33:ゲームオタクの本気を見せてやれ

「えっ、ちょっと、きゃー! なんでこっちに来るのよ! 来ないでってば! 嫌ぁぁ!」


 中間テストが終わった六月上旬の土曜日、私たちは青葉くんの家にいた。

 青葉くんのご両親は共働きで、今日は夜まで帰ってこないそうだ。

 テストも終わったし、皆で遊びたいならうちを提供するよと言われたので、皆でお邪魔している。


「楽しそうだね、江藤さん」

 恵がコーラ片手に笑っている。

 私たちはリビングのテレビに恵が持参した家庭用ゲーム機を繋げてゲームをしていた。


 いまコントローラーを握ってるのは青葉くんと芹那で、二人が遊んでいるゲームはバーストクロック。

 芹那が「萌が橋本さんを撃退させたバーストクロックとやらを見てみたい」と言ったため、それまで四人で遊んでいたゲームを止めて要望を叶えることにしたのだ。


「楽しくないわよ! 私は見てみたいと言っただけでやりたいとは一言も言ってないんだけど! わ、あっ! ああああ、死んじゃう!」

 芹那は敵の攻撃に合わせて身体を震わせたり、左右に捻ったりと大忙し。


 もはやゲームをしているというより、コントローラーを握って踊っているといったほうが正しい。


「可愛いねえ」

 きゃあきゃあと一人で大騒ぎしている芹那を、私含むその他の三人はほのぼのとした眼差しで見ていた。


「ああ。ゲーム初心者の反応は見ていて微笑ましいな」

 恵が風間くんの言葉に同意したことで、ちょっと気になった。


 やっぱり男子としてはゲームできない女子のほうが好感度が高いんだろうか?

 もしも私がゲーム下手だったらと仮定して、想像してみる。


「やだー、このゲーム難しすぎるよう。もう無理、できなーい。けーくんやってー」「仕方ないなあ、見とけよおれのスーパープレイ」「きゃーけーくん格好良い! すごいすごーい! サイコー! やーん愛してるー!」「ははははこいつぅ」……。


 ……いや、誰だよ!?


 私も恵も別人だよ!?

 額を押さえて激しく頭を振り、鳥肌が立つほど恐ろしい脳内妄想を消去していると、

「どうかしたのか萌」

 コーラを飲んでいた恵がコップから口を離し、尋ねてきた。

 隣で風間くんも不思議そうな顔をしている。


「……恵は私がゲーム上手なほうがいいよね?」

「何言ってんの。当たり前じゃん」

 肯定されたことでほっとした。

 さよなら妄想の中のバカップル。永久に。


「落ち着いて芹那。回復ポーション使えばいいんだよ。△ボタン押して」

 青葉くんの声が聞こえて、私は再びゲーム画面を見た。


 既に芹那のHPは残り僅か、瀕死状態。

 対して、青葉くんのHPはまだ半分以上残っている。

 彼はきちんとターゲットをロックして銃を撃ち続けていた。

 芹那よりよほどゲーム上手だ。


「回復ポーション!? どれ!?」

「だから△ボタン――あ」

 芹那の操作している女性キャラが敵のクリティカルヒットを受けて死んだ。


 芹那がコントローラーを握ってぷるぷる震えている。

 悔しいらしく、その顔は赤い。


「……もういい。このゲーム、私には無理だわ」

 芹那はふくれっ面で私にコントローラーを渡し、立ち上がった。

 コントローラーの一時停止ボタンを押し、ゲームを中断して芹那の様子を見ていた青葉くんの隣に腰を下ろす。


「芹那が拗ねちゃったから、僕ももういいよ」

 青葉くんが苦笑しながら恵にコントローラーを譲り、芹那と一緒に後ろへ下がった。


「どうする? 止めようか」

「そうだな。別のゲームを――」

「いえ。本当のバーストクロックがどんなゲームなのか見せてちょうだい」

 青葉くんによしよしと頭を撫でられている芹那が頬を赤くして、恵の台詞を遮った。

 風間くんに目をやると、風間くんは頷いた。どうぞってことだ。


「そうだね、僕も二人の本気のプレイを見てみたい」

 私は恵と顔を見合わせた。

 これまで私たちは接待プレイをしていたけれど、本気を出していいらしい。

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