第9話 奴隷契約

       奴隷契約



 心の中でリムの声が聞こえる。


「そろそろ起きて! うまく行ったわよ!」

「ん~、分かった。寝る前に、ステータス表示を教えてくれると助かる」

「そうね。はい」


 俺の頭の中に情報が飛び込んでくる。



   【ステータス表示】


氏名:リムリア・ゼーラ・モーテル 年齢:15歳 性別:女

職業:冒険者 レベル:3

体力:140/140

気力:190/190

攻撃力:155  +5

素早さ:175  +1

命中:175 

防御:140  +12

知力:235

魔力:195 +1 

魔法防御:175

スキル:言語理解5 交渉術2 危機感知1 格闘術1 人物鑑定2 特殊性癖

    回復魔法1 水魔法1 土魔法1 光魔法1 家事2 社交術2 

    アイテムボックス58 



「うんうん、予想通りだ! ん? スキルが増えてる!」

「昨晩、彼女達に魔法書を読ませて貰ったのよ。でも、火と風は、元々あたしじゃ無理ね。じゃ、2ページ目いくわよ」


    【選択可能情報】

氏名:アラタ・コノエ 年齢:22歳 性別:男

職業:貴族 勇者


    【装備】

レインコート:防御+5 

ロッタの帽子:防御+1 認識阻害弱

皮のグローブ:攻撃力+5

皮の胸当て:防御+5

皮の靴:素早さ+1

布の服:防御+1

布の下着:魔力+1


    【所持品】


銀貨×70

皮の帽子:防御+5


「本当に凄いな! リム、いや、リムリアか? 良くやってくれた!」

「リムがいいわ。私の為でもあるから、可能な限り協力するわ。だから早く出て行ってね!」

「そうしたいのはこっちもだ。とにかくありがとう。じゃあ、チェンジだ」

「ええ、おやすみなさい」



 俺はゆっくりと目を開ける。

 目の前には、精悍な狼顔。


「うわっ!」

「ん、どうしたのだ? 少し様子がおかしかったのだ」

「いや、大丈夫です。ところで…」

「うむ。言われた通り、このことは黙っているのだ。僕は口が堅いのだ」


 周りを見回すと、昨日の応接室のようだ。両隣にはクレアとミレアが少し不安そうにしている。


「じゃあ、これで冒険者登録は問題ないですね。あ、ちょっと待って下さい」


 俺は【ステータス表示】と念じてみる。

 すると、俺のステータスが、頭の中に表示された。

 ふむ、慣れると、頭の中で直接見られる訳ね。


【ステータス表示】


氏名:アラタ・コノエ 年齢:22歳 性別:男

職業:勇者 レベル:3


 ん? 何か閃いた。ダメ元だし、やってみよう。


 氏名変更:リムリア・ゼーラ・モーテル、職業変更:勇者 と、念じてみた。


【ステータス表示】


氏名:リムリア・ゼーラ・モーテル 年齢:15歳 性別:女

職業:冒険者 レベル:3



 思った通りだ! 便利なことに、俺は二重魂の影響で、名前等重要な情報も二重になり、しかも、入れ替え可能のようだ。


「あ、いいです。それで、これからのことなのですが」

「うむ、支援は惜しまないのだ。信頼できる冒険者も数人だが居るのだ」

「それは嬉しいのですが、まず、ミレアとクレアについてです。どうするつもりですか?」

「僕が匿うつもりなのだ」

「そこなのですが、彼女達、預からせて頂けませんか?」


 そう、これ以上、俺とリムの秘密を、他人には知られたくないのだ。

 なので、ついて来て貰うのは、現在秘密を知っている、彼女達だけにしたい。


「それは、僕としてはいい話なのだ。しかし、彼女達はそのうち指名手配される可能性が高いのだ。それに、まだレベルもそれ程ではないし、足手纏いになるのだ」

