34:お似合いのカップル

「断る理由はないよな?」

 恵がにやりと笑う。


「もちろん」

 私も同種の笑みを浮かべ、コントローラーのボタンを押して最初のゲーム画面に戻った。

 協力プレイを選択し、その中で選べる最も過酷な難易度で決定。


 ゲームが始まる。

 私たちはコンボを途切れさせることなく敵に銃弾を叩き込んだ。


 効率的に敵の装甲を破壊し、ときには敵を天高く打ち上げ、ときには敵を地面に叩きつけ、合間合間にド派手なアクションを決めて、魅せるプレイに終始した。


「凄い凄い」と芹那は興奮し、青葉くんは「本当にゲームだけは得意だよね」と苦笑いし、風間くんは「あっいまパンツ見えた!」と叫んで「そういうのは言わなくていいから」と青葉くんに頭をはたかれていた。


 ゲームが終わり、リザルト画面が表示される。

 二人ともSS評価だったので、芹那が惜しみない拍手を送ってくれた。


 私は爽快感と達成感に包まれながら、再び恵と顔を見合わせて笑った。

 ゲーム下手な女子は可愛いかもしれないけど、やっぱり私はずっとこうやって、恵と肩を並べて戦う女子でいたいな。



 


「凄い。全部満点だ……」

 ゲームが終わり、私たちはリビングのテーブルを囲んでいた。


 テーブルに並べられているのは青葉くんの中間テストの答案用紙。

 どの教科も全て100点、しかも現代文の答案用紙には先生の『素晴らしい!』というコメントまでついていた。

 一体何をどうしたらこんなコメントがもらえるというのか。


「本当に頭良いんだね、青葉くんって」

 私は尊敬と畏怖を込めた眼差しで青葉くんを見つめた。


「あれだけ皆に偉そうなこと言っといて、実は馬鹿でした、なんて格好がつかないでしょ? 教師役を務めた以上、僕だって相応の努力はするよ」

 半袖のシャツに薄手の茶色いカーディガンを羽織った青葉くんは、皆に返された答案用紙をクリアファイルに入れた。


 青葉くんは几帳面だ。

 二階にあるという彼の部屋は物凄く綺麗に違いない。


「ところでさ、今日の青葉くんと芹那の格好、お揃いだね。事前に示し合わせたとか?」

 芹那は濃い茶色の縦縞模様のワンピースにカーディガンを合わせていた。

 カーディガンの色はほとんど青葉くんと一緒だ。


「そんなわけないでしょ。偶然よ」

 顔を赤くして否定する芹那。


「ふうん。打ち合わせなしで同じ色のカーディガンを選ぶなんて、さすがカップル。気が合うんだね」

「……カップルと言っても、期間限定だし。私が頼み込んだようなものだし」

 芹那は俯き、暗い顔でぼそぼそ呟いた。


「ねえ青葉くん、私の親友が期間限定の彼女という立場を悲しんでるんだけど。それについてどう思ってるの?」

 私は直球で聞いた。


「ちょっと、萌!!」

 芹那が私の肩を掴んで、ぐいっと後方に引っ張った。 


「えーだって。芹那が悲しむのは見たくないんだもん」

 ラグマットが敷かれた床に手をつき、のけ反って芹那の赤い顔を見ながら、私は唇を尖らせた。


「そうだね。どうなるかはまだ未定だね」

「…………」

 さらりと言った青葉くんに、芹那が絶望したような表情を浮かべる。

 芹那と呼び捨てにして、さっきは頭まで撫でていたのに、青葉くんは芹那を正式な彼女にするつもりはないんだろうか。


 芹那が設定した一ヵ月のお試し期間が終わるまで、あと二週間。

 それが終わったら、はいさよならってこと?


「……本当に?」

 私に口を出す権利はないとわかっていても、追及せずにはいられなかった。


「正直に言うと」

 青葉くんは悪戯っぽく微笑んだ。


「付き合ってくださいって真っ赤な顔して言った芹那が可愛かったから、もう一回聞きたいんだよね」

「付き合ってください!」

 芹那が叫んだ。


「………………」

 リビングの時間が、止まる。

 まさか即座に叫ばれるとは思わなかったらしく、青葉くんは固まった。


 芹那は首まで赤い。

 その真剣な瞳が捉えているのは青葉くんだけで、この場に私たちがいることすらも忘れているようだった。


 それだけ芹那は必死で――青葉くんのことが大好きなのだ。


「……いや……ええと……冗談のつもりだったんだけど……」

 青葉くんは気まずそうに目を逸らし、赤くなった顔を隠すように、片手で口元を覆った。 


「いやいや、冗談じゃ済まないだろ? 女の子にここまで言わせといてそれはないわ」

 にっこり笑って、風間くんが青葉くんの右肩を掴んだ。


「同感」

 恵も青葉くんの左肩を掴む。逃がさないとばかりに。


「で? 答えは?」

 にこにこしながら風間くんが要求する。

 青葉くんの肩を掴んだ手に力がこもったのがわかった。


「…………引き続きよろしくお願いします」

 観念したらしく、青葉くんが芹那に向かって頭を下げた。


「……はい!」

 感極まったような顔で、芹那が胸の前で両手を組む。


「良かったねー、芹那」

「ええ! ありがとう!」

 がばっという擬音がつきそうな勢いで、芹那が抱きついてきた。


「あはは。苦しいよ芹那」

 ぽんぽん、と背中を叩く。


「だってええ」

 芹那は私に抱きついたまま激しく首を振った。

 嬉しくて堪らないようだ。


「おめでとう」

「おめでとう」

 恵と風間くんが祝福の拍手を送り、芹那はますます私を強く抱きしめてきた。

 青葉くんはといえば、テーブルに肘をついて顔を覆っている。


 公開告白がよっぽど恥ずかしかったらしい。

 両手の指の間から覗く顔は真っ赤だ。


 やっぱりお似合いのカップルだと、私はくすくす笑った。

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