第10話 ダンジョンへ向けて
ダンジョンへ向けて
俺達が座って話が出来るところを探していると、衛兵とかとは違った、動き易そうな、皮製の防具に身を包んだ亜人の男が近づいてきた。
「モーテルさんですね?」
ばれたか?! でも、早すぎるだろ?
俺達が身構えると、
「あ、待ってくだせぇ。ウルベンさんの使いでして。探しやしたぜ」
「はい、モーテルです。それで?」
俺達が構えを解くと、そいつは小声で喋り始めた。
「全国の冒険者ギルドにクエストが発注されやした。依頼内容は、赤髪と青髪のお嬢さんの捜索、確保といったところで」
「俺には出てないんですか?」
「モーテルさんには出ていませんぜ。でも、『さっさと行けなのだ。』だそうで」
「分かりました。ありがとう! ウルベンさんに宜しくお願いします!」
なるほど、何でも屋の冒険者にはこういう使い道もある訳だ。少し油断していたようだ。
俺はすぐに、被っていたロッタの帽子を、クレアに押し付ける。
ミレアも俺の行動の意味を理解して、アイテムボックスからロッタの帽子を取り出した。
二人とも帽子を深く被ってから、更にコートのフードを被り、胸元を締める。
「ロッタの帽子はまだある?」
「残念ながら」
「いい、君達…、いや、お前らの方が必要だ。とにかく急いで町を出よう!」
「「はい!」」
「それと、テレポートの石は?」
「あと一個だけありますわ」
「う~ん、それは本当の非常用にとっておこう。今ならまだ間に合うだろう」
「そうですね。多分、ウルベンさんが時間を稼いでくれているはずです」
俺達は足早に町の門をくぐった。
門には昨日の衛兵が居た。
絡まれると面倒だなと思ったが、じろじろと俺を見るだけで、何も言わない。
町から出る奴はノーチェックなのだろう。とにかく助かった。ここで時間を食うわけにはいかない。
「どっちだ?」
「こっちですわ!」
黙ってクレアについていく。
幸いなことに、魔物には出会わなかった。
ミレアによると、この街道はダンジョンに行くのに利用されているので、冒険者の往来が多いとのことだ。ある程度狩り尽くされているのだろう。
暫く歩くと、街道が林に覆われた。
「よし、林の奥で少し休もう」
「「はい!」」
林を分け入ると、少し開けた所に出た。
大木を背に、皆でへたり込む。
俺は危機感知スキルに期待して、周囲に注意を払ってみたが、特に何も感じられなかった。
「落ち着いたところで作戦会議をしよう。まず、ここからダンジョンは近いのか?」
「そうですわね。小一時間くらいのところにありますわ」
「私達がナガノ様に助けられたダンジョンです」
「それは好都合だ。詳しく聞かせてくれ」
ミレアが説明してくれた内容によると、
彼女達は3日ほどかけて10階層まで進み、そこで階層主と思われる魔物に会い、二人とも負傷して諦めかけたところを、ナガノさんに救出されたらしい。
ダンジョンの中は、洞窟みたいで、迷路のようになっている。
曲がりくねっていて視界は悪いが、壁が発光しているので、暗さはそれ程感じないという。
中には沢山の小部屋があり、たいていの魔物はそこで待ち伏せている。
また、各階には必ず、下の階に通じる、急勾配の通路があるとのことだ。
「なるほど。ありがとう」
「ダンジョン内は危険の巣窟ですわ。焦る必要はありませんわ。しっかりと準備をしてから挑むべきですわ」
「そうだな。幸いここは魔物が少ないようだ。ここで準備を整えよう。まずはお互いを知ることだろう。クレア、ステータスを見せてくれ」
「はい」
【ステータス表示】
氏名:クレア 年齢:20歳 性別:女
職業:奴隷〈リムリア・ゼーラ・モーテル〉 レベル:28
体力:91/91
気力:85/85
攻撃力:102
素早さ:98 +1
命中:92
防御:80 +12
知力:63
魔力:70 +1
魔法防御:83
スキル:言語理解3 棍棒3 格闘術1 水魔法1 回復魔法1
