07:ゲームオタクについていけますか
翌朝。
私が登校すると、赤石くんは自分の席で橋本さんを始めとする女子たちに囲まれていた。
相変わらず大人気だなと、私は着席しながら思った。
しかし、彼女のフリをするって言っても、何をすれば良いんだろ?
とりあえず、近づいて「おはよう」って挨拶してみる?
でも女子たちと話してるのに割り込むって言うのもなあ……。
鞄を片付け、赤石くんのほうを見ていると、彼が急にこちらを向いて、にこっと笑った。
これまで見たことがないほどの良い笑顔に、心臓が大きく飛び跳ねる。
いやいや、これは演技!
橋本さんたちに見せつけるために、それっぽく振る舞ってるだけだから!!
私は騒ぎ出した心臓に「鎮まれ」と念じながら、ぎこちなく笑い返した。
すると、橋本さんたちはお喋りを中断し、顔を見合わせた。
「何? 赤石くんと山科さんってどういう関係?」
橋本さんが赤石くんに聞いた。
「萌はおれの彼女だよ」
「ええええええええ!?」
悲鳴の合唱が鳴り響いた。
赤石くんの周りにいた女子たちだけじゃなく、離れた場所にいた他の女子までびっくり顔をしている。
「嘘でしょう!?」
「嘘じゃないよ。なんで嘘つかなきゃいけないの。ねえ、萌。こっちにおいでよ」
赤石くんが笑顔で手招きしてくる。
いざ出陣の時だ。
頑張って彼女っぽく、親しげなフリをせねば……!
私は教室を斜めに突っ切って、赤石くんの前に立った。
女子たちは戸惑いと敵意を浮かべているけれど、素知らぬ顔で笑う。
「なんの話をしてたの?」
「流行りの歌や春休み中に出された課題の話」
「ふうん。じゃあ退屈だったんじゃない。恵が一番喜ぶのはゲームの話だもんね。でも恵についていける人なんていないんじゃないかなあ」
彼が私を「萌」と呼んだので、私もあえて呼び捨てにした。
「萌なら余裕でついてくるだろ? 『女神とドラゴン』のギミックは解けた?」
女神とドラゴン。一年前に発売された、謎解き系の有名RPGだ。
頭の中で女神とドラゴンに関するあらゆる情報が一気に展開していく。
「うん、おかげさまで」
突然の問いかけにも関わらず、私は微塵も動じず顎を引いた。
赤石くんが会心の笑みを浮かべた。
そうこなくちゃ、って顔だ。
ええ、ゲームに関することなら任せなさい。
リア充たちがキャッキャウフフとはしゃいでいる間、私は青春の全てをゲームに捧げてきたんだから!
私はすうっと息を吸い込み、一息に喋り始めた。
「まさか地下二階にある何の変哲もない石像に緑の球が隠されてるとは思わなかったよ。恵がくれたヒントのおかげでようやく時計塔の針を四時にすることができたわ。手持ちの赤と白の球の組み合わせじゃどうやっても四時にならなかったんよね。でもさあ、あの隠しボスって初見殺しだよねー、まさか光属性以外吸収するとは思わなかった。カイトとクーレンに火と水のエンチャント武器装備させてたから詰んだわ。仕方なく死んでやり直したよ」
「光属性以外は通らないかもしれないってことはエリーゼの手記に書いてあっただろ。まさか手記自体を入手し損ねてた、なんて言わないよね?」
「いや、ちゃんと読んでたよ? でもまさか、それ以外の属性を吸収するとは思わないじゃない。無属性魔法攻撃はもちろん、単純な物理攻撃ダメージすら吸収するなんて反則でしょ」
話についていけない女子たちがぽかーんとしているのも構わず、笑顔で手を振る。
「『女神とドラゴン』の隠しボスも強かったけどさ、『ラストファンタジア』の『最果ての地で待つ者』にはどんなパーティーで挑んだ?」
今度は私が質問した。
ちょっと意地悪が過ぎただろうかと思ったけれど、赤石くんは即答した。
「エリシャとリアムとバッカスとナナ」
さすがだ!!
あのマイナーPRGすらプレイ済み、しかもキャラの名前まで覚えているとは、恐れ入った!!
この話題についてこれる人がいるとは……!!
私は妙に嬉しくなって、にやにやしながら聞いた。
「ほほう、魔法防御力がおかしい隠しボス相手にあえてガチ魔法パーティーで挑んだとなると、トロフィー狙いですね?」
「そうそう、一時間近く戦ってようやく『魔法馬鹿』の称号が手に入った。こっちはトロフィーコンプのために仕方なく戦ってるのに、魔法馬鹿なんて酷いよな」
あはははは。
朗らかに笑い合う私たちを見て、女子たちは引いている。
「『霧の谷の魔女』の――」
「宝物庫の封印を解くためのギミックは――」
「古文書を読み解くのが大変で――」
「アナスタシアの過去には泣いた――」
私たちが嬉々としてマニアックなゲーム話で盛り上がっているうちに、ほとんどの女子たちは無言で撤退した。
でも、橋本さんだけはしぶとく残った。
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