第4話 皇帝との会談

     皇帝との会談



 朝か? 昨日はあれだけのことがあったのに、身体が軽い。

 俺が目を開けようとすると、頭の中に声が響く。


「え~っと、お手洗いは済ませておいたけど、着替えがまだね。もう少し寝てなさい!」

「ん?」

「だから、起きるのだったら、着替えなきゃダメでしょ? 貴方に私の身体をあまりいじられたく無くの! 分かったらもう少し寝てなさい!」

「さっぱり訳が分からんけど、大体理解できた。お前、この身体の主導権を取り戻したな?」

「えぇ、そうよ! もっとも、身体自体が疲れ切っていたので、殆どベッドで横になっていたけど。でも、もう大丈夫よ」

「なるほど。俺が寝ると、お前が起きる。逆もしかりなわけか?」

「そうみたいね。私は今、猛烈に眠いわ。でも、もう少し……」

「なら、さっさと着替えてくれ」

「大丈夫、今…着替え…終わった…わ。じゃあ…寝…る」

「あ、ちょっと待て!」

「……」

「チッ、落ちやがった。まだ聞きたいことあったんだけどな~。まあ、昨晩の俺も同じだし、文句は言えないか」


 俺が目を開けると、不思議なことに俺は立っていた。下を見ると、脱ぎ散らかしたネグリジェがある。で、自分の身体を見回すと、真っ白なワンピースを着ていた。おまけにハイヒール。昨日、侍女が置いていった服だろう。


「なんか、とっても歩きにくいんだが……」


 俺がぶつくさ言いながらソファーに腰掛けると、ノックが聞こえた。


「どうぞ~」

「おはようございます、近衛様。昨晩は良くお眠りになられたようですね」


 昨日の変態侍女だ。青髪のほう、確かミレアだっけ?


「ああ、おかげでね。おはよう、ミレア。今日は、姉貴のほうは居ないの?」

「お姉様は、基本は夜がメインなんですよ。うらやま…いえ、なので、今からお休みです」

「何か雑音が入った気がするけど、まあいい…か? それで、今日の予定は?」

「はい、取り敢えずお食事をお持ちしますから、その後着替えてから、陛下と……、チッ!」


 彼女は、何か残念そうな目をしている。

 あ~、既に着替え終ていたからか。変態丸出しだな。


「で、陛下となにを?」

「はい、陛下と面談です」

「わかった」


 顔を洗って、食事を済ます。初めての異世界料理は、誠に期待外れだった。普通にトーストと目玉焼きとサラダ。まあ、ゲテモノとか出されたら、それはそれで困るのだが。


 ミレアに案内され、その陛下とやらに会うべく歩かされる。慣れないヒールで歩きにくい。若干、股間が安定しない気がするし。


 昨日の部屋の扉が開くと、中には軍服と思しき衣装の、金髪で40歳くらいの、髭を生やした人物を中心に、後は昨日の面子が座っていた。


「初めましてじゃな。勇者、近衛殿。儂はカサード・フラッド・ドルトムンク。フラッド帝国25代皇帝じゃ。この度は、よくぞ召喚の儀に応じて参られた」

「初めまして。ドルトムンク陛下。近衛新アラタ・コノエです」

「うむ。儂のことは、カサードと呼び捨てでお願いしたい。儂も貴殿のことを、アラタと呼んでよろしいかな? まずはかけられよ」

「はい、ありがとうございます」

「うむ、堅苦しい言葉遣いも無しじゃ。早速じゃがアラタ、召喚の儀の話は聞いておる。迷惑をかけたな。男性への魂の入れ替えの研究は全力で取り組ませるので、勘弁して欲しい」


 俺がミレアにひかれた椅子に腰かけると、カサードはそう言って、今まで鋭かった眼光を和らげた。


 今の言葉で理解できた事は、昨日の感じからも想像がつくが、おそらくこの国では、勇者と皇帝は同列なのだろう。なので、対等に接するべきというところか?