家事4 社交術2 特殊性癖2
アイテムボックス196
【装備】
レインコート:防御+5
ロッタの帽子:防御+1 認識阻害弱
皮の胸当て:防御+5
皮の靴:素早さ+1
布の服:防御+1
布の下着:魔力+1
【選択可能情報】
職業:冒険者× 侍女×
【所持品】
チェーンフレイル:攻撃+25
金貨×2
銀貨×41
アイテムボックスの中身は、ハンドバッグを覗くような罪悪感があり、流石に遠慮した。
「なるほど、クレアは物理攻撃が得意なようだな。でも、魔法も使える。凄いな」
「でも、魔法はあまり得意じゃありませんわ」
「いやいや、それでどんな魔法が使えるんだ?」
「水魔法は、アクアダーツとウォーターチャージ。回復魔法はヒールとディサイレン、ですわ」
「どんな効果なんだ?」
「アクアダーツは5本の水の矢を撃ちますわ。ウォーターチャージは、水を発生させますが、生活用ですわね。ヒールは治癒魔法ですが、私の魔力では、回復薬には及びませんわね。ディサイレンは、味方の魔法詠唱不可の状態を回復させますわ」
「ありがとう。家事4は、料理とかも上手なのか?」
「お姉様の料理は絶品です。ダンジョンは長期戦です。魔物の肉も食べないと持ちませんので、家事スキルは重要です」
「ふむ、次はミレア、頼む」
【ステータス表示】
氏名:ミレア 年齢:19歳 性別:女
職業:奴隷〈リムリア・ゼーラ・モーテル〉 レベル:26
体力:72/72
気力:90/90
攻撃力:71
素早さ:88 +1
命中:72
防御:70 +12
知力:85
魔力:86 +5
魔法防御:80
スキル:言語理解4 剣術1 ガード1 火魔法2 風魔法1
家事3 社交術2 特殊性癖2
アイテムボックス223
【装備】
レインコート:防御+5
ロッタの帽子:防御+1 認識阻害弱
皮の胸当て:防御+5
皮の靴:素早さ+1
布の服:防御+1
シルクの下着:魔力+5
【選択可能情報】
職業:冒険者× 侍女×
【所持品】
ショートソード:攻撃+7
金貨×2
銀貨×20
「なるほど、ミレアは魔法が得意そうだな」
「いえ、まだまだです。使えるのは、先日お見せしたファイアショット。盲目効果が少しあるイビルファイア。範囲攻撃のファイアウォール。風魔法では、敵単体にウィンドカッターです」
「範囲攻撃とはどれくらいの範囲なんだ?」
「ファイアウォールの場合は、長さ5mくらいの炎の壁です。壁の向きは発動時に変えられます」
「ガード1とは?」
「盾のスキルですね。大型の盾を扱えるようになり、防御力も、スキルレベルによって増します」
「ありがとう。じゃあ、俺のスキルなんだけど、何でも気が付いたことを教えて欲しい。当然だが、他言無用に頼む」
【ステータス表示】
氏名:リムリア・ゼーラ・モーテル 年齢:15歳 性別:女
職業:冒険者 レベル:3
体力:140/140
気力:190/190
攻撃力:155 +5
素早さ:175 素早さ+1
命中:175
防御:140 +16
知力:235
魔力:195 +1
魔法防御:175
スキル:言語理解5 交渉術2 危機感知1 格闘術1 人物鑑定2 特殊性癖1
回復魔法1 水魔法0 土魔法0 光魔法0 家事2 社交術2
アイテムボックス58
【選択可能情報】
氏名:アラタ・コノエ 年齢:22歳 性別:男
職業:勇者 貴族
【装備】
レインコート:防御+5
皮のグローブ:攻撃力+5
皮の胸当て:防御+5
皮の靴:素早さ+1
皮の帽子:防御+5
布の服:防御+1
布の下着:魔力+1
【所持品】
ダガー:攻撃力+5
奴隷:クレア ミレア
銀貨×12
奴隷は所持品扱いなんだ…。
しかし、リムの名前で登録したし、リムの所属のはずでは?
まあ、細かいことは考えないでおこう。お前の物は俺の物…か?
もう一つ不審点に気付いた。
確かリムに見せて貰った時、魔法は全部レベル1だったはずだが?
