第11話 新種

        新種



 冒険者に関する一通りの説明を受けて、次は魔法書だなと思った瞬間、俺の危機感知に何かが引っかかった。


 俺は立ちあがって、感知した方向に目を向ける。

 二人もすぐさま立ち上がり、俺の見る方向を睨む。

 クレアは腰からチェーンフレイルを、ミレアはアイテムボックスから大楯を取り出す。


 林の奥から3mはあるだろうか? 赤褐色の、人型の一つ目の巨体が姿を現す!

 右手には、巨大な棍棒を握っていやがる。

 ん? 木の陰から一つ目の頭が増えた?


 双頭の一つ目巨人?


「知っている魔物か?!」

「見たことないですわ!」

「サイクロプスの亜種でしょうが、こんなの聞いた事もないです!」


 俺は魔法を覚えて、役割分担とか準備が整ってから、と思っていたが、パーティーを組めただけでも幸いと思うことにした。


 逃げるか?


 俺のステータスは高いとはいえ、ド素人だ。足手纏いが居ては、彼女達に負担を強いる。

 得体の知れない魔物相手じゃ危険すぎる!


 ここは逃げるべきだ!


 そう思った瞬間、再び俺の危機感知スキルが街道に多数の気配を感じた!


 チッ! 

 冒険者の一団だろうか? もしクエストのことを知っていれば、目の色を変えて追って来るだろう。

 魔物の一団だとしたら、もっとまずい。挟み撃ちにされる。

 しかし、この距離なら、林の中の俺達はまだ発見されていないだろう。


 街道に出ずに、この林を逃げ切れるだろうか?

 俺は一瞬悩んでから指示を出した。


「街道は塞がれている! 近くにはこいつ一体だけだ。やるぞ!」

「「はい!」」


 いざとなれば、テレポートの石だ!


「二人とも普段通りに戦ってくれ。俺は遊撃に徹する!」

「「はい!」」


 言うが否や、俺は一度左に飛び、彼女達の射線を確保してから突進する!

 横を見ると、クレアも俺とは反対側から魔物に突進していた。


「ファイアショット!」


 後ろから声とともに、バレーボールくらいの火球が俺の横をかすめる!

 その火球が、巨人の腹に直撃した!


 あの距離からでも当たるということは、敵の素早さはそれ程でもないのだろう。

 しかし、あまり効いているようには見えない。


 巨人は何かを探すように両頭を振ったが、そのまま俺に向かって歩を進める。


 しめた! ロッタの帽子の認識阻害が効いているのかもしれない。

 今のところ、あいつらは狙われていない!


「ムンッ!」


 巨人の掛け声と共に、巨大な棍棒が俺目掛けて振り下ろされる!

 ヤバイ! と思った瞬間、自分でも信じられない速さで身を屈めながら、奴の足元に入り込んだ!


 しかし、その俺を踏みつけようと、片足が上がる!


「させませんわ!」


 横から声がすると同時に、巨人の脇腹に鉄球がめり込む!

 巨人の動きが一瞬止まる。


 クレアナイス! と思いながら、渾身の一撃を目の前の巨人の股間に叩き込んだ!


 ♂の感触は無かったが、効いたはずだ! 

 普通の男なら、間違いなく気絶するだろう。


 巨人が片膝をつく。

 その隙を逃さず、クレアが巨人の腹に、もう一度鉄球をめり込ませる!


「喰らえ!」


 俺はとどめとばかりに、そのめり込んだ痕に蹴りを入れる!


 が、俺は吹き飛んでいた。


「ぐぇ…へ…」


 脇腹に激痛が走る! 息が出来ない!


 宙を舞いながら振り返ると、巨人の棍棒が背後にあった。


 油断した!

 蹴りを放つ瞬間に殴られたのだろう。


 無意識に体を丸め込み、そのまま地面を転がる。


 まだ大丈夫だ! 意識もある!


 俺が体を起こそうとすると、クレアが凄い形相で駆け寄って来た!


「ファイアウォール!」


 ミレアの声と共に、目の前に炎の壁が形成され、巨人と俺達を分断する!


