第15話 階層主

        階層主



 案内役が居るので、階層連絡通路を目指し、最短で進む。

 話によると、10階層までは、基本的にゴブリンがメインで、それにオーガが混ざる程度らしいのだが…。


「で、これはどういうことだろうな?」


 俺達は今、オーガ5匹の集団と対峙していた。

 現在は9階層。

 あと一階で階層主とやらが居る階なのだが、聞いていた話と少し違う。


「ぼ、僕の時はここらではオーガは混じっても2匹くらいでしたにゃ!」

「「私達の時もそうでした」わ!」

「まあ、今まで通りで問題ないだろう。やるぞ!」

「「「はい!」」ですにゃ!」


 俺とクレアが左右に分かれて突っ込む!


「ファイアウォール!」


 オーガの集団が炎に包まれる!

 そこに後方から、スコットの矢がほぼ3本同時に放たれる!

 それぞれが別々の標的に当たり、3体が重なるように倒れ込んだ!

 難なく3匹撃破。


 俺は向かって来た一体に蹴りを叩き込み、追撃しようとしたら、既にこと切れていた。

 クレアもチェーンフレイルを、俺を襲おうとしていた最後の一体に叩き込み、一撃で沈める。


「やはり、ミレアの範囲魔法は便利だな~。削ってくれたおかげで瞬殺だ」

「いえ、オーガ相手だとまだ一撃では無理です。スコット君の援護が無いときついです」

「でも、僕の弓だけでは、一撃とは行かないですにゃ。ミレア姐様あってこそですにゃ!」

「うん、スコットの弓術スキルの成長はでかいな。ほぼ同時に3連撃か。俺も弓に転向しようかな? 最近、俺の出る幕があまり無いし」

「そんなことないですわ! アラタさんが敵の注意を引いて下さるから、私達も思い切って攻撃出来るのですわ!」

「そ、そうですにゃ! 僕の存在意義を取らないで欲しいですにゃ!」


 うん、この短期間で連携も取れているし、雰囲気もいい。

 この調子なら、次の階層主とやらも問題無いだろうか?


「しかし、聞いていたより若干魔物が強いようだ。多分、これは全体的に魔物が強化されていると見て間違いないだろう。ならば、階層主とやらも強くなっていると見たほうがいいか?」

「そうですね。私達の時は巨大な狼、フォートウルフの倍くらいの奴でした。弱点は特に無く、素早さが高い厄介な奴でした」

「牙に触れただけで、毒を喰らってしまうので要注意ですわ!」

「ぼ、僕の時は見た瞬間に全員逃げだしたので、何も言えないですにゃ…」

「分かった。クレア、ミレア、ナガノさん達はどうやって倒していた?」

「私は毒を喰らってしまって、瀕死で…、その…、見ていませんわ」

「従者の方が一撃でした」

「やっぱ、ナガノさんのパーティー、凄いな~」

「あれを一撃って、想像出来ないですにゃ!」

「取り敢えず、今日は休もう。しっかり回復してから、明日挑戦だ」

「「「はい!」」ですにゃ!」



「あ、アラタさん、また見つけました!」


 魔核を回収していると、スコットが駆け寄って来た。

 手には魔結晶を持っている。本日2個目だ


「良く見つけられるな~。これも鉱石鑑定スキルのおかげか?」

「多分そうですにゃ。独特の光り方をするので、目が行きますにゃ」

「う~ん、俺には分からんからな~。とにかく、大したものだ」

「照れますにゃ」

「さっきのはミレアに渡したから、それはお前が持っておいてくれ」

「はいですにゃ」


 俺達は、あまり人が通らなそうな行き止まりの小部屋を探して、そこで休憩することにした。

 昨日と同様、皆が食事の準備をしている間に、俺は魔法書を読む。

 今日は回復魔法を読んでみる。明日の敵が毒化してくるらしいので、クレアが覚えた、【ポイズンカット】を会得したかったのだ。

 しかし、昨晩既にリムが読んでいたようで、【ブラインカット】と共にすぐに頭に入った。


 回復魔法の本にはそれ以上載って無かったので、他の魔法書に手を伸ばす。

 厳密には、他にも回復魔法はあるのだが、とても使えるとは思えない代物ばかりだった。

 回復薬を10本一気飲みできるようになるとか、全気力を消費して髪を伸ばすとか、夜のパワーが持続するとか…。編み出した奴の顔が見たいわ!


 まあ、夜のパワーに関しては、男の身体になれた時に期待か?

 クレアは何も言わなかったが、既に習得していそうな気もする。 

 うへへ…、覚えておくべきか?


