第3話 僕の後悔。

他人の心の声が聞こえるようになって僕が一番最初に考えたのが家族についてだった。


普段から大した会話もない冷めきった家族。


僕が両親の心の声を聴いて上手く立ち回れば、もしかしたら暖かい家庭というものになるのかもしれない。


思い立ったが吉日、僕は行動を起こした。


起こしたのだが。


結論から言おう。自分の親のことなのでこんな言い方は変かもしれないが、あの二人はすでに修復不可能だ。心の声なんて聴くまでもなかった。


言葉には出ないが心の中では、なんて甘いことを考えていた自分を殴り倒したくなった。


行動通り、表面上どおり、あの二人の間にはもう特別な感情なんてものは存在しなかった。ただ同じ家で暮らすだけの他人。もうすでにお互いそんなような認識なのだろう。


両親の心の声を聴いてみてわかった。嫌いだとか、憎いだとか、そういった類の負の感情があるのならまだいい。それは少なからず相手を意識しているということだからだ。しかし、二人はお互いのことをまるで意識していなかった。


同じ部屋にいるとき、同じ食卓を囲んで夕食を食べている時、二人の心に家族は一切出てこなかった。


他人の心の声が聞こえるようになったからわかった現実。


もっとうまくいくと思っていた。相手が何を考えているかわかったらそいつにとってのを提示して、俗に言う友情だとか信頼関係といったものを築いていけるのだと。


自分が欲しいと願ったこの耳は、今まで自分が戦ってきた意味を忘れさせ、絶望させた。


僕の家族はもう修復不可能だということ。


友達だと思っていた人たちの本音。


心の声が聞こえたところで、楽になることなんて何一つなかった。


その耳を与えられたことで、小さいながらも確かに残っていた希望も消えた。


家族も、友達も、誰であろうとも、人間は相手の気持ちを完全に理解できていても分かり合えないのだ。


その人が何を考えているかわからないから話をしたくなるのであって、わかっていたら何も始まらないし何も生まれない。




まあしかし、そんな訳の分からないことを結論づけてももう遅い。


僕の耳は周りの人間の本心を聞き漏らさない。


それは耳を塞いだところで手遅れなのだ。

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僕の心は 大塚オル @Oru-Oru

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