41:大事なことは口で
「え、って。なんで驚くかな」
恵は視線を下ろし、カフェオレのストローをくるくる回した。
「萌がおれのことを異性として意識するように、これまでめちゃくちゃ頑張ってアピールしてきたつもりなんだけど。ゲーセンじゃ結構わかりやすく告白したのにさ、スルーされて『そろそろ解放してくれませんか』って。あれはさすがにちょっと傷ついたわ」
恵はストローを回す手を止め、拗ねたような目で見てきた。
あのとき恵は、何事もなかったかのように笑ってたのに?
「え。いや。え? だって、あれは、ゲーム友達だから庇ってくれたんでしょ? 本当は凄く嬉しかったし、動揺したけど、でも私は本物の彼女じゃない、恵にとってはただのハーディの札でしかないんだから喜んじゃダメだって……惚れ込んだなんてそんなわけない、本気なわけない、お世辞だからスルーしなきゃダメだって……」
私は意味もなくスマホを握り締め、狼狽した。
まさかあの台詞が本気だったなんて。
惚れ込んだ? 恵が、私に?
一体私のどこに惚れるような要素があるっていうんだ?
女子にしてはゲームが上手だから?
さっき言ってた通り、ゲームの相棒として最高だから?
「じゃあ、なんでそう言ってくれなかったの。いつから好きになってくれたのかわからないけど、そのときに偽彼女じゃなくて本当の彼女になってほしいって言ってくれてたら、私はきっと喜んで――」
「あのなあ」
恵が今度こそ不機嫌そうになる。
「祐基にからかわれるたびに『私はハーディの札です』って言い張ったのはそっちじゃんか。五月の初めに祐基が言っただろ? もうお前ら付き合っちゃえよってさ」
「……言った」
そして私は恵の前で即答した。
ないない、って。
しかも、笑って。
手まで振って――ああ。
過去の言動を心の底から後悔し、私は内心で顔を覆った。
「………………あの……ひょっとして、恵がこれまで告白できなかったのは、私のせい?」
「ひょっとしなくてもそうだよ。どっかの誰かさんが『お前の彼女になるなんて絶対嫌だ』オーラをこれでもかと放出してたおかげだよ」
恵はしかめっ面でカフェオレを飲んだ。
――萌はことあるごとに『私は赤石くんの本物の彼女じゃなくてハーディの札だ』って言ってるけど、それって『私は頼まれて彼女役を演じてやってるだけなんだから勘違いするな』って主張してるようにしか聞こえないから、好きだと自覚したなら止めたほうがいいわよ。
芹那の懸念は、全くその通りだったらしい。
……そうか。
他人の評価とか、自分を卑下する気持ちだとか――そんなことどうだって良くて、私はもっと信じるべきだったんだ。
恵が差し出してくれた手を、繋いだ手の温もりを、いつも向けてくれた優しい笑顔を。
嫌いな子にあんな笑顔を向けるわけがないのに。
私は自信がないあまりに「そんなわけがない」と端から否定して、可能性に目を瞑り、何度も「私は恵の彼女じゃない」と主張して――そしてきっと、彼女になって欲しいと言い出せないくらいに恵を傷つけた。
「……えっと……ごめん。私は恋愛経験なんてなくて、自己評価も低いほうで、恵と私じゃとても釣り合わないと思ってて」
私はスマホをテーブルに置き、膝の上で自分の手を握り合わせた。
「恵が私のことを好きになるなんて夢物語、ありえないと思ってた。だから、風間くんにからかわれたときも、恵が迷惑だと思う前に流したつもりだったの。まさかそれが仇になるなんて……」
「それで?」
もう言い訳はいいから、いまの気持ちは? と、目で促された。
ゲームではキャラが元気に叫んでいたけれど。
やっぱり、大事なことは改めて、ちゃんと自分の口で言わなきゃダメだよね。
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