジノが言葉を続けた。

「敵中央、本陣にはライバー将軍率いる八十。そして敵右翼には、ターシャが二十の兵を率いて当たってくれ」

「何と、ターシャのところが、何でたった二十なんじゃい!」

 ライバーが、ジノの案に抗議する。

「慌てないでくれ、ライバー将軍。実は昼間、オレの許に伝信鳥が届いた。ヴィオラの働きかけで空白地帯を根城とする“風の旅団”が、すぐそこまで来ているとのことだよ。そこでオレは、風の旅団に夜になるまでこの位置で待機し、戦が始まったと同時にトロール軍の背後へ突撃するよう指示した」

 トン、とジノがナイトの駒を置いたその場所は……トロール軍右翼の、右後方だった。

「風の旅団だと!? それなら納得だ。何せあそこは様々な妖魔が二〇〇〇近く集っている、かなり大きな傭兵団だ!」

 ゴダードが、思わず舌を巻いた。

「となると、トロール軍右翼はターシャ殿の軍と風の旅団の挟み撃ちに遭うのですね?」

 アリューゼの言葉に、ジノが頷いた。

「更に傭兵団からの働きかけで動いてくれた盗賊団が、既にこの位置に待機している」

 ジノがポーンの駒を置いたのは、トロール軍左翼の真後ろ、輜重隊の側だった。

「彼らにも戦が始まり次第、トロール軍の輜重隊を襲い、根こそぎ持って行っていいと伝えてある。トロール軍は正面のヴァンパイア軍を相手するのが精一杯だ。そこにこの二つの援軍が加われば……」

「うん、面白い案ね!」

 ヘネシーが、ジノの案に唸った。

「この戦術はヴァンパイアの強さを見せつけると同時に、トロールに二度と白南関を攻めたくないと思わせる為のものだよ。ゴダード子爵、こちらは援軍として最大限の力を以てこの策を練ったけど、何か異論は?」

「あるはずがない。見事だ。そこまで考え、根回しをしてくれたこと、感謝する」

 ゴダードが、ヘネシーに謝辞を述べる。ジノは侍従贄フィーズであり、その手柄は主たるヘネシーのものだからだ。

「あ、あれ? あたしは? あたしは出陣しないの?」

 そう言い出したのは、ヘネシーだった。

「辺境姫様は待機! 当たり前でしょ」

「えー、あたしも戦えるよー?」

 だだをこねるようなヘネシーに、ゴダードも、口を開いた。

「ヘネシー様におかれましてはこの望楼にて、我らの働きをご覧下さいませ。それにしても、かような策を考えてくれた侍従贄フィーズを見出されたヘネシー様の炯眼に、敬服いたします」

「そういうわけじゃ、ヘネシー様。ここはジノと共に、勝報をお待ち下され!」

 ライバーも、ゴダードに続いてヘネシーを窘めた。

 そしてジノが、ヘネシーに提言した。

「我々フェザーミルは援軍なんだ。古より、戦地では爵位など関係なく、援軍は援軍なんだ。この軍の総大将はリンカーフォルの領主、ゴダード子爵なんだよ」

「む……」

 急に決定権を持つと言われ、ゴダードは少々狼狽した。

 言われてみれば確かに、ジノはヘネシーの侍従贄フィーズであり、ヘネシーが総大将ではない。その権利は、リンカーフォルの領主、ゴダードにあるのだ。

「この策を採り、戦を今夜で終わらせるか、それともこのままずるずると正攻法で攻守を繰り返し、トロールが疲弊するのを待ち、撤退することを祈りながら戦い続けるか。全ては、ゴダード子爵の胸一つだよ」

「……そうだったな、貴殿らは援軍だった。危うく、戦場での仕来りを忘れるところだった。ジノ、深く感謝する」

 ジノは軽く、首肯しただけだった。


『その問いに対する答えは一つしかない! これより我が名の許に、ヘネシー様のお知恵を借り、トロール軍殲滅戦を開始する。各将兵は策の通りに配置されたし。決行は、今すぐだ!』


