第3話 手塚

午後9時ごろ。山中さんの家に着いた。

山中さんの奥さんのチエさんもとても親切で、

俺を快く迎え入れてくれた。


「こんなとこ若い須藤君にはつまんねぇだろうけど、ゆっくりしてきなね。」

「いえいえ、迷惑かけるわけにもいかないし、迎え盆までには実家に着かないと。」

「明日のバスまで時間はあるし、原付直すにしても、1丁目の茂んとこの息子を

 呼ばねぇといけねぇから昼まではゆっくりしていけ。」

「そうします。」


俺はその晩親切な山中さん夫婦と酒を飲み、3人とも酒が進んでいた。


「にしても、東京で作家とは須藤君もすげぇんだなー。」

「そんなこと無いですよ。響きだけで無職みたいなもんですよ。

 全然売れてないし、だからこそこうやって原付で宮城まで

 帰ろうとしてたんですから。」

「普段はどんなものを書いているの?」

「売れてないんで、いろいろなコンクールに書いて送ってます。

 推理小説とか、現代小説とか、ホラー小説とか。学は無いので、

 歴史小説とかは書けないんですが。今もコンクールに向けて書いているんですが、

 まったくアイディア無くて。面白い話とかあります?」

「面白い話ねぇ。ここは何にも無いから。お父さん何かある?」

「手塚村は何にもねぇからなー!変わったもんって言ったら了くらいか。」

「寮?どっかの独身寮ですか?」

「いやいや、その字じゃねぇよ。了解の了。まぁ、昔からあるこの村の妖怪だよ。」

「へぇ、はじめて聞く名前ですね。どんなやつなんです?」


何でも話を聞くと、了というのは俺が事故を起こした山にいるといわれている

妖怪のようで、夜中に山を歩いていると了に食われるという話があったらしい。


「まぁ、山とか森でしか昔は遊び場が無かったからな。

 ガキどもが夜になっても遊ばないよう、怖がらせていたんだろう。」


そう言うともう眠いのか、山中さんは横になってしまった。


「もう、こんなとこで寝てたら風邪ひきますよ。」


そういって、奥さんは山中さんを叩き起こし、寝床に連れて行った。

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