第47話 リムの決意

        リムの決意



 俺は今、身体の痛みも幾分薄れたので、ベッドの上に上半身だけ起こしている。

 どうやらここは城の中の、以前から俺達にあてがわれている部屋のようだ。


 ベッドの下には、3人の美女軍団が正座中だ。

 リムは止めていたので、この列には居ない。ベッドの俺の足元に腰掛けている。


 改めてリムを見ると、やはり凄い美少女だ。

 スコットが、彼のストライクゾーンとやらを外しているのにも関わらず、惚れてしまったのにも納得だ。

 俺がこんな少女の姿をしていたのかと思うと、世の中の男性に申し訳ない気がする。


 ん? 流石にガン見し過ぎたな。

 目を逸らされてしまった。



「しかし、お前等、全く懲りないな~。大体、クレア、ミレア、お前等はそっちの趣味じゃなかったのか? それに、これはスコットの身体だぞ? 違和感とか無い?」

「そ、その、女性同士でのそれは、ただの親愛表現ですわ! 私はノーマルですわ!」


 それを世間一般じゃ、変態とか、二刀流とか言うのだがな。


「それに、問題は中身ですわ! 確かにスコットちゃんの身体ですが、魂がアラタさんだと思うと、その、我慢できないですわ!」


 あ~、もういい。

 だが、気持ちは嬉しい。


「わ、分かった。できればその発散は二人きりの時に頼む。リムも居るしな。彼女にはまだ早い」


 リムは顔を赤くして、そっぽを向いた。


 俺は、次にミレアに視線を向ける。


「私も、お姉様と一緒です。できればもっときつめに叱って下さい」


 こいつもか!

