第13話 サラサのダンジョン
サラサのダンジョン
今向かっているのは、サラサのダンジョンだ。サラサ自治領に最も近いということで、そう呼ばれている。
途中、魔物と2度ほど戦闘になったが、相手の数も少なく、問題無く退ける。
鶏を二回りほど大きくした感じの奴で、如何にも弱そうだった。クレア曰く、こいつは肉が旨いらしい。時間も無いので、解体せずに、そのままアイテムボックスに放り込む。
『スパイシーチキン』
名前からするに、もはや食べられる為だけに存在するような魔物だな。
スコットの弓はなかなかで、牽制、とどめと十分に役立ってくれる。
結果、今の配置としては、前衛が俺とクレア。後衛にスコットとミレアという形式だ。
ただ、防御役が居ないのが問題だ。ミレアは大盾が使えるので、前衛を抜かれても暫くは持つが、魔法を妨害される。スコットも無防備になる。
現状では、俺がスタントリックを唱えて、ひるんだ所を寄って集って凹るという鉄板戦法で問題ない。今のところ、魔物も散発的にしか出ない。しかし、敵の数が増えてきたら問題だ。
「ということで、攻撃力は落ちるけど、俺が盾になろうと思う」
「それならば私が盾になりますわ!」
「私が前衛になるという手もありますが?」
「うん、クレアにも盾は持って貰う。ミレアも、盾スキルを持っているので、盾は持っていてくれ。でも、ミレアの魔法は攻撃の要なので、前に出るのは却下だ」
「ぼ、僕ではダメですかにゃ? 僕も男ですにゃ。女性を守りたいですにゃ!」
「う~ん、気持ちは分かるけど、スコットはこの中で最も防御が低い。なので、もう少しステータスが伸びてから考える、ということで我慢してくれ」
俺はアイテムボックスから、先程の盗賊から分捕った中でも比較的小さな盾、小手と一体型のをクレアに渡した。
「相手が少数なら、今まで通りで行こう。敵の数が増えたら、俺が盾を構えて引き付ける。その間に皆で攻撃だ」
「気が引けますけど、アラタさんの決定なら従いますわ」
「仕方ありません。私も、もっと魔法の腕を鍛えます」
「ぼ、僕も頑張りますにゃ!」
本来ならば、クレアに盾役になって貰うのがベストだろう。俺の機動力も活かせる。
しかし、スコットではないが、彼女達にそんな危険な役を任せる気にはなれなかった。
一応、俺の防御力が最も高いというので理由付け出来るが、それを言えば、攻撃力が最も高いのも俺である。
そうこうするうちに、ダンジョンの入り口と思しき、洞窟が見えて来た。
「あれだな?」
「「「はい」」ですにゃ」
「スコットは入ったことがあるのか?」
「はい、ありますにゃ。でも僕達は、10階層の主相手に逃げ帰ったですにゃ…」
こいつもか!
全員が目を伏せる。
「まあいい、とにかく入ろう」
中は、ミレアが言っていた通り、それ程暗くは無かった。壁全体がほんのりと明るい。
俺はアイテムボックスから、盗賊の持っていた盾を取り出し、左手に持つ。
全員、今できる限りの完全装備で進む。
俺が先頭を歩き、クレア、ミレア、スコットの順だ。
危機感知スキルに反応があった。
「この先に小部屋でもあるのだろう。6匹固まっているな」
「はい、すぐに少し広い部屋がありますにゃ」
「お、スコットは地形を覚えているのか?」
「完全ではないですにゃ。僕の時は、最初の階層にはゴブリンが居たですにゃ」
「私の記憶でも、最初の階層はゴブリンでした。大して強くないです。でも、6匹は多いですね。私達の時は、一度にせいぜい2~3匹でした」
ミレアが補足する。
「難易度が上がっているのか? とにかく油断せず進もう」
視界が開けると、小鬼の集団が居た。身長は130cmくらい。武器は剣、斧、弓、槍と、ばらばらだ。
目が合った!
俺は盾を構えて、部屋の中に躍り込む!
ゴブリンも俺に向かって走りこんでくる!
「スタントリック!」
先頭の、槍を構えて突進してくる奴をひるませた!
「くたばりなさい!」
クレアの鉄球が、動きを止めたゴブリンの頭に直撃する!
「クレアナイスだ! しかし、前に出過ぎるな!」
「はい!」
「ファイアウォール!」
俺に群がろうとしていた一団に炎の壁が襲い掛かる!
集団が一気に崩壊した。一匹を残してばたばたと倒れる!
残った一匹が弓を放ったが、俺は盾で難なく防ぐ。
俺の横を後ろから矢がかすめていく!
その矢がゴブリンの頭部に見事に命中した。
「グオ!」
悲鳴と共に最後の一匹が倒れる。
俺は、再び危機感知スキルで辺りの様子を探る。
遠くのほうにいくつか固まっている気配はあるが、目の前に倒れている連中からは何も感じられない。
「皆、良くやってくれた! 完璧だな!」
クレアは俯いて照れ臭そうにしていたが、ミレアはとスコットは当然と言った顔だ。
「ミレア、少し火力が上がったようだな。前回までだと、一撃とはいかなかっただろう」
「はい、ありがとうございます。アラタさんと一緒だと、能力値の上昇が高いです」
「クレアもスコットも、この調子で頑張ってくれ」
「「はい!」ですにゃ!」
「この感じだと、ここの階層の敵は問題無さそうだ。下の階を目指そう。道が分かるか?」
「はい、案内できるかと思います。この部屋を出て、次の分岐を右です」
ミレアの答えに、クレアもスコットも頷いている。
俺達は魔核を回収し、準備を整えてから歩きだす。
ゴブリンの肉は臭くて食えないらしく、売れる物も無いそうなので、死体は放置していった。
下に続く通路まで、3度戦闘をこなしたが、さっきと同じやり方で、全く問題無く全滅させた。
「よし、降りよう。降りたら休憩できるような場所を探そう。出来れば、冒険者が通らなそうな場所がいいな」
「それなら心当たりがありますにゃ」
やはり地形を知っている者がいると心強い。
もっとも、10階層までだろうが。
階段を下りながら、レクチャーを受ける。
どうやら、次の階もゴブリンばかりらしい。
通路を降りると、俺の危機感知が、次の小部屋に集団が居ることを告げる。
しかし、何故か一匹だけ気配が違う。
「数は5匹だが、一匹だけ少し大きな気配の奴が居る。注意してくれ!」
「「「はい!」」ですにゃ!」
今までと同様に俺は盾を構えながら部屋に飛び込む。
見回すと、ゴブリンが4匹。しかしその中に、2mはある奴が一匹居た!
「オーガですわ! この階層には居ないはずなのに…」
「でかいのは俺に任せろ! 後は今まで通りいくぞ!」
「スタントリック!」
俺はオーガをひるませる!
「ファイアウォール!」
ミレアの魔法で、ゴブリン達が一斉に倒れる!
一匹残ったが、スコットの的にされ、頭を射貫かれた。
最後に、炎に包まれたオーガが俺に向かって来たが、もう遅い。
俺の背後から飛び出して来たクレアに、鉄球を叩きつけられる!
「うん、少し予想外の奴が居たようだけど、問題無さそうだな」
「そうですね。ですが、やはり一旦休憩したほうがいいでしょう。外はもう真っ暗なはずです」
よくよく考えてみれば、10階層まではクレアとミレアだけで行けたのだ。
この程度で躓くわけには行かない。
「よし、休憩場所を探そう。スコット、案内頼む」
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