「ヒール!」


 クレアの回復呪文だな。痛みが少しだが和らぎ、息も楽にできるようになった。


 巨人も体勢を立て直し、炎の壁越しに俺を睨んでいる。


「グハッ! もう大丈夫だ! クレア! ミレア! 奴の目を狙ってみてくれ!」

「「はい!」」


 この手の奴は、ゲームとかなら、大抵目が弱点だ! それに、視界を奪えれば、こちらがかなり有利になる。

 だが、言ってはみたものの、3m近い位置にある目を狙うのは俺にはきつい。

 魔法なら何とかなるだろうが、俺は覚えていない。

 ここは彼女達に任せるしかないだろう。


「ウィンドカッター!」

「アクアダーツ!」


 立て続けに魔法が飛び、巨人が両手で両の目を押さえる!


「効いてるようだ! ミレア! 盲目効果の奴も頼む!」

「はい!」


 俺も立ちあがって炎越しに巨人を睨む。


 味方には効かないんだよな?

 俺は頭を抱えなら炎の壁を突き破る。

 うん、熱くない!


 俺は腰に差していたダガーを抜く。


「隙だらけだぞ!」


 目を押さえながら、ふらふらしている巨人の脛を斬りつけた!


 再び巨人が片膝をつく!


「イビルファイア!」


 巨人の頭に小さな火球が命中すると、奴は両手を闇雲に振り回し、両の瞳を左右に移動させ始めた。


「よし、見えていない! クレア、叩き込め!」


 クレアも炎を突き破ってジャンプし、がら空きの目玉に鉄球を叩きつける!

 俺も後ろから回り込み、もう片方の脛も斬る!


 ドッ! と音を立てて巨人は両手を地面について、四つん這いになった!


「ファイアショット!」


 鉄球で窪んだ頭が燃え上がる!


「これで終わりですわ!」


 クレアが燃えている頭を目掛けて、チェーンフレイルを振りかぶる!

 鈍い音がして、鉄球が頭部にめり込んだ。


 しかし、まだ終わらない。


 奴はまだ無事な方の目を見開き、片手で着地寸前のクレアの腰を鷲掴む!

 チッ! 認識阻害は効いてなかったか!


「ヴッ…!」

「クレア!」


 俺は、巨人の生きている方の目に、ダガーを突き立てた!

 奴は慌ててクレアを投げ飛ばし、両手で目を庇おうとする。


「しぶとい!」


 俺は巨人の両手首を掴み、目を露出させる。

 そのまま突き刺さったダガー目掛けて、渾身の膝蹴りを叩き込む!

 ダガーが奥まで食い込んだ感触が伝わる。


 再び大きな音を立てて、遂に巨人は倒れた。


「クレア!」

「お姉様!」


 俺がぐったりしているクレアに駆け寄ろうとすると、ミレアが先に飛び掛かる。

 ミレアは右手でクレアの頭を支え、左手を虚空に突っ込み、回復薬を取り出した。


「飲んで!」


 ミレアが強引にクレアの口に回復薬を押し込み、口を閉じさせる。


「ゲッ…! ゴホッ!」


 ようやくクレアが目を開けた。


 俺は巨人を一瞥してから、再び危機感知しようと集中する。

 目の前で突っ伏している魔物からは何も感じられない。 

 また、街道の集団は移動していないようだ。

 冒険者の集団なら、流石にこの騒ぎに気付かないはずはない。何らかの反応があるだろう。

 という事は、魔物の集団であった可能性が濃厚だろう。

 念の為、もう一度集中してみると、今度は、はっきりした数が感じられた。

 10…、12匹か。こっちには気づいていないのか、無視しているのか…。

 どっちにしろ、暫くは街道に戻らないほうが得策だろう。



「暫くは大丈夫そうだ。クレア、動けるか?」


 クレアは返事の代わりに黙って立ち上がろうとする。慌ててミレアが手を貸した。


「いや、そのままでいい! じっとしてろ!」


 クレアは自分で回復できるはずだが、これ以上負担はかけたくない。

 回復薬も後々を考えると、景気良くは使えない。

 現状、クレアが死ぬことは回避できたようだし。


 そう言えば、確かさっき見たステータスでは、回復魔法1があった。俺にも使えるはずだ!