「おうっ!」

 ゴダードは、わざとジノの名を外し、ヘネシーの名を使った。

 この策がヒトのものであると兵士が感じ取れば、躊躇するものが出るかもしれないという計算があったのだ。

 それからヴァンパイアの動きは早かった。

 何せやることが提示されているのだから、後は前に進むのみである。

 こうして白南関攻防戦三ディエ目、夜。

 ヴァンパイア軍は、ゴダード、ライバー両将軍を筆頭に、白南関から続々と外へ出て行った。

 トロールたちは夜にヴァンパイアが攻めてくることを予め察知していたので、篝火を多めに焚き、防衛体制を整えて待ち構えていた。

 トロール軍の陣容は、ジノが言い当てた通りだった。戦において、輜重隊を敵に狙われるのは致命的である。そこに兵を集めるのは、当然だった。

 今回のヴァンパイア軍は、騎馬していない。全力で駆ければ、馬よりも早く走れるからだ。

「よいか皆のもの、愚かにも我らヴァンパイアに刃を向けたトロールどもを、今宵で蹴散らすぞ! トロールは夜目が利かぬ。篝火を奴らの血で消し、暗闇の支配者がどれだけ恐ろしいか、思い知らせてやれ!」

『おおおおおおっ!』

 ゴダード子爵の檄に、アリューゼと総勢二〇〇のヴァンパイア兵が呼応した。

「フェザーミルのものども、よう聞けい! 今宵は一人一〇〇殺じゃ。その気構えで掛かるぞ! 日頃の訓練の成果を、存分に見せつけよ!」

「ははっ!」

 ライバー、ターシャも、全身から闘志を漲らせていた。

「いざ、出陣っ!」

 ゴダードとアリューゼが、敵左翼に向かって駆け出すと、その後方から兵士たちが続く。

 そしてライバー、ターシャらフェザーミル勢も、標的に向かって進軍した。

 それは走るというよりは、跳ねるという表現が適切だった。ヴァンパイアの脚力が強すぎて、大地を蹴ると身体が宙に浮いてしまうのだ。

 やがて、最初の激突が起きたのは【疾風の】ライバー大将軍率いる八〇の兵と、トロール軍本陣の四〇〇〇だった。

 ヴァンパイアの強さは、圧倒的だった。

 トロールも、それほど弱い種族ではない。だが今回は相手と、コンディションが悪すぎた。

 昨日の夜明けに、ヴァンパイアが眠りについた後、休憩しようと思っていたところでまさかの奇襲に遭い、眠るどころか鎧を脱ぐことすら出来なかった。

 その報告を受けた右翼や本陣まで、ヴァンパイアらが、次はどこに奇襲が来るのかと、午前中、ずっと臨戦態勢を強いられたのである。

 今のトロールたちは寝不足と空腹で、立っているのもやっとの状態である。そこへ、五体満足のヴァンパイアが突っ込んで来たのだ。

 防ぎようが、あるはずがなかった。

 白南関の望楼でヘネシー、ジノと共に、この一方的な展開に驚嘆していたのは、アイザックだった。

 アイザックは昨日の昼、敵左翼へ行った、一回だけの奇襲が、これほどの効果を上げるとは、思ってもみなかった。

 やがてライバーの突撃から少し遅れて、敵左翼にゴダードとアリューゼが突入した。

 血飛沫によって篝火が消され、倒され、トロール兵たちは阿鼻叫喚の渦に叩き落とされた。

 それはあまりにも一方的な、虐殺に近かった。ゴダードとアリューゼ、そして主攻の二〇〇の兵は、疲れ果て、よろよろと立っているだけのトロールを、ただひたすら狩っていった。

 そして、敵右翼にも動きがあった。

 ターシャが率いた二十の兵は、他のところとは対照的に、乱戦を避け、前に出てきたトロールだけを討ち果たしていた。トロール軍右翼の将は、幾ら疲労しているとはいえ、五〇〇〇を擁している。

 ここは攻め時と、トロールが兵を前に押し上げた、その時だった。


 ビ――――!


