20:芹那の家に全員集合!
五月中旬、日曜日。
今日は雲一つない青空で、風も穏やかだった。
昼の十二時半過ぎ、私は芹那の家のリビングにいた。
集合時刻は十三時だけれど、芹那に少し早めに来てファッションチェックをしてほしいと頼まれたのだ。
「ねえ、この格好、本当に変じゃないかしら?」
リビングに敷かれた絨毯の上で、立ったままくるりと一回転してみせた芹那の格好は、ボーダーのニットチュニックだ。
ボーダーの色は黒と水色と白で、胸には鮮やかなターコイズブルーのペンダントを下げている。
白い靴下にはさりげなく青いリボンのワンポイントが入っていた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。似合ってるし、可愛いよ。自信もって」
背の高いモデル体型の芹那は、よっぽどおかしなコーディネートをしない限り、似合わないなんてことはない。
「そう……だったらいいんだけれど」
芹那はすとんと長方形のテーブルの前に腰を下ろした。
落ち着きなく髪を弄り、そわそわしている。
もうすぐ青葉くんがこの家にやって来るからだろう。
今日は芹那の家で勉強会の予定なのだ。
発端となったのは昨夜のこと。
午後九時、私たちはレベル40になり、晴れてインスタンスダンジョンへの入場権を手に入れた芹那を連れて、青葉くんを除く四人でインスタンスダンジョンに潜った。
そのインスタンスダンジョンは最大四人の人数制限があったのでちょうど良かった。
途中、攻撃魔法を連発したせいで芹那がヘイトを稼いでしまい、モンスターのターゲットが恵から芹那に移り、パニックに陥った芹那が明後日の方向に逃げ出して『待って、こっちに誘導してくれたらタゲ取り返すから! 離れられるのが一番困る!』と恵が慌てる一幕もあったけれど、私たちは行軍を続け、ボスモンスターを倒すことに成功した。
ボスモンスターがいた部屋で和やかに勝利を喜び合っていたとき、青葉くんがログインした。
何だよー遅いよーと軽口を叩く私たちに、青葉くんは一言。
『中間テストまであと一週間だけど、遊んでて大丈夫なの?』
その発言は芹那以外の全員を凍結させた。
沈黙したことにより、私たちの学力を悟ったらしい青葉くんは続けて質問した。
『三組も数Ⅰの担当は加藤先生だよね。この前小テストしたでしょう、何点だった?』
芹那はケアレスミスで98点だったと答え、青葉くんに褒められた。
それからしばし、教えろ、嫌だ、の押し問答があった末、私は39点、恵が31点、風間くんが42点と白状させられた。
半分の点数も取れていないと知った青葉くんは『遊んでる場合じゃないだろう』と雷を落とし――今日の勉強会が決定したのである。
「ねえ萌ちゃん、飲み物は何がいい? お茶とオレンジジュースとリンゴジュースと、コーラにサイダー、コーヒーに紅茶もあるわよ。今日は男の子の友達も来るっていうから、張り切って用意したの」
うきうきした様子で問いかけてきたのは芹那のお母さんだった。
ばっちり化粧し、清楚な服装に身を包んでいる。
彼女も芹那と同じかそれ以上に気合が入っているようだ。
友達に恵まれなかった芹那が異性を含めた四人もの友達を家に連れてくるというのが嬉しくて仕方ないらしく、私がこの家を訪れたときから、その美しい顔は緩みっぱなしだった。
「では、紅茶をお願いできますか」
「ええ、任せて」
芹那のお母さんがキッチンへ向かったとき、インターホンが鳴った。
「まあ! 来たわね!」
芹那のお母さんが華麗なターンを決めて両手を合わせ、廊下に出ようとする。
「お母さん、私が出るわ。萌の紅茶用意してあげて」
芹那が立ち上がった。
腹を括ったらしく、これまでの態度が嘘のように毅然としている。
「えー、私も挨拶するわよー、何事も最初が肝心なんだから」
「……挨拶以外の余計なこと言わないでよ。萌、ちょっと待っててね」
「うん」
私はおとなしく座って二人が戻るのを待った。
少しして、玄関の扉が開き、青葉くんの声が聞こえた。
どこかで待ち合わせて来たらしく、三人全員の声がする。
「これ、皆で買ったロールケーキなんですけど。良かったら食べてください」
「まあまあ、そんな気を遣わなくても良いのに。ありがとう」
えっ、そんな手土産持ってきてないと、聞き耳を立てていた私は慌てた。
後で私の分も払わせてもらおう。
「みんな格好良い子ばかりねえ。で、誰が芹那の彼氏候補なのかしら?」
「お母さんっ!!」
「最有力候補はこいつですねー」
笑顔で青葉くんを指さす風間くんの姿が想像できる。
風間くんは芹那の恋心をとうに見抜いていた。
というのも、芹那がとってもわかりやすいからだ。
恵だって既に察している。
気づかないのは鈍い青葉くん本人だけだ。
「まあまあ、あなたが……うふふ。未来の息子候補……」
「もうっ、馬っ鹿じゃないの!!??」
羞恥の限界に達したらしい芹那の怒声が家を震わせた。
多分、いまみんな耳を塞いでショックをやり過ごしていることだろう。
「この人の戯言はまともに聞かなくていいから! 上がってちょうだい!」
「は、はい」
「お邪魔しまーす」
皆がリビングに入って来る。
「あ、もう来てたんだ、山科さん。こんにちは」
「こんにちは」
青葉くんに軽く頭を下げつつ、うわー、みんな格好良いと、私はどぎまぎしてしまった。
オリエンテーションのときに私服は見たけれど、今日は『地味な格好』縛りがないので、誰も彼もがどこかのモデルのようである。
青葉くんは淡い水色のボーダーシャツに爽やかな七分袖の白シャツを羽織り、黒のズボンを履いている。
アクセントの腕時計がお洒落だ。
黒のリュックサックを背負っているのも学生らしくて良い。
風間くんは黒のジャケット、灰色のシャツにシルバーアクセサリー、肩に鞄を下げていた。
左手に黒の手提げ鞄を持った恵は白シャツに裾が長めの青鈍色のパーカーを着ていて、下は風間くんと同じデニムパンツだ。
風間くんは紺、恵は黒と、色の違いはあるけれど。
「どうぞ、みんな座って。飲み物を用意するわね。お茶とオレンジジュースとリンゴジュースと、コーラにサイダー、コーヒーに紅茶。この中から選んでちょうだい」
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