第14話 ダンジョン泊

      ダンジョン泊



 俺達は、2階層の本道、3階層へ繋がる道からかなり外れた、行き止まりの小部屋に案内された。

 途中、数回戦闘になったが、ゴブリンばかりだったので、全く相手にならない。

 俺は、もはや盾を装備せずに突っ込んで行き、クレアがそれに続く。ミレアの魔法は温存し、スコットが残敵を狙撃するパターンだ。


「うん、確かにここなら、誰も通らなそうだ」

「私もこんな場所は知りませんでしたわ」

「私達は一直線に降りていきましたからね」

「ここは、僕達がこのダンジョンで迷いかけた時に、たまたま来ただけですにゃ」


「じゃあ、ここで休憩しよう。結果石を使えば、魔物は近寄って来ないんだったな?」

「はい、効果は丸一日くらいですが、今まで魔物に襲われたことはありません」

「では、私は食事の準備をしますわ。ミレアはあれ出しておいてね」

「はい、お姉様」

「ぼ、僕も何か手伝いますにゃ!」


 俺は結界石をアイテムボックスから取り出し、部屋の中央に設置した。

 すると、ミレアがその上に手をかざした。

 真っ黒な輪が広がる。

 ふむ、アイテムボックスから、何かでかい物を出す気のようだ。


 そこには巨大なベッドが現れた!


「そんな物、良く入ったな~」

「慣れれば簡単です。このベッドは大して重く無いですし」

「しかし、ダンジョンにベッドって……」


 呆れる俺とスコットに、更に追い打ちがかかる。


「あらあら、例えダンジョンでも女性の嗜みは必須ですわ。スコットちゃんは、悪いけどソファーで寝てね」


 クレアはそう言うと、アイテムボックスからソファーを取り出した。


 もういい、好きにしてくれ!

 口振りからすると、ベッドを利用するのは、俺とクレアとミレアだろう。

 確かに無理すれば3人寝られそうだ。


 一度、こいつらのアイテムボックスの中身を見てみたいものだ。

 う~ん、でも、なんか見ないほうがいい気がする。


「俺は少し魔法を勉強するから、後は頼む。お前らも、読めるのがあれば覚えておいてくれ」

「「「はい」」ですにゃ」


 俺は持っていた魔法書を全部取り出し、ベッドに積んで腰掛ける。

 闇魔法の続きを読み、2つの魔法を新たに覚えた。


【バーサーカー】 文字通りの狂戦士化の呪文だ。これをかけると、最初に攻撃してきた相手を殲滅するまで戦い続ける。その間、物理攻撃系統しかできないが、攻撃力が跳ね上がるという効果だ。魔法攻撃が厄介な相手にかけるのが主流だろうが、勿論自分にかけるという選択肢もある。


【ハイスタン】 これは、今まで使っていたスタントリックの上位魔法だ。今までは一瞬ひるませるだけだったが、これだと、3秒間程、行動不能にできるようだ。3秒はでかい。今の俺なら確実に3発は追加攻撃できる。3人の攻撃も合わせると、大抵の敵は一瞬で沈むのではなかろうか? しかし、この手の魔法は、良い点だけではないようで、自分より魔力の低い相手にしか通じないようだ。また魔法防御の高い相手にも通用しない。


 ここまで読んだところで、いきなり睡魔に襲われた。

 ああ、チェンジだな。リムが目を覚ましたようだ。


「クレア、ミレア、スコットへの説明を頼む。どうやら入れ替わりの時間のようだ」

「「はい。お休みなさい。アラタさん」」



 夢の中で、リムが無双している。


 食事後に、クレアとミレアの反対を押し切り、スコットを引き連れて自主訓練をしているようだ。

 攻撃に、あの、『エレキテル』という光魔法も混ぜているのだが、この階層の敵は弱すぎて、気力の無駄使いといった感じである。しかし、スキルのレベルアップにはいいだろう。