「レベルなら、俺のほうが遥かに低いです。それに、ダンジョンの中のほうが、彼女達にとって安全だと思いますが?」 

「むむ、それはもっともなのだ。貴殿がいいのであれば、連れて行くといいのだ!」

「「ありがとうございます! 近衛様! ウルベン様!」」


 二人は、今までで最高の笑顔で、大きく頷いた。


「では、お預かりします。それと、昨日のナガノさんへのお願いの件ですが」

「そのことなのだ。僕も良く考えてみたのだが、無理なのだ」

「理由を聞いても?」

「うむ、まず貴殿が、何故こんな美少女に転生できたかを、良く考えてみるといいのだ」

「やっぱりですか。この身体は普通の死体ではなく、意図的に用意されたものなのですね」

「そうなのだ。最近は貴族達が、召喚の儀の際に、死体を献上することが多いのだ」

「勇者が転生できれば、その死体を献上した貴族に、報酬が与えられると」

「物分かりがいいのだ。だから、貴殿の転生を帝国に任せると、無用な犠牲を増やす可能性が高いのだ」


 俺が黙っていると、ウルベンさんは更に続ける。


「悲観してはいけないのだ! 魂転移のヒントは、必ずダンジョンにあるのだ!」


 ん? ウルベンさん、言い切ったな。

 これは推測だが、ウルベンさんは、昨夜のうちにナガノさんと連絡を取ったのではなかろうか?

 魂転移のことも、そこまで知っていたのなら、昨日断ったはずだ。


「では、ダンジョンに期待します。それと魔法書は?」

「そこにあるのを持って行くといいのだ。まずはそこから始めるのだ。その2属性は、勇者に適性が高いと言われているのだ。でも、多分どちらかしか使えないのだ」


 ウルベンさんが指した先には2冊の本があった。


『君にもできる! 闇魔法』『今日から魔法使い! 光魔法』 


 俺は光魔法しか覚えられないような気がするが、せっかくだし両方貰っておこう。

 もしかしたら、クレアかミレアが覚えられるかもしれない。


「ありがとうございます。あと、準備してくださった冒険者ですが」

「3人居るのだ。レベルは40台。即戦力なのだ」

「申し訳ないですが、最初は彼女達だけで行こうと思います。そのほうが、ナガノさんの意思とやらにも、添えそうな気がしますので」

「むむ。予想外なのだ。でも、僕は嬉しいのだ! イオリちゃんも喜んでくれるのだ!」

「はい、では行ってきます」

「うむ、何かあったらすぐに帰ってくるのだ。ここは辺境だから、暫くは安全だと思うのだ」


 俺達が冒険者ギルドを後にすると、二人が満面の笑みで纏わり付いてきた。


「今は近衛様ですわね?」

「うん。リムから話は聞いているよね?」

「はい、登録を済ませて、ウルベン様のお部屋に入られてから、入れ替わったのですね?」

「良く気付いたな~」

「雰囲気が全く違いますわ」

「モーテル様から、合図みたいなものを感じました」

「なるほど」


「でも、勇者様とダンジョンに潜れるなんて、夢のようですわ!」

「本当にありがとうございます。ところで近衛様、ご提案があるのですが」

「あ~、昨晩の話か」


 俺は昨晩、リムと今後のことを相談した。彼女は俺が起きている間、夢を見ている感覚で俺の行動を見ていたらしい。なので話が早い。

 彼女は帝国に戻って、研究が成功するまで待ちたかったようだが、ダンジョンに潜るという、俺の案に同意してくれた。今考えてみれば、彼女も召喚の犠牲者なのは間違いないだろう。

 後は今日の段取りについてだった。

 最後に、クレアとミレアを連れて行きたいと言ったら、『それはいいのだけれど、お姉様達の気持ちは?』と聞かれてしまった。しかし、そこで落ちてしまったので、リムに丸投げしたままだったのだ。