 等と下らない事を考えていると、急激に眠気が襲って来た。


「あたしの身体で妙な考えを起こさないでよね! さっさと寝なさい!」

「あ…、すまん。聞いてのとおり、明日は階層主だ。準備……」

「はいはい! お休みなさい!」


 俺は強引に寝かされてしまった。



 朝起きると、皆既に準備を整えている。

 リムからの引継ぎ事項は特に無かったようで、何も言われなかった。

 それとも、まだ怒っているのだろうか?

 夢の中を振り返ってみても、特に大したことは無かったようだ。

 スコットが加わってからは、変態姉妹の襲撃も無くなったようで、何よりである。


「じゃあ、今日は階層主だ。昨日から特に変わったことはないか?」

「私とお姉様はレベルが2上がっただけで、能力の伸び以外は特に無いです」

「ぼ、僕もレベルが2上がっただけですにゃ。でも、以前よりレベルの上がり方が早いですにゃ」

「う~ん、敵が強くなったこともあるだろうけど、これも勇者補正なのかな? いいことなんで、問題ないだろう」


 俺も昨日の朝からレベルが3上がっている。ステータスも各々40近く増えていた。

 確かに凄い成長速度だ。


「じゃあ、行こうか!」

「「「はい!」」ですにゃ!」


 通路を下って、10階層に出る。

 危機感知スキルに集中すると、奥に1体でかいのと、普通のが2体。都合、3体固まっていた。


「この階には、階層主だけのようだな。ただし、お引きが2匹居る」

「やはり強化されていますね。私達の時は階層主だけでした」

「僕の時もそうですにゃ」


 俺は大楯をかざしながら、慎重に進む。その後にクレア、スコット、ミレアの、いつもの順だ。

 危機感知で、あと20mくらいと思ったところで、大きな扉があった。

 多分、これを開けると戦闘になるのだろう。


「入ったら、すぐにミレアは【ファイアウォール】、スコットは【風の加護】で命中を上げてから、お引きを頼む。俺は盾で防御しながら突撃し、【ハイスタン】を唱える。クレアは俺の陰からお引きを攻撃。全員、やばいと思ったら絶対に無理するな!」

「「「はい!」」ですにゃ!」


「開けるぞ!」


 扉を押すと、正面には体長4mくらいの漆黒の狼、左右にはオーガが居た。

 お引きのオーガは、今の俺達には脅威では無い。

 これなら俺は、巨大狼に集中できそうだ。


 意を決して、俺は盾を正面に突っ込む!


 魔物たちも俺達をすぐに視認したようで、真っ先に巨狼が走って来る!


「ハイスタン!」


 俺は狼を足止めしたが、後方からオーガが追い付いて来た!


「ファイアウォール!」


 絶妙のタイミングだ!

 3体がほぼ横一直線になったところに、炎の壁が広がる!

 続いて後ろから矢が俺をかすめる!

 それぞれの矢が1本ずつ魔物を捉える!


 オーガ2体が倒れた。

 巨狼はまだ動けていない。

 ここまでが、俺が魔法を唱えてから、1秒くらいの出来事だ。


「よし!」


 俺が叫ぶと同時に俺の横をクレアが駆け、大きな弧を描いて鉄球が巨狼の頭部にめり込む!

 俺も顎の下を目掛けて蹴りを叩き込む!

 クレアは更にチェーンフレイルの柄の部分を狼の目に突き立てた!


「深追いするな! 硬直が切れる!」


 クレアは突き刺さった得物をそのままに、すぐにバックステップした。


 俺も盾を構え直して、油断なく魔物を見据える。


「グルル……」


 巨狼はうなりながら、何事も無かったかのように、目に突き刺さったクレアのチェーンフレイルを、前脚で振り払う。

 更に、体勢を低くし、大きく口を開けた!

 その中には、巨大な火の玉が見える!


 魔法、いやブレスか? 

 こんなの喰らったら、洒落じゃ済まない!


 俺は、盾をいっぱいに広げた狼の口に押し込んだ!


 直後に狼の口が炎に包まれる! 

 ふ~、何とか阻止に成功したようだ。


「アクアダーツ!」

「ウィンドカッター!」

「喰らうにゃ! 3連射!」


 魔法と矢が、連続で魔物に降り注ぐ!

 が、まだ倒れない!


「ならば!」


 俺の魔法はまだ詠唱できないので、ショートソードを抜いて、魔物に飛び掛かった。


 狙いは喉!


 凄い速さで、何度も、巨大な爪が降ってくる!

