第8話 冒険者ギルド

     冒険者ギルド 



 クレアは立ったまま俺を見据える。

 その横で、ミレアは涙を拭きながら椅子にへたり込む。


「クレア! ナガノさんが、開放ギルドの創設者なんだろ?」

「はい、そうですわ!」

「では、ナガノさんは君達にどんな指示を出したの?」

「私共が受けた指示は一つだけ。できるだけ速やかに、勇者様を保護することですわ!」

「それ以外には何か言ってなかった?」

「え~っと……」

「冒険者にならせろと伺っています。そして、できる限りの援助をしろと」


 ミレアが割って入った。


「なるほど、だからこの町の冒険者ギルドの長を頼った、か。納得できる。」


 二人は少しほっとした顔をした。

 クレアも落ち着いたのか、椅子に座る。

 ふむ、やはりミレアのほうが話が早そうだ。


「じゃあ、ミレア、何故、ナガノさんが直接俺に接触しなかったか分かる? 彼女なら、俺が召喚される日も知っていたはずだし、俺に会う力があったはずだよね?」

「それは、解りかねます。しかし、思い当たる節はあります。まず皇帝は、長野様がダンジョンを攻略されてから、新たに召喚された勇者様を、極力ナガノ様に会わせないようにしていたようです」

「確かに、カサードさんは馬鹿じゃない感じだったな。ナガノさんが解放ギルドに関わっていると知っていたのだろう。そしてナガノさんも、そんな皇帝を警戒していたと」

「おそらくは」


 まだ解せない。彼女の権力なら、強引に俺に会えるはずだ。

 この二人を、勇者拉致なんて、わざわざ危険な目に合わせる理由が無い。


「近衛様、よろしいでしょうか?」

「うん、ミレア、続けて」

「勇者様が召喚されるのは、この国だけではありません」

「あ~そっか! 流石はミレアだ! つまり他所で召喚された勇者もってことだな。やっと合点がいった!」


 おそらく、彼女は、帝国はそれほど危険とは感じていなかったのだろう。それで彼女自身は、他国の勇者を優先させたってことだろう。また、この姉妹を信頼していたのだろう。


「大体分ってきたよ。でも、何故ナガノさんの指示だったことを伏せていたの?」

「理由は分かりかねますが、ご自身の関与は絶対に口外するなと承っております」

「ふむ、確かに勇者開放ギルドなんて、勇者を兵器利用したい国からすれば、迷惑な存在だしな。しかし、ナガノさんには手を出せない。下手に怒らせたくはないよね。でも、下っ端くらいなら、適当に理由をつけて、取り締まれるってところか」


 クレアがきょとんとしているので、付け足す。


「要は、ナガノさんは、君達を大切にしていたってことだね」


 二人の顔に生気が戻ったようだ。しかし、目つきが修羅場の時と同じ気がするのは俺だけか?


「じゃあ、次の質問だ。何故君達はあそこに、俺の側に居れたの?」


 当然の疑問だろう。彼女達の正体がばれていなくても、易々と勇者を拉致できる奴を、皇帝が俺の近くに置くとは思えない。


「う~ん、何処から説明させて頂ければ宜しいでしょうか? 少し長くなります」

「簡潔に頼む」


 ミレアの話を要約すると、


 自分達は5年前、駆け出し冒険者のくせに、ダンジョンに潜った。

 そこで、相手にならないほど強大な魔物に襲われた。

 そこを、たまたまナガノさんに助けられる。

 お礼に何かしたいと申し出たところ、これから召喚されるであろう、勇者の力になって欲しいと頼まれた。

 ナガノさんの口添えもあり、城で侍女として雇って貰えた。


 そして今に至ったと。


「なるほど、しかし、よくばれなかったな~」

「開放ギルドが活動し始めたのは、4年前の伊勢様逃亡事件の時からでしょう。当時は私共も全く地位は無く、勇者様には接触できませんでした。1年前の日立様の時も、全く関われませんでした。しかし、勇者様に関わっていた者が異動させられてしまった結果、たまたま私共が近衛様にお仕えできたということです」