 夢の中でリムがやっていたことを思い出す。


 俺は意識を内側に集中し、「ヒール!」と唱えてみた。

 すると、自分とクレアの名前が目の前に浮かんだ。

 俺は迷わず自分を選択する。クレアで試す気なんて当然無い。

 すると、柔らかい空気が脇腹を撫でる感触。

 さっきクレアにして貰った感覚だ。


「ヒール!」


 今度はクレアを選択した。


「これは…?」


 クレアが俺を見る。その顔は朱が射したように見えた。


「大丈夫か?!」

「凄いですわ! 一度で完全に回復しましたわ! ありがとうございますわ!」

「いや、ぶっつけだったが…、良かった…。うん、チート能力貰って、舐めてたようだ。危うくクレアを失うところだった」

「「そんなことありません!」わ!」

「まあ、何とか生き残れた。ところで、ミレア、あれ、どうする?」


 俺は顎で魔物の死体を指す。


「う~ん、肉は食えそう…、いや、食べたくないですね。頭は何かに使えるかもしれません。取り敢えず魔核だけは取りましょう」

「じゃあ、ミレア、剣を貸してくれ」

「はい」


 ミレアは腰のショートソードを俺に渡した。

 俺はその剣を巨人の首に押し当てる。


「ンッ!」


 力を込めると、ゴロンと巨人の首が転がった。

 更にもう片方の首も刈り取る。

 魔核も取ろうと思ったが、良く考えれば、何処にあるのか分からない。

 取り敢えず、俺は巨人の目からダガーを回収する。


「済まない。魔核は何処にあるんだ?」

「私もこの魔物は初めてです。ですが、魔核は大抵心臓に近い部分、ないしは身体の中心にあるはずです。私がやってみます」


 俺がミレアに剣を返すと、彼女は死体に駆け寄り、器用に剣を使って胸の辺りから魔核を取り出した。

 魔核はフォートウルフの物の倍近くあり、凹凸も少なく、透明度も高いので、濃い紅色の水晶玉のような感じだった。


「高く売れそうです」


 俺も魔物の両首をアイテムボックスに放り込んだ。

 確認の為、ステータスを見る。

 HPは完全に回復していた。思ったよりダメージはなかったようだ。

 しかし、その後が凄いことになっていた。


    【ステータス表示】


氏名:アラタ・コノエ 年齢:22歳  性別:男

職業:冒険者 勇者 貴族 レベル:8

体力:210/210

気力:234/240

攻撃力:225 +5

素早さ:245 素早さ+1

命中:245 

防御:210  +16

知力:285

魔力:245  +1

魔法防御:225

スキル:言語理解5 交渉術2 危機感知2 人物鑑定2 特殊性癖1 

    格闘術2 剣術1 回復魔法1 水魔法0 土魔法0 光魔法0 

    家事2 社交術2 

    アイテムボックス196



 危機感知と格闘術のスキルがレベルアップしていて、剣術まで取っている!

 ステータスは、50~70も増えている!

彼女達の能力と比べると、最低でも倍はありそうだ。

 ついでにアイテムボックスの中も確認したところ、


???の頭×2


 というのが増えていた。

 不思議に思って、ミレアを見ると、目が合った。


「ミレア?」

「アラタさん?」

「「この???って?」」


 見事にはもった。


「未知の魔物ってことですかね?」

「わからん。不便だし、俺達で呼び名をつけるか?」

「う~ん、アラタさん、お願いします」

「俺に振るのか?! まあいい。『ツインサイクロプス』で、どうだ?」


 俺はサイクロプスの亜種と言われたことを思い出し、適当に言ってみた。

 すると……、


ツインサイクロプスの頭×2


 表示が変更された。

 この世界、良くも悪くも適当だな。

 二人が笑いを堪えている。


 はい、どうせネーミングセンスありませんよ!

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