 1時間くらいで拠点に戻って来て、後は魔法書を読み、皆が寝てからは見張りも兼ねていた。

 良くできた子だ。全く頭が下がる。

 リム目線だったが、スコットにも感心した。戻った後、リムと一緒に暫く魔法書を読んでいた。

 いくつか魔法を習得したようなので、起きたら確認してみよう。



 朝…か? 俺が目を覚まそうとすると、頭の中に声が響く。


「おはよう、アラタ。でも、まだ起きないで」

「分かった。引継ぎか?」

「そんなところね。大体は夢の中で知っているとは思うけど、スコットさんはいいわね。あたしも最初は元盗賊ってことで、かなり用心したの。けど、二人きりになっても、不審な点は無かったし、熱心だし、魔結晶というのを拾ってくれたわ。持っていると、気力のストックになるらしくて、重宝するそうよ」


「なるほど、あえて二人で狩りに出たのは、試すつもりだったのか」

「ええ、彼には内緒だけど、ミレアさんが距離を置いてついて来てくれていたわ」

「命を預け合う仲間だ。お前も気に入ってくれたのなら良かった」

「そうね。でもあたしはまだ油断しないわよ。信じてから裏切られるのは辛いから」

「うん…、了解した。そろそろ起きていいか?」

「ええ、他には特にないかな…、お休みなさい」

「お休み、リム」


 目を開けると俺はベッドに座っていた。周りを見ると、全員起きている。

 今は何時くらいなのだろうか?