「しかし、さっきのアイテムボックスみたいなのがあれば、簡単に今回みたいになる訳で。警戒甘すぎだな」

「いえ、身体検査はしっかりありましたが、そこはその…、女性だけの隠し場所が……」


 ミレアが俯く。クレアは足をキュッと閉じた。


「あ~、そこはいいわ。それで、ナガノさんとの連絡はどうやって?」

「近衛様を脱出させた場所だけは、城の警備用の魔力結界の死角でして、そこで」


「では、ナガノさんの最終的な目的は? それが最も重要だ」

「そこまでは私共も伺っておりません。ただ、『僕に勝てるくらいの人が現れるまで待つ~』と、仰っていたのを覚えています」


 使えねぇ~!


 しかし、若干胡散臭い内容ではあるが、かなり納得できる話だ。

 目的に関してはさっぱりだが、彼女達に悪意はなさそうだ。

 何故なら、彼女達が俺を売るつもりならば、こんな面倒は必要ないだろう。飼い主のところに、直接転移すれば済む。目を開けたら牢屋の中、ってのが普通だろう。

 もっとも、彼女達自身が黒幕、という可能性も無いではないが。


「若干腑に落ちないところもあるけど、かなり理解できたかな。うん、ありがとう」

「あの…、本当に申し訳ありませんわ」

「説明が至らず、ご迷惑をおかけしました」


「それで、これからの予定は? ナガノさんと合流するのか?」

「いえ、長野様とは連絡が取れませんし、取り敢えずは冒険者ギルドに参りましょう」


 ミレアはそう言うと、颯爽と立ち上がった。さっきまで泣いていたのが嘘のようだ。クレアもそれに続き、俺の手を引いた。


 冒険者ギルドは石造りの大きな建物で、入るとすぐに、二人は奥のカウンターへと進む。

 俺はロッタの帽子をしっかりと被り、更にコートをきつく閉じ、俯き加減でついて行く。

 カウンターに着くとクレアが、受付の丸っこい耳をした、狸に似た印象の女性に声をかける


「ギルド長にお会いしたいのですが」

「え~っと、ギルド長なら、丁度そこで暇そうにしていますが。お名前は?」


 その瞬間、狸女の後ろで、だらーんと椅子に腰かけていた男が立ち上がる。

 黒っぽく、鋭く尖った耳、口元から少し牙がはみ出している。かなり精悍な顔つきだ。

 俺は、犬? いや、狼かな? 等と想像していると、その狼男が狸女を押しのけて顔を突き出した!


「えっと…、まあいいのだ! すぐにこっちに来るのだ!」


 そう言うが早いか、狼男はカウンターを飛び越えて、俺とクレアの手を引く。

 この男には、認識阻害弱は効いてないようだ。

 応接室と思しきところに連れられて、俺達三人は、俺を真ん中に、ソファーに並んで座らされる。


 正面に乱暴に座った狼男はいきなり怒鳴る!


「クレア! ミレア! 全く何てことをしてくれたのだ!」


 きょとんとするクレアとミレア。俺も訳が分からない。

 しかし、こいつらは面識があるようだ。

 クレアが答える。


「ウルベン様、近衛様を保護させて頂いたのですわ!」

「それは見れば判るのだ! 問題は時期なのだ!」

「速やかにということでしたので」


 ミレアが答えると、ウルベンと呼ばれた狼男は頭を抱えた。

 俺は不謹慎にもふと思った。なんでこの世界の亜人達は、こう、容姿と言葉遣いが合わないんだ!


