ただ僕の話を、聞いて欲しいだけなんだ。
青葉 一華
第1話
僕は毎日考える。通学中、電車の中、街の中、テレビジョン、ニュース、人間、この世界。
そして思った。この世は変だ。
正確には、僕の生きる世界。狭く小さい、今まで生きてきた中で知ったものだけを積み上げた、何の軸もない物。
それをあえて世界と呼ぶと、この世界はとても可笑しい。
だってそうだろう。なんの疑問もないのだ。今まで僕は、この世界に疑問一つ抱かなかった。
幼い時から刷り込まれた、これが正しいのだ、という「個人の思う正しさ」に僕のちっぽけな世界は支配されていたのだ。
世界を変だと思ってから、僕の日常は変わった。そして考えるようになった。
「怖い」というのは、その人と自分が違う存在であると思うから。今、隣で冗談を言って笑っている友人が、突然懐から刃物を取り出して自分に向ける。そうしたら、当然恐怖という感情が生まれるだろう。
それは、自分と同じ「味方」だと思っていた者が、突然自分に殺意を向ける「敵」に変わったから。
自分が知るものとは異なるものへと変わったから。
殺人鬼だろうと、犯罪者だろうと。「人間」という一括りにしてしまえば、それは力も持たないちっぽけな存在でしかない。
「怒る」というのは、自分の正しいが崩されたから。目の前の、今自分がムカついている相手の正しいが、違うと思っているから。
ムカついた時、イラッとした時、思い出してほしい。一体怒って何になる。学習させる為?失敗しないようにしよう、が、怒られないようにしようへと変わり、逆効果だ。
そんな人間心理を理解できないような人生を送ってきたのか。一歩立ち止まり考えれば、誰でも分かることだ。誰でも経験してきた事のはずだ。
この一時、一度怒って得るものは何だ。
自分へのストレスと、相手への悪印象だ。
怒るメリットなど、何も無いのだ。それなのに、僕の周りの人間はすぐ怒る。
僕にだって怒りという感情はある。人間に生まれたのだからしょうがない。だが、怒りは様々な感情の中で、一番、自分でコントロールが出来るものなのではないか。最近そう考えるようになった。
それだけに余計、周りの考えがわからない。
なんて、こんな話をすると、周りは引いた冷たい目で僕を見る。そして「変な奴だ」「頭がおかしい」と、否定から入る。
その表情と否定の言葉を聞くのがたまらなく嫌で、僕は自分の思いを誰にも話さなくなった。
誰か一人でも僕の言葉に頷いてくれたなら。誰か一人でも、僕の話を、一人の意見として聞いてくれたなら。
誰にも話せない。親にも言えない。親も所詮は他人。自分自身ではない。
何より、僕が怒るという事を無駄だと思ったのは、親の怒る姿を見ていた時だった。
だから理解など求められない。
そう思ってからは、毎日、毎日、とりあえず笑った。理解者のいないこの世界に泣いても怒っても叫び恨んでも、何も反応がなかった。
だから、笑う事にした。
笑ってればいい事がある。
それが僕の持論だった。
生まれてからずっと、子供は親のものだ。
兄弟や親戚と比べられ、堪らずに文句を言った。それを相手にもされず軽くあしなわれた時、子供は親に逆らえないものだと知った。
小学生の頃、担任の教師から理不尽に説教された時、その威圧的な態度と有無を言わさぬ言い方に、何を言っても無駄な人間がいるのだと思った。
中学では、大人の口から発せられる「誰にでも優しく、仲良く」。そのフレーズが大嫌いだった。
人は大人になると、考えが「常識」という意味のわからないものに縛られる。
僕と同じように考えていた時代もあったかも知れないのに。いつから変わってしまったのか。僕もそんなつまらない「人間」になってしまうのか。
「常識」や「普通」なんてものは人によって違う。
自分の「普通」を僕に押し付けないで。他人なんて関係ない。僕は自分のことで手一杯だ。
他人のことを考えられるほど余裕なんてない。
僕の「普通」は否定されるのに。なぜ僕は周りに順応しなければならないのか。
この世界に、僕の考えは滲み薄れて、やがて消える。見えなくなったのではない。無くなったのだ。
なんの力も持たない餓鬼の言葉など、お偉い様方には届きやしない。仮に届いたとしても、世界は変わらない。
疑問を持たない、一人ひとりの凝り固まった「常識」という名の正義が、この世界を創造したのだ。
僕はまだ、この考えの理解者には会えていない。同士に会いたい。年齢や性別なんて関係ない。あとから取り繕った外見なんてものに左右されない、心の底から同じ思いの人。決して否定しない人。
僕はただ、僕の話を聞いてもらいたいだけなんだ。
同じ思いを持った同士にこの言葉がとどきますよう。そう、希望を込めて、今日も筆をとる。
ただ僕の話を、聞いて欲しいだけなんだ。 青葉 一華 @ichikaaoba
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