ウィザード┈世界を救う救世主達┈

第1話


人一人 必ず裏面の姿がある。そう、教えてくれたのは彼女だった。善良でも無垢でも、赤子でも無邪気でも、分け隔て無く無意識の内に悪感情は芽生えている。まるで、僕達は互いに騙しあっている様に自身を取り繕うけれど、外殻だけ立派ながらんどうでいて本質は空っぽだ。無論、僕もその一人。社会に適合する為に、自身をハリボテな仮初で塗り固めているだけに過ぎない、つまらない人間だった。けど、これは一種の義務なのかも知れない。異端者としてのレッテルを避ける、足掻きなのかもしれない。だとすれば、自然と自分を肯定できるというモノだ。


違う。欺瞞に他ならないと分かっていた。でも尚、煙霧で姿を覆う所業に、否定を促す権利は何処にもないのだから、僕は間違っていないと、ひたすらに言い聞かした。


無能の僕には、それしか出来ない───


だから僕は、今日も欺こうと思う。平然と、不自然ではない笑を浮かべて───その選択が、間違いじゃないと、信じて────。










┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈









その日は、余りにも退屈極まりない日常だった。代わり映えの無い色彩の情景が、常に一定を保ったまま形として側に存在している。つまりは、有り触れた、の繰り返し。交友も接触も談笑も、変化する事を停滞した過程。互いが安全圏から外に出ず、それを承知の上で尚、私の周りは相手との関係を保つ事に、血反吐を吐き続けている。


とても───滑稽だ。そして、正解だ。


無変化以上に平和的な事は無い。変化とは、つまりは壊れるという事で、だから停滞を選んでしまったんだ。僕も、多分恐らくその群衆上で一番タチの悪い人間だった。


他人に対し露にする体は、柔和であり心の広い体だけれど、本質はその真逆、僕は人間が嫌いな社会不適合者他ならない。


「ストレスが、溜まる一方だよ。」


無機質な相棒 NECデスクトップパソコン、ソイツは当然ながら呟いた所で反応を見せる筈も無い。相棒の使命は対話ではなく、常に僕の目前にディスプレイを映す事にあるのだから、この時の僕は尋常じゃない程度に、行き詰まっていたのだろうと思う。


「あっ、クソッ!負けた…連敗だァ…。」


その上 ネット対戦でも連敗を遂げたとなれば、憂鬱になる5秒前のカウントダウンが遂に始まる。


しなだれ掛かるように、僕はデスクを立ち上がるとベッドに体を沈めた。触れてしまえば消えてしまうのではないかと、そう感じてしまう程に、ベッドの感触は柔らかかった。


目を瞑り、思う。僕は何の為に生きているのか、と───。探しても探しても、手探りに探しても、率直には見つからない目標や目的。毎日の、死ぬまでの過程である生活に、僕は唯呆然と人生を貪っているだけじゃないか───。


────バリンッ!


「え────」


突然、デスク前の窓ガラスが割れた。鋭い音と共に、無数の破片が大気へと散った。


「え、えぇ───えっ…?」


事態はそれだけでは収まらず、眼に入る彼女────"金髪の彼女"は一体誰だ。


僕は仰向けから次第に上半身を起こしながら、唖然と必死に状況を理解しようと思考をフル回転させる。けれど、答えが出るとは到底思えない。


「…! 貴方は…」


金髪の彼女と視線が合う。彼女は、一言で告げるのならば、人間を超越した見目麗しい顔立ちだった。魔法使いを彷彿とさせる鼠色のローブの上からは、深緑色のケープを被っていた。


目の肥えた人間なら一目瞭然、快いコスプレ仮装。だとしたら、彼女が自室の窓ガラスを割って部屋へと飛び込んできた経緯が、分かる訳が無かった。


「…。兎に角、貴方はベッドの下にでも隠れていて。でないと、死ぬから。」

「え…。」


すっかり呆気に取られた影響か、か細い声しか吐き出せず、到底声が通らない。それに比べ、彼女の声は良く通り、透き通った美麗───その声音で、彼女は今恐ろしい助言を僕へと与えた。


死ぬって、死ぬ要素が何処にあるのだろうか。


《無駄だよ、魔法使い。君と私が対峙した時点をもって君の敗北は確定している。大人しく私の配下に加わりなさい。 》

「ふざけるな。貴女に与す気は何と言われようと更々無い。ましてや私は貴女の思想を見過ごす訳にはいかない。必ず、この手で止めてみせる。」


彼女は僕をさておいて、姿の見えない"もう一人の声"と対話していた。不思議な事にその声は、直接的に脳内へと干渉されている体感をおぼえる、不気味なものだった。


《 一向に拒絶を貫くか、無銘の魔術師。なら私もそれなりの対抗を示すとしようか───》

「なに…?」


その言葉の末、意識するのもままならず、不意に四方───地べたから紫の禍々しい空洞が


「え」

「しまっ────」


避けようにも避けようが無い。僕は気付くと、空洞から射出された鉄の鎖によって、全身ぐるぐる巻き状態にされていた。


沼の如く、軸にも姿をみせる空洞に沈んでいく。


残り目尻辺りへと、空洞の果てが到達した頃────僕は何も考えようとはしなかった。現実的に、僕の思考回路で導き出せる現象では無いからだ。非科学的にして予想や想定、全てを覆される要素が多すぎる。




段々と次第に、眠気が募っていく。






僕は、これからどうなりどんな結末を迎えるのか異常に気になったけれど───浸る安寧感の方が上回り、取り敢えずゆっくりと、重い瞼を閉じる事を選んだ────。











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