 俺はそれを、ぎりぎりで躱しながら、懐に飛び込んだ!



「とどめ!」


 真上に突いた剣が奥まで突き刺さる!


 真っ赤な血が垂れるとともに、巨大狼は横たわった。

 それと同時に、魔物が最初に居た場所の後ろにあった扉が、音を立てて開いた。


「ふぅ~、ツインサイクロプス程では無かったけど、結構渋太かったな。ふむ、倒さないと進めない仕組みか」


 3人が、満面の笑みで俺に駆け寄って来る。


「流石ですわ! アラタさん!」

「これで仕返しが出来ました!」

「昔の仲間に自慢できますにゃ!」


「まあ、皆、強くなった結果だろう」


 今思えば、炎を吐こうとしていたのだから、火には耐性があったと考えるべきだろう。

 ならば、火魔法がメインのミレアには相性が悪い。

 そして、あの素早さは、腰を入れた一撃重視のクレアにも最悪だ。

 最後に、スコットのパーティーがどんなだったかは知らないが、無謀に挑むよりは、逃げて正解だったのかもしれない。

 うん、無謀の結果がクレアとミレアだ。


「よし、魔核を回収して進もう」

「はい、後、肉も回収するべきですわ!」

「ん? クレア、こいつ食えるのか?」

「狼系の肉は結構いけますわ。なので、多分食べられるはずですわ」

「分かった。アイテムボックスに入るだけ持って行こう」

「そうですね。アイテムボックスの中なら腐りませんし」

「早速解体するにゃ!」



 解体作業中に、スコットがまた魔結晶を拾って来た。これで4つ目だ。まだ持っていないクレアに渡すと、凄い勢いで感謝される。

 まあ、使うことはまず無いとは思うけど、保険はあったほうがいいくらいの感じだったのだが。


 俺が巨狼の口から大盾を引きずり出すのに苦労していると、スコットが寄って来た。


「その牙、武器の素材として使えそうですにゃ」

「そうなのか? お前が作れるのか?」

「今は道具が無いですにゃ。町で買うか、アジトにならありますにゃ」

「じゃあ、補給で町に帰った時にでも買い揃えよう。流石に、盗賊のお世話になるのはちと」

「武器屋に直接持って行く手もありますにゃ」

「う~ん、金も時間もかかりそうだし、俺はあまり顔を晒したくないし。出来れば、スコットにやって貰いたいな」

「僕の技術で出来る範囲で良ければ、頑張りますにゃ! 後、この毛皮も防具に使えそうですにゃ」

「よし、じゃあ、牙と毛皮も回収しよう」


 俺は、アイテムボックスから盗賊達から手に入れた斧を取り出し、牙を折る。

 スコットは、ダガーを使って器用に皮を剥いでいく。

 肉は、クレアとミレアによって既に切り分けられていた。

 魔核も取り出されていて、フォートウルフの物より2回りほど大きく、色も鮮やかだ。

 ミレアがまた高く売れそうだと、にこにこしている。


 アイテムボックスの空き容量もかなり増えていたので、肉と一緒に片っ端から放り込んだ。

 ちなみにアイテムボックスの容量は、レベル×魔力×0.1kgだ。今の俺なら500キロくらい持てる。


 魔物の名前が知りたかったので、放り込んだ物を確認する。


ダークウルフの魔核×1

ダークウルフの肉×100kg

ダークウルフの牙×6

ダークウルフの皮×20kg


「これで食料は、暫くは安泰だろう。ところで、魔核って売れるのは聞いたけど、何に使うんだ?」

「私も詳しくは知りませんが、武器や防具、それと魔道具に使うと聞いています」

「そうですにゃ! 魔核の魔力を物に移し替えるのですにゃ。そうすることで、色々な追加効果とかが発揮されますにゃ!」

「そうなんだ! じゃあ、今俺達が持っている物に出来る?」


 俺はスコットを見る。きっと、今の俺の瞳には、少女漫画のような、巨大な星が入って居るだろう。


「簡単な物ならできますにゃ! でも、今僕達が持っている武器や防具だと、元の素材が悪いので、大した効果は期待できないですにゃ。僕が未熟なせいもありますにゃ……」

「なるほど…、ゴブリンとオーガの魔核なら沢山ある。ダメ元でやってくれないか?」

「はいですにゃ! ただ、ここだと魔力の流れが不安定なので、できれば、落ち着いたところでやりたいですにゃ」

「まあ、ボス部屋だし、もし再配置されたら厄介だ。次の階で頼む」

「頑張りますにゃ!」


 俺達は階層主を倒した時に開いた扉をくぐった。


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