封印の理由

勝利だギューちゃん

第1話

私には、中学生の頃から、仲のいい男の子がいます。

仮に、Mくんとしておきます。

Mくんは、他の男の子と違い、とてもおとなしい子です。

運動は苦手みたいです。


でも、漫画を描くのが、とても上手です。

私も漫画が好きなので、いつしか自然と、話をするようになりました。

Mくんは、私の事を気遣ってくれて、みんながいる時は、あまり私とは話しません。


でも、ふたりきりになると、とてもよく話してくれています。

いつしか私は、Mくんに恋愛より上の、保護者的感情を抱くようになりました。


中学の頃は、Mくんとは、ふたりでよく漫画の見せ合いをしました。

ふたりで、合作もしました。


「同じ高校に行けたらいいね」と、よく話してました。


でも、これは叶いませんでした。

Mくんは、他県の私立高校に行き、私は地元の公立校に行きました。

それ以来、しばらくは会っていませんでした。


私の名は、潤光世(めぐみ てるよ)・・・


高校入学後は、Mくんとは音信不通になりました。

電話をしても、手紙を出しても、なしのつぶてです。


Mくんは、私と違いおとなしい子でした。

(もしかして、いじめを受けて自殺・・・)

そんな心配が、頭をよぎりました。


しばらくして、私は思いきって、Mくんの家をたずねました。

中学の頃には、何度か来ているので、ご両親とは顔なじみです。


家を訪ねると、「あら、光世(てるよ)ちゃん、久しぶり」と、

おばさんが、出迎えてくれました。

「Mに会いに来てくれたのね。きっと、喜ぶわ」

私は、内心ドキドキでした。


しばらくして、Mくんの部屋に案内されました。

ノックをすると、「・・・どうぞ・・・」と、声がしました。

とても、元気がないように感じました。


部屋に入ると、Mくんがいました。

「久しぶりだね」

「・・・うん・・・」

それだけの、やりとりでした。


それに、様子がおかしいです。

部屋にあった、漫画の本が全てなくなってました。

漫画だけではなく、本は一冊もありませんでした。

あるのは、教科書と辞書だけでした。


それに、画材も全て見当たりません。


私は、心配になりMくんに訪ねました。

「何かあったの?」

「いや、何も・・・」

「漫画はどうしたの?画材はどうしたの?」

「捨てたよ・・・みんな・・・」

何だか違います。


「スランプなの?」

「そんなに、いいものじゃない・・・」

「誰かにいじめられたの?」

「いや・・・」

「もしかして、怪我したの?」

「大丈夫だよ」

「親にとめられたの?」

「違う・・・自分の意思・・・」

私は心配になり、思い作るか限りの質問をしました。

でも、全部外れていました。


もちろん、女の子も関係していないようです。

ここは、正直ほっとしました・・・


でもそれ以上に、オウム返しでしか答えてくれていないMくんに、

寂しさを感じました。


これ以上は迷惑になると思い、私はおいとますることにしました。

「また来てね」

おばさんは、優しく声をかけてくれました。

でもその後に、私はその理由を知ることになります。

Mくんから、手紙が届きました。

エアメールです。


「前略


潤光世様


お元気ですか?Mです。

先日は、ありがとうございます。

手紙も電話も、無視をしてごめんなさい。


僕が漫画を描かなくなったわけを話します。


僕は今、地球ボランティアの会員として、世界中を飛び回っています。

とても忙しく、漫画を描いている余裕はありません。

そのために、未練がないように、捨てました。

後悔はしていません。


世界には、まだまだ貧困や銃声などで、苦しんでいる人がたくさんいます。

僕は、この人たちの力に、少しでもなりたいと思うようになりました。


光世さんとは、会える機会が少なくなると思いますが、

光世さんは、ぜひとも夢を叶えて下さい。


「君なら出来る」


では」


私はこの手紙を読んだ時、MくんはMくんだと、安心しました。

手紙の中には、イラストが同封されていました。


おそらくは、ボールペンで走り描きしたものでしょう。

そこには、昔私とMくんとで考えたキャラクターが描かれていました。


Mくんは、「捨てた」と書いていますが、おそらくは封印しているのでしょう。

いつかその封印が解かれた時、また2人で描いていきたいと思います。


それまでは、私も歩み続けます。

Mくんに顔向け出来るように・・・

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封印の理由 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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