「う~ん、もういいのだ! では、勇者近衛殿、初めましてなのだ。僕はカロッゾ・ウルベン。ここのギルド長なのだ。よろしくなのだ」

「こちらこそよろしくお願いします。ウルベンさん」

「それで、何処まで聞いているのだ?」

「う~ん、彼女達がどうして俺を拉致したかまでですが」


 俺は、あえてナガノさんの名前は出さなかった。

 しかし、俺では埒が明かないと思ったのか、ウルベンさんはミレアに突っかかる。


「ミレア、何処まで説明したのだ? 正直に答えるのだ!」

「はい、長野様との関わりとか、知っていること全てです! そこまで話さないと、近衛様の信用を得られないと思いました!」


 まあ、俺が追い詰めたのだが。


「それなら仕方ないのだ。では、近衛殿、僕も貴殿のことは聞いているのだ。いずれは会えると思っていたのだ。しかし予想外に早かったのだ。本来ならば貴殿がもう少し鍛えて、最低限冒険者に登録してからの予定だったのだ」

「はい、彼女達にも冒険者になれとは聞いています。しかし、何故それが重要なのですか?」

「それは……」


 ウルベンさんの話はこうだ。


 ダンジョンは狭く、多人数で行っても戦力を活かしきれない。経験上、6人くらいまでのパーティーのほうが、効率がいい。

 冒険者として登録すると、特殊なスキル、『パーティー編成』が使えるようになる。

 このスキルのいいところは、自分を含めて6人までを同一パーティーとし、魔物を倒した際に得られる経験値を、そのメンバーで均等分けできるということだ。

 しかし、冒険者に登録する時に、当然ステータスを確認させられる。


 問題はここである。


 帝国からの逃亡前に、国の元で登録していれば、何の問題も無かった。

 しかし、勇者拉致の話は真っ先に冒険者ギルドに伝わった。ここは辺境だが、冒険者ギルドは、この世界の各国代表の意見で設立された全国組織だ。

 つまり、辺境と言っても、登録すると記録が残るので、完全に足がつくということだ。

 また、各国ともに勇者の動向には気を配っているので、勇者が来た場合は報告義務があるとのことだ。

 知っていて報告しなかったとなれば、当然ギルド長の責任が問われる。

 帝国の威信の手前、情報は今のところ、組織のトップで止まっていることだけが救いの種だ。


「とにかく、このままでは、近衛殿は冒険者になれないのだ」

「しかし、そこまで冒険者スキルは重要なのでしょうか? 話を聞く限りでは、経験値均等割り以外のメリットはなさそうですが?」

「メリットは他にもいっぱいあるのだが、それは冒険者になれば分かるのだ。そして何より重要なのは、それがイオリちゃんの意思なのだ」

「イオリ…ちゃん?」

「あ~、長野様だったのだ。そこは忘れろなのだ」


 俺はウルベンの過去が少し分かった気がしたが、あえて流そう。


「しかし、ここの優秀で口の堅い冒険者さん達を俺に貸してくれるなら、俺もある程度の力はつけられそうですが?」

「う~ん、それは最後の手段なのだ。しかし、それしか手が無さそうではあるのだ」


「ところでウルベンさん、それにクレア、ミレア、少しお忘れのようなので、いいですか?」

「「「はい。」」なのだ」

「俺の当面の目的は、男の身体に転移すことなんですが、それに関しては、皆さん、どうお考えですか?」


 空気が凍った。


 こいつら、俺が美少女の姿で男言葉を話している状況は気にならなかったのだろうか?


 俺は更に追い打ちをかける。


「帝国はどこまで本気かは分からないが、出来る限り半年後に何とかすると、それなりの誠意を見せてくれているのですが」


 全員硬直している。きっと、範囲系の石化呪文を使ったらこうなるのではなかろうか?

 隣のクレアの胸を弾いたら、きっと高い音がするに違いない。

 俺はそうしたい衝動を抑えながら、ウルベンを睨む。


「そ、それは、こちらで何とか出来るよう、全力で研究するのだ」

「帝国の資金や人材に勝てるとは思えないのですが?」


 再び訪れる静寂。

 もはや容赦はしない。


「実際、この女の身体で終えるようなら、死んだほうがマシかも」


 心の奥で叫び声が聞こえたような気がしたが、無視する。

 こいつらだけでは、どうすることも出来ないのは分かっていた。

 しかし、ここまで追い詰めたのには意味がある。


「そこで、提案があるのですが」


 俺は少し微笑む。周りにはどう見えているのだろうか?