 俺は、昨晩の夢を少し思い出してみる。


「もし、アラタがダンジョンにクレアさんとミレアさんを連れて行きたいと言ったら、どうします?」

「勿論、ご一緒させて頂きますわ!」

「はい、断るなんてとんでもないです。しかし、私共はいずれお尋ね者になるでしょう。その時、近衛様にご迷惑がかかります」


「お尋ね者なのは、あたしも同じよ?」

「では、こうすれば如何でしょうか? 私共をモーテル様の奴隷にするといことで」


 ミレアが予想外の提案をする。


「え?! それに何の意味があるの? 確かに奴隷になれば、ファーストネームだけになるから、ばれにくくはなるけど……」

「それだけではございません。奴隷ならば物扱いなので、検問で怪しまれません」

「でも、冒険者の職業が消えちゃうでしょ? お二人とも職業が冒険者だったのは、アラタに聞いたわよ」

「冒険者の所有する奴隷は、冒険者に近い恩恵が受けられますので、問題ないです」

「う~ん、あたしでは判断できないわ。アラタが起きたら直接聞いてみて。あたしにとってお二人は、美人なお姉様というイメージなので、奴隷なんて違和感があるのだけど」


「美人なお姉様だなんて! 萌えますわ!」

「背徳感が半端ないです!」

「あ~ん、近寄らないで! これ以上、『特殊な』スキルを成長させないで!」



 確かこんな感じだったはずだ。


「何となく聞いていたけど、奴隷なんて本当にいいの? 俺にとってデメリットは無さそうだけど、何か大切な物を失う気がする」

「構いませんわ!」

「問題ないです。近衛様の信用も得られそうですし」

「でもな~」

「奴隷にして下さらなければ、私共、近衛様に同行できないです!」


 ミレア! そう来るのか! 

 まあ、俺も脅しはさんざん使ったし、文句は言えないな。

 なら連れて行かないって言えば、折れそうな気はするし、まだ納得もいかない。

 しかし、ここは、彼女達の熱意に負けたとうことにするか。

 ここまで奴隷に拘る理由も、そのうち分かるだろう。


 でも、こんな美人を奴隷になんて……。ぐへへ。


 だが、現実は無情だ。この『女の身体』では逆に地獄です。


「あ~、もう勝手にしてくれ! で、その奴隷とやらにするにはどうればいい?」


 俺達は彼女達の案内で、奴隷商なるところに行き、手続きを済ませる。

 主人の下卑た視線が痛かったが、手続きそのものは簡単で、費用は銀貨20枚。数分で済んだ。

 奴隷に対しての命令は絶対らしく、所有者の命令には逆らえないとのことだった。また、矛盾した内容の命令には、奴隷自身の判断が適用されるが、苦しめることになるので、注意しなければならないようだ。


「道具屋へ寄って、最後の準備をしよう」


 道すがら、彼女達に何が必要か聞く。


「え~っと、ダンジョンで必要なものを買い揃えたい。俺は分からないし、君達が持っている物と被ってもなんだし、頼むよ」

「そうですわね。調理器具とか野営用の装備は私共が持っておりますし、回復系の薬と、それに結界石ですわ。ご主人様」

「あと、水と食料です。ご主人様」


 俺の呼び方が変わってるぞ。これも奴隷効果なのか?


「ありがとう。でも、その『ご主人様』は止めて欲しい。人目もあるし。あと、仲間になったんだから、その他人行儀な敬語もできれば何とかならないかな?」

「あら、私共は奴隷ですし、この言葉遣いは当然ですわ」

「ご主人様こそ、私共のような身分への、言葉遣いを変えて頂きたいです。もっと、厳しく命令口調でお願いします。そう、『この雌豚!』とか罵るようなのがいいです」


 ん? ミレアの言い方が引っかかる。目がヤバイ。

 こいつ、そんな属性も持っていたのか!


「分かった。じゃあ、妥協点だ。『お前ら』は、俺には『アラタさん』と呼ぶ。敬語は禁止しないが、もっと砕けて欲しい。これは命令だ!」

「命令なら仕方ありませんわ。アラタさん」

「『お前ら』で我慢します。アラタさん」


 俺はリクエストに従って? 後輩に使うような、少しきつめの(偉そうな)言い方にすることにした。

 しかし、皇帝の時もそうだったが、これも、常に自分に言い聞かせておかないと、図に乗ってしまいそうだ。


 そして、奴隷は売買できるが、何があっても、彼女達を売ってはならない!


 俺達はその後道具屋に寄って必要な物を買い揃えた。水は、樽を購入して俺のアイテムボックスに入れる。結界石がそれなりの値段がして、財布は殆ど空だ。二人が払おうとしたが、金はお前らも持っていたほうがいいと断った。


「じゃあ、街を出る前に作戦会議をしよう」



 

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