 しかも、変態に輪をかけている。


「お前も気持ちは嬉しいのだけど、俺にそっちの趣味は無いので、期待はしないでくれ。次、カレン」


「確かにスコットさんの身体なんで、違和感はあるっすけど。あたいも、やもめが長いっすから」

「ん? お前はサラサの冒険者にはモテモテだったろう? スコットには悪いけど、俺は、この容姿では、お前に釣り合う自信が無いぞ」

「あたいより弱い奴には興味ないっす。なので、前にも言ったように、あたいの主人はアラタさんだけっす!」


 はい、強さが基準なんですね。納得しました。


「まあいい、なんかもう慣れた気もするし。それで、色々聞きたいことがある。まず、俺は何日寝ていた?」



 長くなりそうなので、彼女達にソファーを移動させ、ベッドに正対させて、そこに座らせる。

 そして、じっくり話を聞く。


 どうやら、俺は5日間寝ていたようだ。

 水分は、クレアが俺の胃の中に魔法で補給してくれたらしい。

 ちなみに、俺は寝ている間に粗相もしっかりしていたようで、その世話も彼女が見てくれたとのことだ。

 本当に頭が下がる。


 俺の魔法が成功したかを、どうやって確認したのかが疑問だったが、リムが人物鑑定スキルで確かめたとのことだ。

 また、リムも俺が出て行った結果、数日倦怠感に悩まされたそうだ。

 ステータスが半減したのが原因らしい。


 俺も自分のステータスを確認してみる。


氏名:アラタ・コノエ 年齢:22歳  性別:男

職業:勇者

レベル:1

体力:563/482

気力:544/467

攻撃力:551 -78

素早さ:572 -81

命中: 594 -84

防御:547 -78

知力:588 -84

魔力:584 -80

魔法防御:565 -81

スキル:言語理解5 交渉術4 危機感知5 人物鑑定3 マッピング

格闘術5 剣術3

回復魔法5 火魔法5 闇魔法5 風魔法3 時空魔法3

毒無効 麻痺無効 暗闇無効 沈黙無効 混乱耐性大



 なるほど、これは多分、リムの身体に居た時のステータスの半分が、生前のスコットのステに上乗せされたと考えるべきだろう。

 転移した身体がスコットのものだったことで、ステは同居時代よりもかなり減ったが、それも最小限と言えるだろう。

一般人に乗り移っていたら、もっと下がったはずだ。


 身体の節々が痛いのにも納得だ。

 上限値が実際の値にまだ追い付いていないのだ。

 今は身体が変化している最中だな。


 スキルは俺が使っていた物は、そのまま引き継げたようだ。

 だが、全く使っていないスキル、社交術とか、家事とかはついていない。

 また、生前スコットが得ていた物も当然無い。

 俺は、鍛冶師スキルには未練があったのだが仕方無い。


 そして、何よりも嬉しいのは、あの変態スキル、【特殊性癖】が消えたことだ!

 まあ、女同士というので、憑いたのだろうから、今の俺には関係ない。

 リムには置き土産になっているかもしれんがな。

 いつか、確認してやろう。


 後、職業が勇者だけになっている。

 ふむ、貴族はリムの固有の物で、冒険者もリムの名前で取ったからだろう。

 リムと同居中は便利に弄れたが、これは取り直す必要があるな。

 そう考えると、リムの今の職業は勇者が消えている状態か。


 レベルも1からやり直しだが、これは嬉しい誤算だ。

 最初のうちはパワーレベリング状態で、それこそチートな速度でステと併せて伸びるだろう。



「なるほど。そういう訳か。理解したよ。皆、世話をかけたな。本当にありがとう」


 俺が頭を下げると、皆、照れ臭そうにする。

 彼女達にとっては、当たり前のことなのかもしれないが、やはり嬉しい。


「それで、ここからが本題だ。リム、いや、リムリア・ゼーラ・モーテル、これからどうする? 俺とお前の共通の問題は、スコットの犠牲によって、解消された。お前は自由だ。家族とか、その、帰らなくていいのか?」


 そう、リムには、貴族という肩書がある以上、彼女には爵位持ちの家族が居るはずだ。


「それは…、アラタ次第よ! あたしに帰る家はもう無いから」


 やはりか。

 彼女があそこで召喚用の死体として扱われていたことを考えれば、何となくだが、リムの境遇は想像できる。


「何か不味いことを言ったようで済まない。だけど、俺次第とはどういう意味だ?」

「そのままよ。アラタも目的は達成したのでしょう? あなたこそどうするの?」


 確かに俺は、男の身体になること以外は、何も考えていなかった。

 ダンジョンに潜っていたのも、レベルアップさせて自分を守ることと、ウルベンさんの助言があってのことだ。


「う~ん、特に考えていなかったな~。なので、俺は引き続き、ナガノさんがミツルに言った、『この世界を知りたければダンジョンに潜れ』を実践しようと思う」

「じゃあ、あたしも付き合うわ。どうせすることも無いし」

「ふむ、俺はいいけど危険だぞ? リムを守れる保証なんて全く無い。何よりも俺は、先日お前の想い人を死なせた男だ」


「何か勘違いしているようだけどいいわ。ところでアラタ、あたしが邪魔?」

「いや、俺はお前には迷惑だったろうけど、リムの身体に転移できて、ある意味幸運だったと思っている。感謝こそすれ、邪魔だなんて、全く思っていない」


「なら連れて行って! あたし、アラタについて行く! 何処までも!」


 な! 


 これは俺も想定外だ!

 リムはてっきり、スコットが好きなのだと思っていた。

 勘違いとはそういうことか。


 美女軍団が、美少女の『ど直球』に反応して、相談を始めた。


「これは思わぬ伏兵でしたわ!」

「そうですね。今のアラタさんの身体は、元はロリコンスコット君です。彼の影響が残っていて、リムさんに発情しないとも限りません」

「発育途上の小娘には負けないっす! 大人の魅力で勝負っす!」


 まあ、こいつらはいい。放って置こう。


「何度も言うけど、本当に死ぬかもしれないぞ。確かにリムの支援魔法を受けられると考えれば、嬉しい。だけど、その、リムはまだ15歳だろ? 俺には、まだお前を恋愛対象としては見られない。カサードさんに言えば、いい相手を紹介してくれるだろう。一生不自由しないと思うぞ」


 うん、ここははっきりと言っておくべきだろう。俺は誰かと違って、ロリコンでは無い。

 それに、こんな少女をダンジョンに連れて行くのにも抵抗がある。


「アラタ、逃げる気? 散々あたしの裸を見たくせに。責任は取って貰うわよ!」


 そう来たか!