「き、聞くある」


 なんかキャラずれてるぞ、等と思いながらも、


「皇帝宛てに手紙を出して下さい。ナガノさんの直筆で」

「う~ん、頼んではみるのだ。しかし、内容にもよるのだ」

「内容はこうです」


『勇者近衛新は、彼を拉致した悪党の手より、私が保護した。半年間修行させるから、安心して待っていて欲しい。なお、帰ってきた時に、男性の身体に転移出来るようにして欲しい、と、近衛新より要望がある。皇帝もその件は約束したと聞いている。私も本人の意思を尊重したい。また、魂転移の際には私も見届けたい』


「こんな感じで頼みます。後でメモにして渡します」

「わ、分かったある」

「キャラが…、まあいいや。こんな美人に囲まれて…、いやここも流してください。とにかく、男に戻ることだけは、何があっても譲れない!」


 イカン! こいつら、見てくれはいいが、特殊な人種だったのを忘れるところだった!

 チラッチラッと横に目線を向けると、二人とも少し俯いてもじもじしている。

 変な誤解をされなければいいのだが…。


「僕も男ある。近衛殿の気持ちは理解できるのだ。何とかしてみるのだ」


 やっと復活したな。


「じゃあ、そこはくれぐれも宜しくお願いします。あともう一点ですが、アイテムボックスが欲しいです。あと、魔法書も」

「それは問題ないのだ。アイテムボックスはもう用意してあるのだ。手を出すのだ」


 俺が手を出すと、宝石のようなものが付いた指輪を渡してくれた。


「それを指に嵌めて、指輪に強く集中するのだ」


 俺は言われたとおりにする。


「では、ステータス表示を確認するのだ」


 お! スキルの最後に【アイテムボックス585】と表示されている!


「ありがとうございます。少し試していいですか?」

「うむ、【アイテムボックス】と念じるのだ」


 俺は手近にあった灰皿を持ち、アイテムボックスと念じる。

 すると、真っ黒な空間が目の前に開いた。

 恐る恐る灰皿を入れてみる。

 何の抵抗もなく灰皿が入ったので、放して手を引き抜く。


「では、【解除】と念じるのだ。その後、もう一度ステータスを確認するのだ」


 【解除】! すると目の前の空間が消えた。


 再びステータスを確認すると、1ページ目も2ページ目も何も変わっていない。


「3ページ目が開いているはずなのだ」


 俺が3ページ目と念じると、あった!



    【アイテムボックス収納品】


石の灰皿 ×1:攻撃力+3


 攻撃力あるんかい! ま、投げろってことだろう。


 俺は再び【アイテムボックス】と念じて、手を入れる。

 更に、灰皿と念じてみると、灰皿が勝手に握られた。

 取り出して、【解除】と念じる。

 うん、問題ない。うまく使えたようだ。


「うまくいったようなのだ」

「はい、ありがとうございます」

「魔法書は後で用意しておくのだが、高位の物は期待しないで欲しいのだ。僕もそこまで金は持ってないのだ」

「いえ、ありがとうございます」

「それは良かったのだ。しかし、冒険者登録の件だけは、問題なのだ」

「う~ん、ナガノさんの力でごり押しして欲しいところですが、これ以上は迷惑かけられそうにないので…。少し考えもあるので、うまく行くかどうか分かりませんが……。うん、まだ聞きたいこともあるのですが、少し整理したいです。今日はもう遅くなったようですし、一旦宿に戻ります。明日早く、また来ていいですか?」

「迷惑は気にしないでいいのだ。では、明日待っているのだ」


 ナガノさん宛てにメモを残してから外に出ると、日が暮れていた。



 それから3人で道具屋に寄って魔核を売った。その後、売った金で最低限の服や装備を買い揃えて、宿で食事を取る。

 全員コートに身をくるんでいるとは言え、その下はワンピースとメイド服。暫くすれば、手配書なんかも出るかもしれないし、できる限り、元のイメージを払拭したいところだ。


 そう、俺はともかく、この二人が危険だ。

 今までの流れからすると、俺は捕まっても拉致されたのだと言えば、そうそう悪き事にはならないだろう。

 しかし、クレアとミレアは、拉致実行犯として最有力の容疑者、いや、そのものだ。もし帝国に捕まれば、どうなるかは目に見えている。


 話は戻るが、魔核は2つで金貨2枚で売れた。

 金貨1枚=銀貨100枚、銀貨1枚=銅貨10枚、銅貨1枚=銭貨10枚、ということだ。

 宿の値段からすれば、銀貨1枚が1000円くらいの価値だろうか? 