 その笛の濁音を合図に、トロール軍右翼の背後から“風の旅団”が襲いかかったのだ。

 トロールたちの目は、完全に前しか見えていなかった。

 夜目が利かなかったのも大きいが、何よりも、この旅団の気配の消し方が秀逸だった。さすがは空白地帯で名を売っている旅団だけあると、ジノは眠気で意識が飛びそうになりながらも、懸命にその目を見開いて、望楼から戦局を眺めた。

 ジノもここ白南関に着いてから、一睡もしていない。さすがに食事は採ったが、ジノ自身の疲労もピークに達しようとしていた。

 しかしその前に、ジノの予想を上回る出来事が起きた。

 ゴダードとアリューゼが、早くも敵左翼を分断し、そこから左へ転回して、トロール軍本陣に攻めかかったのである。

 その早さが、その武力が、尋常ではなかった。

 ゴダードとアリューゼの武力こそ、ジノがこの戦場で唯一見誤った点であり、この一事が、後のジノに大きく影響を及ぼすこととなる。


        ★ ☆ ★ ☆


 正面から【疾風の】大将軍ライバー軍に蹴散らされ、更に左側面から【鉄壁の】将軍ゴダード、アリューゼ軍に襲われ、トロール軍は混乱の極みにあった。

 ここで本陣の椅子にどっかと座るトロール軍総大将、ディッジダリン将軍は、大きな二択を迫られることになった。

 総軍撤退か。それとも弱った味方を何とか鼓舞し、左翼より入り込んで来た敵軍総大将ゴダードを討ち取るか、である。

 ここまでの道のりも含め、もう三ディエも各将兵に無理をさせている。その証拠に、トロール兵の被害は急速に膨れ上がり、ヴァンパイアの兵士は生き生きと仲間たちの首を刎ねていた。

 そんな折である。

 ディッジダリン将軍の許に、またも悲報が入った。どこからともなく現れた盗賊団に、輜重隊が襲われているという。

 左翼から援軍を、という要請だったが、その左翼はゴダード、アリューゼ軍によってズタズタにされ、指揮系統もままならぬ状況だった。

 ディッジダリン将軍はざんっ、と大地を蹴って立ち上がり、大声で叫んだ。

『総軍、撤退じゃ! 本国まで、敵を打ち払いながら退却せえ!』

 そう叫んだ後、ディッジダリン将軍は馬代わりの四足歩行型魔獣に乗り、急いで戦場を後にした。

 トロール軍全軍に、撤退の合図が送られた。

 何せ、総大将が我先にと逃げ出したのである。将兵らの混乱は極致に達し、慌てて武器を捨て、あるものは徒歩で、あるものは魔獣に乗って、一目散に逃げ出した。

 だが、一度血を見たヴァンパイアは、執拗にトロールの背中を撫で斬り、容赦なく襲いかかった。

 そしてある程度、追い討ちを行った後、トロール軍左翼と右翼が殿としてその目を光らせて待ち受けているのを悟ったゴダードは、全軍にこれ以上の追い討ちを止めるよう指示を出し、それぞれ兵を纏め、悠々と白南関へと帰陣した。

 白南関を攻めたトロール軍は、その後の退却戦も、凄惨を極めた。

 何せ、逃げるトロールなど、ただの的である。ヴァンパイアらの追い討ちは終わっても、わざわざ遠くから呼び寄せた“風の旅団”からすれば、まだ何の実入りもないのだ。

 風の旅団はフェザーミルからの報酬だけでは物足りず、この戦場でそれを、つまり逃げるトロール兵から得ようとしたのだ。

 風の旅団は二〇〇〇ながら、有能な頭目の許、統率の取れた軍隊に近い。

 一方で、トロールが身につけている武器防具、特に剣と鎧は大型であり、それだけでも高価だ。それが目の前で、背を向けて逃げ出しているのである。それは最早、狩りにも等しい行為だった。

 そして風の旅団の誘いを受けた盗賊団は、トロール軍一五〇〇〇人分の兵站を、余すことなく手に入れた。武器防具だけでなく、旅の商人から食料を調達する為の金や、檻に入ったヒトに至るまで、一切合切を持ち去ったのである。