「流石はアラタさんですわ!」
「勇者スキル、チートですね。ですが、この魔法スキルの0というのは?」
「うん、最初は俺にも適性があると思っていたのだけど、今までの話を総合すると、俺個人には適性が無く、リムには使えるのだと思う。後で試してみる」
「初めて見ましたが、アラタさんがそう仰るのなら、きっとそうなのですわ」
「う~ん、よく分りません。あ、アラタさん、職業は、奴隷や盗賊以外ならば、複数選択可能です」
「え、そうなんだ! 試してみよう」
【ステータス表示】
氏名:リムリア・ゼーラ・モーテル 年齢:15歳 性別:女
職業:勇者 冒険者 貴族 レベル:3
「お、できた!」
「しかし、貴族なんて位はいつ取られたのですか? 貴族職は奴隷との相性がいいらしいので、嬉しいのですが」
「リムの持っていた職業だろう。家事にしても、俺は料理はしないし、社交術も思い当たる節が無い」
「二重魂の結果なのですね。しかし、モーテルさんの過去って?」
「リムの過去に関しては、彼女から言うまでは、触れないつもりだよ」
「そのほうがいいですわね。アラタさんはお優しいですわ」
「そんなもんじゃない。聞く覚悟が無いだけだ……」
しまった! 皆黙ってしまった。
「しかし、貴族と奴隷が相性いいとはラッキーだったな。どんな効果があるんだ?」
「噂の範囲なのですが、その…ある条件で、お互いのステータスの伸びが良くなると聞きましたわ」
「ある条件?」
「私も詳しくは分かりません。ただ、逆もあるとか聞きます」
「う~ん、分からないなら置いておこう。あと、ウルベンさんの言っていた、冒険者のメリットとは?」
「私達の知る限りでは、パーティー編成された仲間には、味方の攻撃系の範囲魔法が効かないです。また、回復系の魔法はパーティー内の仲間になら同時にかけられます。もっとも、効果は人数割りになりますが」
「あと、連続で違う人の攻撃が当たるとダメージを増加させられますわ」
「なるほど、確かにかなりの効果だ。絶対に冒険者になれと言うのも頷ける」
「しかし、冒険者は一人居ればパーティー編成できるんだろ? 何故俺が取らないといけないんだろう? お前らが冒険者で、俺がそこに入れて貰う形でも良かったと思うけど?」
「私達も詳しい理由は分かりません。しかし、パーティーリーダーは冒険者、ないしは、冒険者の奴隷でないとできません」
「う~ん、思いつくのは、俺がリーダーになった場合、勇者の補正がかかるとかかな?」
「多分そうですわ! あと、長野様のパーティーは、全員奴隷でしたわ!」
「え! それは初耳だな。それでお前ら奴隷になりたかったのか?!」
なるほど。これで、何故彼女達が態々奴隷になんかに、という疑問も解消した。
こいつらは、最初にダンジョンをクリアした、ナガノさんの真似をしたかったのだろう。
「はい。そして長野様の従者は奴隷故でしょうか、名前が全く知られていません」
「そら、偉い人からすれば奴隷がダンジョン攻略した、なんて言えないだろうな。しかし、そうなら、お前らには申し訳ない…。もし攻略できてもお前らの功績は評価されなくなるわけだ…」
「私は、アラタさんとご一緒できるだけでいいのですわ!」
「全くです! そんなことは攻略してから言ってください!」
「確かにそうだな。うん、ありがとう。とにかく、早速パーティー編成をしよう」
「そうですわね。では、ステータス表示から【パーティー編成】と念じてください」
「分かった」
俺が【ステータス表示】【パーティー編成】と念じると、2人の名前が表示された。
クレアとミレアだ。
「続いて、私達の名前を加入させると念じてください」
クレア、ミレア加入と念じると、ステータス表示の下に、新しい表示が出た。
【パーティー編成中】
パ-ティーリーダー:リムリア・ゼーラ・モーテル 冒険者 勇者 貴族
:アラタ・コノエ 勇者
パーティーメンバー2:クレア 奴隷(冒険者)
パーティーメンバー3:ミレア 奴隷(冒険者)
何となく理解できたような気がする。
これもイレギュラーの結果ということなのだろう。
「解散するにはどうすればいい?」
「簡単ですわ。【パーティー解散】と念じるのですわ」
言われた通りにすると、【パーティー編成中】の表示が消えた。
俺は少し考えてから自分のステータスをいじる。
【ステータス表示】
氏名:アラタ・コノエ 年齢:22歳 性別:男
職業:勇者 冒険者 貴族 レベル:3
続いて先程の手順で、パーティー編成をする。
【パーティー編成中】
パ-ティーリーダー:アラタ・コノエ 冒険者 勇者 貴族
:リムリア・ゼーラ・モーテル 冒険者 勇者 貴族
パーティーメンバー2:クレア 奴隷(冒険者)
パーティーメンバー3:ミレア 奴隷(冒険者)
うんうん、予想通りの結果だ。
しかし、パーティーは6人までの編成と聞いた。
だが、リムは俺が起きている限り戦力になれない。逆も当然だろう。
つまり、俺のパーティーは、5人までしか組めないということになりそうだ。
二人が驚いた顔をしている。自分のステータスを確認しているのだろう。
「「これは…いったい?」」
「まあ、そういうことになるのだろう。理由も想像できる」
「「はあ……」」
「とにかくこうなった。深く考えるな。有効活用できるようにしよう」
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