 これには、かなり抵抗があるが、別にこの男をまだ尊敬している訳でもなし。

 それに、今の発言から、彼には誠意が感じられるので、友人のように付き合わせて貰えるのならば、それに越したことはないだろう。

 ただ、図に乗ってしまわないように、常に自分に釘を刺す必要がありそうだ。


「それでイーライ、どうじゃっ!?」


 カサードが再び眼付を険しくし、横に座っている祭祀長を見る。


「何分、初めてのことですので……。ですが、基本の考え方は間違ってないと思いますので、今暫く、時間を頂きとうございます」

「うむ、アラタの勇者としての力が、もし器によって制限されるようなことがあれば、意味が無い。早急に頼むぞ!」

「はっ!」


 イーライが頭を下げて、この話はここまでのようだ。


「それでは、儂からアラタに伝えたい、いや、お願いしたいことがある。もう承知していると思うが、その前にアラタから質問を聞こう。うむ、その方が早そうじゃ」

「では、遠慮なく。カサードさん、俺がこの国に呼ばれた理由は、この国にあるダンジョンの、最深部までの攻略、ということでいいのかな?」

「勿論じゃ」

「では、そのダンジョンはいくつあるの?」

「現在確認されているのは2つ、トロワとシスじゃ。ひょっとしたら、未だ人が入らぬ土地にも、あるやもしれん」 


 ふむ、複数あると。まだ聞いていないが、他国もこんな感じなのかもしれないな。


「わかった。では、俺以外の勇者はこの国に何人居る? 祭祀長の話を聞く限りでは、勇者の召喚に最初に成功したのは20年前で、そこから各国が研究をしだした。その後、5年前に初めて勇者によるダンジョン攻略。毎年一回の召喚。その流れだと、最低でも3人くらいは居そうなものだけど?」

「我が国はうむ、過去5人の召喚に成功した。が、現在は一人、イオリ・ナガノだけじゃ」


 うん、この、『我が国は』という答え方で、他国にも勇者が居ることが証明されたか。


「亡くなったの? 死因は?」

「ダンジョン内で死亡したと思われるのは二人、後の二人の死因は…、分からん!」


 ん? 態々、異世界から召喚した勇者。その死因が不明とは、少しおかしな話だ。

 なので、俺は少しカマをかけてみる。


「後の二人は…暗殺…か?」

「恐らくはそうじゃろう」

「う~ん、祭祀長の話を聞いてから、ある程度の予想はついていたけど、ここまでとは……」


 やはりか。

 そう、今までの話の流れからすると、この世界の勇者は、純粋に、戦力として扱われている可能性が高い!

 つまり、他国からすれば、この国の勇者は、兵士数千人に匹敵する、人間兵器。是非とも、破壊しておきたい対象だろう。



 そこで、カサードがいきなり頭を下げた!


