第5話 土砂

山中夫妻も親切で気さくな方だったが、親戚の斎藤さんも凄く良い人だった。

俺は、最寄り駅まで山中さんに連れて行ってもらえることになった。

車中で俺は山中さんと了について話していた。


「了って一体なんなんですか?」

「俺はこの村からしたらよそもんだから、詳しくは話せないよ。」

「気になるんですよ。良いネタになるかも。」

「小説家なんだっけ?確かにこういう暑い夏には良い怪談話に感じるけど、

 了はそんなに良い気分のもんじゃない。」

「どういうことですか?」

「君、実は気づいてたろ。俺が原付を片付ける時、原付に付いていたもの。」

「歯型・・・ですか。」

「そう、歯型だ。あれはね、了がやった証拠なんだよ。」

「他の村人の人も言っていました。なんなんです?了って。」

「俺もね、よそもんだから詳しくは知らないんだけど。実はね、山中さんの

 ところの息子さん、つまり俺の従兄弟はね。了に殺されたんだわ。」

「はい?」

「あの村。ど田舎だっただろ。あそこは開発が止まっているんだ。そりゃ現代的な

 暮らしはしてるし、インターネットも開通してはいるんだけどさ。

 それはね、了は子供を忌み嫌うからなんだ。」

「子供ですか?確かに村で1人も見なかったな。過疎化が進んでいる今では珍しく

 ないので、あんまり気になっていませんでした。」


車がちょうど、俺が原付を故障させた山道を走っている時だった。


「ん?おかしいな。そろそろ人通りのある国道に合流するはずなんだけど。」


話によると、道がどんどん広くなっていくはずなのに、どんどん狭くなっている。


「あれ?ああ、これか。こりゃひどいな。」


不自然にガードレールが森の少し入っているところに続いていた。


「どうかしたんですか?」

「これ、ここから先は道路だよ。今までガードレールが無かったから

 気がつかなかったけど、地滑りかなんかで土砂が崩れたんだ。」


道は狭くなっているのではなく、土砂が崩れて道路が土で隠れていた。


「困ったなぁ。俺まで帰れなくなっちまったか。」

「道を戻って別ルートから行けないんですか?」

「行けることには行けるけど、ものすごく遠回りで半日かかっちゃうよ。

 後少しで広い国道に合流できたのになぁ。」

「どれくらいの距離なんですか?」

「ん〜、2kmくらいかなぁ。」

「なら、斎藤さんには悪いですけど、俺このまま歩いて行きますよ。

 まっすぐ進んでいけば、国道行けるんですよね?」

「大丈夫かい?」

「はい。2kmくらいなら1時間も歩けば国道に着いて、斎藤さんみたいな

 親切な人に出会えると思いますし。そこからヒッチハイクで行けるとこまで

 行ってみますよ。」 

「楽天的だなぁ。そのままガードレールに沿って進むんだよ。森に迷うと

 大変だからね。気をつけるんだよ。」

「はい。」

「今ならまだおじさん達のところまで戻れるけど大丈夫かい?」

「はい、お袋に怒られたくないので。」


そういって俺は斎藤さんと別れて、土が積もった道路を進んでいった。


はずだった。

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