 しかし、どう考えても不可抗力だ。

 俺に罪があるとは思えないぞ。


「ふむ。俺に責任があるとは思えないけど、妥協案だ。リムが16歳になるまで待ってくれ。俺の世界だと、女性は16歳から女として扱われるんだよ。それまでは、ミツルの相手でもしていてくれ」


 あ、最後の一言は完全に余計だった!

 年齢と容姿だけで考えると、これ以上無い、似合いのカップルなのは事実なのだが。


 リムの目が吊り上がる!


「あらそう。ふ~ん、16歳ね。で、あのお馬鹿勇者さんの相手。ふ~ん、そうなの。でも、それでいいわ。じゃあ、アラタ、ちょっと待っていてくれないかしら?」


 そう言って、リムは俺の足元から立ち上がった。


 何かヤバい気がする。

 俺の危機感知に赤点が出現した!


「ま、待てリム! 俺はまだ体中が痛くてあまり動けない! まさかとは思うが何をするつもりだ?」

「そんなの決まっているわ。陛下に言って、勇者橘様に面会を申し込むわ!」

「ん? 簡単に会わせてくれるとも思わないけど? それに、カサードさんは、今の俺達の状況を知っているのか?」


 もしカサードが、俺がスコットに乗り移ったことを知っていれば、リムを相手にするとは思えない。

 知らなくても、俺のふりをするリムを見破れないほど馬鹿じゃない。


「多分知っているでしょうね。祭祀長のイーライさんが何度もここに来たし。あたし達は適当に誤魔化していたけど、あの顔は気付いているわね」


 確かにイーライには席を外して貰ったが、あの状況だ。絶対に陰で見ていただろう。


「じゃあ、尚更どうするつもりだ? 天下の皇帝が、勇者でも無い、小娘を相手にするとは思えないぞ?」

「あら、簡単よ。あたし達には実績があるのよ。橘様をダンジョンで鍛えたいって言えば、承知せざるを得ないのじゃないかしら? 満足に動けないあなたなら、人質になるし」


 こいつ!

 前から思っていたが、恐ろしく頭が切れやがる!

 ミレアもかなりだと思うが、狡猾度は彼女の比では無い!


 だが、16歳のハードルをどうするつもりだろう?

 俺は、一年もあれば、彼女も気変わりすると思っていたのだが。

 あ。ひょっとして。


「お前、まさか!」

「ふん。気付いたようね。あたしは明後日で16歳よ! それまではあなたの言った通り、ミツルさんの相手をするわ。約束はちゃんと守ってよね!」


 やられた。

 まさかこうもあっさり返されるとは!


「さあ、お姉様方! 行くわよ! 50階層の主にリベンジよ!」


 もういい。

 勝手にしてくれ。

 攻撃方法が分かっている奴相手なら、リムも居るし、充分勝てるだろう。

 ミツルが加わるなら尚更だ。


 戸惑っている美女軍団に、彼女は更に鞭打つ。


「あたしもお姉様方の所有者よ。これは『命令』よ!」


 まさか、奴隷の所有権までがこんな形で使われるとは!

 俺が共同所有にしたのは、魂の移転に成功した時、リムがパーティーを去っても、俺に所有権が残るようにするのがメインで、後は非常時に備えてのことだった。


 乱暴に扉が開け放たれ、女共は去っていく。


 どうやら部屋の外にはヤットンが待機していたらしく、扉の陰からちらっと俺の顔を伺ったが、後はリムの言いなりになっているようだ。


 あの感じじゃ、あいつも気付いているな。



 ところで……、腹減った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る