「現状は、アラタが考えている状況であろう。それを承知で頼む! ダンジョンに潜ってくれ!」

「カサードさん、頭を上げて。どの道、俺にはダンジョンに潜るしか、選択肢が無いようだし」

「そうかもしれんな。感謝する」


 まず、俺が逃げようとしても、顔も名前も割れているし、知り合いの居ない今の俺じゃ、かなり厳しい。


 隠れるにしても、どうやら俺は、この世界じゃ神様扱いのようだ。その証拠に、国のトップが、こんな小娘に頭を下げている。 

 そして、国家はともかく、民衆がその神に期待することは唯一つ、ダンジョンの攻略だ。


 ダンジョンに行かない神は偽物。


 街の外に逃げるにしても、聞いた話じゃ、この世界は結界の及ばない町の外には、魔物がうようよ。

 つまり、外に出るにしても、最低限、自分を守る力が無いとダメってことだ。

 最初のうちは別にして、いずれはダンジョンで鍛えるのが、最も効率がいいはずだ。


 しかも、俺には枷がついている。

 そう、男の身体になりたいという。

 そして、それを叶える為には、召喚ができる国家の援助が必須だ。

 従って、最低半年は、どっかの飼い犬にならなければならない。


 まあ、そう考えれば、期待に応えて、ダンジョンに潜るしかなさそうだ。

 もっとも、ダンジョンを攻略できる程強くなれば、この国が、俺に何を求めてくるかは明白だが。


 とにもかくにも、人間兵器になる可能性のある俺は、他の国からすれば、注目の的だろう。

 流石に神扱いの勇者を大っぴらには殺せないだろうが、暗殺はあり得そうだ。

 そんな状態になったら、ダンジョンに潜っていたほうが、むしろ安全かもしれない。


「うん、今のカサードさんの俺に対する接し方なら、信用できそうだ。カサードさんは、現状ザコの俺に対して、命令することができる立場だからね。最終的に、どういう使い道を俺に期待しているかは、まだ分からないけど。あ、ごめん、言い過ぎた」


 すると、カサードがいきなり大声で笑いながら、手を差し出してきた。


「フハハハハ! 我が国は最高の勇者を手に入れた! これからよろしく頼むぞ、アラタ!」

「仕方ない。俺も今は唯のザコだし。また、当然、一人じゃダンジョンには潜れないよね。そこらへん、バックアップよろしく頼みます」


 俺は立ちあがり、差し出された手をぐっと握った。周りの貴族達も立ち上がって喜んでいる。


「うむ! ところでアラタ……」


 俺は何か嫌な予感がしたが、というより、ある程度予想はしていたが、と言うべきか?


「儂と結婚して欲しい」

「来るとは思っていたけど……、ロリコン? この身体のリムは確かに美人ではあるが、まだ15歳。しかも、俺はお・と・こ・だ! 当然拒否する!」

「アラタの世界では、15歳はまだ子供という認識のようじゃが、この世界では立派な大人。そしてアラタ、今の状況では力ずくも可能じゃぞ」

「目がマジっぽい。確かに気持ちは分かる。カサードさんとしては、何としてでも、勇者の血を引いた子が欲しい。それ以上でも以下でも無いのでしょ。例え身体は女でも中身は男。それでもやれるって気概には引く、じゃない、尊敬するけど。しかし、妊娠した勇者じゃ戦えないよ?」

「そこは気長に待つ。ひょっとすれば、アラタが女に目覚めるやもしれんしの」

「勘弁してくれ~。こうなったら意地でもこの国から脱出する! この手のラノベじゃ、ダンジョン内部で、一人で生き残るって設定も多そうだし」


 俺がおどけると、カサードはにこやかな顔になった。

 ふむ、やはり半分冗談だったか。


「ハハハハハ、ラノベというのは知らぬが、そう言うとは思っておった。勿論、無理にとは言わん。せっかくの勇者を失いたくもないしの。なので、アラタの男性転移への研究は、約束どおり全力で支援するので、そこは安心して欲しい」

「ふ~、カサードさんが理性的で助かった。しかし、てっきり俺の男性化を阻止しに来るかと思ったけど?」

「それはさっきも言った通り、器によってアラタの力が制限されてはいかんじゃろう。それに、儂はアラタの男性化が成功した後にも、少し期待しているのじゃよ。あくまでも、そうならば良いなの程度じゃが。それに、儂には娘もおるしな」


 チッ、カサードの奴、妙に勘が鋭いな。伊達に皇帝張ってないと言うべきか。

 この段階では、リムの件は伏せたほうがいいだろう。そこまで信用していいかも分からないし。勿論、彼女次第だが。

 しかし、カサードの娘は考えていなかったな。これは、もし魂の移転が成功しても、今度は種馬扱いか? せめて、美人であってくれ~。


「じゃあ、カサードさんの話はこれでいいかな?」

「うむ、アラタ、続けてくれ」

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