 そう考えると、魔核1個で10万円、かなりでかいな。


 買った装備は、皮の靴【素早さ+1】、皮の胸当て【防御+5】、皮の帽子【防御+5】、皮のグローブ【攻撃力+5】、ダガー【攻撃力+5】だ。

 武器に関しては、格闘術スキルを取ったこともあり、身体の小柄さを活かせればと考えた。


 しかし、最低限の装備だと、本当に気休めだな。

 ぶっちゃけ、レインコートやワンピースと、皮製品の防御力は一緒だ。

 もっとも、動き易さは段違いだし、直接服の上から装備できるので、かなり便利ではあるが。


 これら全部で金貨1枚ほど。普段着や下着を合わせて、日本円なら、13万円くらいの出費となった。

 余ったお金は、二人とも、俺に何かあった時の為持っておけと押し付けられた。

 俺は、自分よりも君達のほうが必要だろうと言ったが、二人で金貨数枚くらいは持っているから大丈夫だと言われ、承諾する。

 また、装備に関しても、クレアとミレアは、冒険者時代のがあるから要らないそうだ。


 食事を取ってから、風呂に入りたいと言ったところ、この宿にそんなものは無いが、シャワーならあると説明され、共同のシャワーで簡単に済ます。

 勿論、先日の修羅場のようなことになりかけたが、ここで疲れ切ってしまってはまずいと判断し、今回は実力で排除した。


 俺は思うところがあって、当初の方針を変えて、3人部屋に変更できないかと宿の主人に頼んでみた。丁度準備が出来ていたらしく、銀貨1枚であっさりOKを貰える。


 部屋に入り、皆でテーブルを囲む。


「二人とも聞いて欲しい。大方の状況は理解したつもりだよ。ナガノさんの真意はわからないが、ここに留まっていても追手が来ない保証は無い。俺は命までは取られないだろうけど、君達が心配だ。ウルベンさんにも、負担がかかるだろうし」

「私共のことは心配要りませんわ!」

「ご配慮ありがとうございます。私共はギルド長に匿って貰えば、何とかなると思います」


「まあ、そう言うとは思っていたよ。ウルベンさんの話で、俺は、取り敢えずは冒険者に登録して、ダンジョンに潜ってみようと思う。とにかくこの世界のことは分からないことだらけだ。色々考えもあるけど、最低限、自分の身を守れるくらいの力は欲しい」


 二人が目を輝かせる。


「ですが、先程の話で、その登録が難しいのでは?」


 ミレアがもっともなことを言った。


「そうなんだよね~。でも、さっき考えがあるって言ったよね」


 俺は立ちあがって、二人を見据えた。


「これから明日の朝まで、厳密にはウルベンさんとの話が終わるまでだけど、これから言う事を守って貰いたいんだ」


 俺は更に目に力を込める。


「何があっても驚かないで欲しい! そして、絶対に誰にも、ナガノさんであっても、これから起こる事を口外しないで欲しい! 最後に、絶対に『この身体』の言う事に従って欲しい! 無茶を言っていることは分かっているつもりだけど、お願いします!」


 俺は、この世界に来てから初めて、頭を下げた。

 二人は目を丸くして立ち上がる。


「はい、誓いますわ。近衛様」

「承知致しました。近衛様」


「じゃあ、俺は少し瞑想するから、邪魔しないでね」


 俺はベッドに腰掛け、目を閉じた。



「おい、聞こえるか? リム」

「うん? もう起きていいの?」

「いや、まだ起きないで。というか、目を閉じていてくれ。話がしたい」

「分かったわ」

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