 ダンジョンの中は光の量が一定なので、時間が分からない。


「皆、おはよう」

「「おはようございます。アラタさん」」

「え、えっと、おはようございますにゃ。近衛様でいいですにゃ?」

「ああ、スコットはまだ驚いていると思うけど、今はアラタだ。呼び方も『アラタさん』で頼む」

「は、はいですにゃ。アラタさん」


「ところで、時間って分かる?」

「はい、今は朝の8時ですわね」

「魔時計がありますから、割と正確に分かります。ダンジョンでは必需品です」

「ふむ、魔法の道具ってことでいいのか?」

「はい、私達のは長野様に頂いた高性能品ですわ。日付機能も付いていますわ」

「思ったよりも便利だなぁ~」


 ちなみにこの世界は地球と同じで、1日はほぼ24時間、1年360日という、ご都合世界であると確認が取れた。


「じゃあ、食事を済ませたら作戦会議だ」

「あら? もう食事は済ませましたわ」

「え?! そうなんだ?!」


 皆、きょとんとする。

 俺は夢を思い出そうとするが、記憶に無い。

 しかし、そう言われると腹も空いていない。

 まあ、さほど重要なことではないので、覚えていないだけだろう。


「すまん。それなら、皆、ステータスを見せてくれ」


       【ステータス表示】

氏名:スコット・オルガン 年齢:18歳 性別:男

職業:冒険者 鍛冶師 レベル:22

体力:78/78

気力:65/65

攻撃力:75 

素早さ:69 +1

命中:89 +1

防御:62 +11

知力:66

魔力:76

魔法防御:73

スキル:言語理解3 弓術2 武器作成2 防具作成1 鉱石鑑定2 風魔法1


    【装備】 

皮の鎧:防御+10

皮の靴:素早さ+1

布の服:防御+1

布の下着:命中+1


    【所持品】

強弓:攻撃力+15

鉄の矢×20:攻撃力+10

ダガー:攻撃力+5


「ふむ、スコットはレベルが1上がって、魔法を覚えたのか。頑張ったな!」

「ありがとうございますにゃ。【ウィンドカッター】と、【風の加護】というのを覚えたですにゃ!」

「【風の加護】とは?」

「弓矢とかの命中率が、一時的に少し上昇しますにゃ!」

「お~、お前にぴったりだな!」

「はいですにゃ!」


 スコットは胸を張る。

 この言葉遣いさえなければ、もう少し様になるのに。


「次はクレア、頼む」

「はい」


     【ステータス表示】

氏名:クレア 年齢:20歳  性別:女

職業:奴隷〈リムリア・ゼーラ・モーテル〉 レベル:31

体力:107/107

気力:98/98

攻撃力:120 

素早さ:115 +1

命中:108 

防御:95  +30

知力:75

魔力:83  +1

魔法防御:98

スキル:言語理解3 棍棒3  家事4 社交術2 特殊性癖2 

    格闘術1 水魔法1 回復魔法2 

    アイテムボックス275


    【装備】 

ロッタの帽子:防御+1 認識阻害弱

小盾:防御+9

鎖帷子:防御+20

皮の靴:素早さ+1

布の服:防御+1

布の下着:魔力+1


【所持品】

チェーンフレイル:攻撃+25


「順調だな。回復魔法のレベルが上がっているけど、何か覚えられたのか?」

「はい、【ポイズンカット】というのと、【ブラインカット】というのを覚えましたわ!」

「名前からするに、毒消しと盲目解除といった効果か?」

「はい、そうですわ」


 クレアも嬉しそうだ。


「最後にミレア、頼む」


    【ステータス表示】

氏名:ミレア 年齢:19歳 性別:女

職業:奴隷〈リムリア・ゼーラ・モーテル〉 レベル:29

体力:82/82

気力:105/105

攻撃力:82 

素早さ:100 +1

命中:84 

防御:82 +12 

知力:100

魔力:100  +5

魔法防御:94

スキル:言語理解4  家事3 社交術2 特殊性癖2 

    火魔法3 風魔法1 剣術1 ガード1

    アイテムボックス290


    【装備】

レインコート:防御+5 

ロッタの帽子:防御+1 認識阻害弱

皮の胸当て:防御+5

皮の靴:素早さ+1

布の服:防御+1

シルクの下着:魔力+5


    【所持品】

ショートソード:攻撃力+7


「うん、ミレアも順調だな。火魔法の上位を覚えさせてあげたいけど、今はレベル上げに専念したいので、街には帰れない。済まないな」

「とんでもないです! このまま潜れる階層まで潜りましょう! 私のことなんて、後回しです! もっと厳しくしてください!」

「最後のは意味不明だけど、お前が強くなれば、潜れる階層も増える。どの道補給もしないといけないし、折を見計らおう」

「はい、ありがとうございます」


 ミレアもああは言うが、満更でもなさそうだ。魔法書が手に入っても、スキルがなければ使えないのだから、スキルレベルが上がって嬉しくない訳が無い。

 ほんの少しだが、スコットよりミレア、ミレアよりクレアの方が1レベル当たりの伸びがいいようだ。まあ、スコットは1レベルだけなので参考にはならないか。


 かく言う俺の現状はこうだ。


【ステータス表示】


氏名:アラタ・コノエ 年齢:22歳  性別:男

職業:冒険者 勇者 貴族 レベル:10

体力:235/235

気力:265/265 +20

攻撃力:250 +15

素早さ:270 +1

命中:270 

防御:235  +26

知力:310

魔力:270  +1

魔法防御:250

スキル:言語理解5 交渉術2 危機感知3 格闘術3 剣術1 人物鑑定2 

特殊性癖1 回復魔法2 闇魔法2 水魔法0 土魔法0 光魔法0  

家事2 社交術2 

アイテムボックス270


    【装備】

ガントレット:攻撃力+15

皮の帽子:防御+5

鎖帷子:防御+20

皮の靴:素早さ+1

布の服:防御+1

布の下着:魔力+1

魔結晶:気力+20


    【所持品】


奴隷:クレア ミレア

ショートソード:攻撃力+7


 新しく魔法を覚えた訳でもないし、スコットのこともあり、俺のステータスは伏せておいた。

 まあ、スコットに関しては、リムの存在をばらしている時点で、何も隠す必要は無いと言えるのだが。


「俺も、先に魔法を覚えるのに専念すべきなんだろうが、ここはミレアじゃないけれど、行ける所まで行こう。皆、頼む!」

「「「はい!」ですにゃ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る