 これにて白南関攻防戦は、ジノの言葉通り、この日の夜に終わりを迎えた。


 リンカーフォル、フェザーミル連合軍の勝利だった。


        ★ ☆ ★ ☆


 皆が白南関の中に戻ったのは、五ハルだった。間もなく、時告げの鐘が鳴る。

 その前に、ゴダード、アリューゼ、ライバー、ターシャが、ヘネシーとジノがいる望楼へと戻ってきた。

「ジノ、と、申したな」

 ゴダードが、その深緑色の瞳をジノに向けた。

「はい」

「見事だった! お主、本当にヒトなのか? とても信じられん」

「有り難き、お言葉です」

 ジノはゆらり、と身体を揺らしつつ、ゴダードに片膝を突いて拝手敬礼した。

「いやいや、面を上げてくれ、ジノ。この度の戦いは、フェザーミルの方々のお陰で勝利出来たようなものだからな」

 ゴダードはヘネシーに身体を向け直し、片膝を突いた。

「あの“風の旅団”と“盗賊団”は、ヘネシー様の計略ですな?」

 ヘネシーは頬を掻きながら、少々困惑しながら答えた。

「あー、まあ、そういうことになるかな」

「誠に、誠に有り難う存じまする!」

 ヘネシーに低頭するゴダードと、アリューゼ。

「うん、勝ててよかったよね。ここまで来た甲斐があったかな」

「本日はもう、夜明けが近いようですので、明日、戦勝の宴を開きまする。どうか、ご参列願えませんか?」

「そうね、戦に勝った時は、思いっ切り騒いだ方がいいわ! ジノを含め、フェザーミルのものたち全員、参加していいでしょ?」

「勿論です」

「よーし、明日はとにかく騒ごうっ!」

 ヘネシーがそう言うと同時に、どさり、と、倒れるものがあった。

 ジノだった。

「あ、え、ジノっ!?」

 倒れたジノの様子をライバーが窺う。

「これは……あー、寝ておりますのう」

「はあ!?」

 ヘネシーが、呆気にとられる。

 それもそのはず、ジノもトロールと同じくらい眠っていなかったのだから。

「ジノ……この知略、ヒトのままにしておくには惜しいですな。彼はいずれ、大きな存在となるような気がします」

 ゴダードは思わず剣の束に手を掛けそうになって、慌てて手を引っ込めた。

「それにしても、ほどほどにして欲しいわ。侍従贄フィーズが主より先に寝るなんて、聞いたことないもの」

「それは、確かに」

 ゴダードがジノに目を向けて、思わず吹き出した。

 白南関の望楼に、笑いが起こった。


 そして、日の出前。

 ヘネシーはトレーフルに命じ、昏々と眠るジノをヘネシーの棺桶に入れ、蓋を閉じた。

「お疲れさま、ジノ」

 ヘネシーは横で寝息を立てるジノに、声を掛けた。ジノの顔は、ヘネシー側に向けられている。その眉や、鼻先や、引き締まった唇が、すぐ目の前にある。ヘネシーはごくり、と、息を呑んだ。

 綺麗。

 それが、ジノに対して浮かんだ言葉だった。

「あたしね、ジノのこと、ますます好きになったよ」

 昨晩の計略は、見事としか言いようがなかった。あんな大それたことを考えたのが、ただのヒトだなんて、誰しもが驚いて当然だ。

「ジノ……」

 ヘネシーはジノと身体をくっつけて、とくとくと脈打つ首筋を、舌で舐めた。

「ねえジノ、ヴァンパイアはね、ヒトによって血の味の違いが分かるんだよ。ジノの血は今まで味わったことがないくらい、美味しいのよ?」

 思わず首に牙を突き立てたくなる衝動をぐっと堪えた。今の弱ったジノの血を吸ってしまったら、このまま目覚めないかもしれないからだ。

 ヘネシーはもう一度、ジノの首筋をぺろ、と舐めて、頭をぶんぶんと振り、優しくジノを抱き締めて、眠りに落ちた。

 

 こうして、白南関の攻防戦は幕を下ろした。

 だが、この戦でヒトの立場が変わったわけではない。

 この物語は、かつての栄華が崩れ去り、下僕や奴隷にまで落ちた“ヒト”でありながら、知略のみで妖魔や魔獣、魔物たちに支配されたグラファリア大陸に名を知らしめていく、たった一人のヒトが紡ぐ叙事詩である。

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ヒトよ、最弱なる牙を以て世界を灯す剣となれ 特別編 上総朋大/ファンタジア文庫 @fantasia

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