危険生物

凪津音紅

プロローグ

暑い夏の青い空の下、赤咲眞奈美(あかさきまなみ)に新しい生命(いのち)がお腹に宿ったのだ。まだ大学二年生の眞奈美には、凄く不安があった。

この頃、不自然な殺人事件が世間に広まっており、その犯人の特徴は通り魔だった。

しかし、一人だけの行為ではなく、最近では複数の人によって行われているのではと目撃情報が多数出ているのだ。噂によれば、その数人は仮面を被っており、その仮面は人によって違う。狐・狸・鬼など、不気味な仮面を被っている人と、全身黒のフードとマスクと長ズボンの人。その人達は、果物ナイフやのこぎり、金属バッドを持っているという。そのニュースを度々見るごとに、眞奈美の安心感が減っていき、バイトの帰りすら、普段なら徒歩なのに、今ではタクシーだというのだ。バイト先から家までは数メートルの距離。本当に、歩ける距離である。

「すみません。今日もお願いします。」

「おかえりなさい。最近、物騒な事件が多発していますね。もしかして、それでよくタクシーを?」

「ははっ。お分かりになられていましたか。実はそれが怖くて、夜も安心して眠れなくて。本当は歩ける距離なのですけど・・・・。」

タクシーの運転手は、シートベルトを締めながら言った。

「私も、こうやってお客さんがいるのに、運転しているだけでも怖くてね。タクシー会社の社長さんも恐れていました。」

眞奈美は頷いた。そして、車の窓の外を見て、ため息を吐(つ)いた。都会の街並みは、まだ午前中のように明るく、人は午前中のように騒がしかった。私は、独り暮らしをしている為、家の事も放ってはおけないのだ。

「はい、着きましたよ。今日もお疲れ様でした。気を付けて。」

「はい、こちらこそ。失礼します。」

少し距離を置いて、タクシーの扉は、自動で閉まった。運転手は会釈をして、この場を後にした。もうすっかり暗くなっている。今日は、そんなに晴れていないが、月は雲の狭間から顔を出し、明るく照らしている。

《ガチャ》

鍵を開けて、部屋を明るくする。私は、十階建てのマンションに住んでいる。ここは、五階の右側の端っこ。凄くいい眺めである。真夏の夜は、空気が澄んでおり、昼間よりは息苦しくない。裸足になり、鞄(かばん)も放り投げる。そして、テレビをつけて、冷蔵庫から作っておいたご飯を取り出し、食べる。

物騒なニュースは見ないでおいて、たまにはお笑い番組を見てみる。

元々、そんなには見ないけれど、恐怖感を減らしていく為に見ている。

満腹。

意外と面白かったので、食べるペースが遅くなってしまった。食べた後は、くつろぐというのが一般的なのだが、そういうわけにもいかず、そのままパソコンを開き、大学の課題を終わらせる。現在、二十二時過ぎ。大抵、課題は二時間以上かかる。

その内、三十分間は姉妹の国との交流通話がある。私は、英語が苦手である。よく、聞き返すことが多いため、迷惑がかかる事がある。でも、わからないところは、しっかり教えてくれる親友であり、私の秘密も全て守ってくれる。通話だけではなく、私から直接会いに行くこともある。というか、誰もが一度は行う、授業の一環なのだ。そろそろ時間。親友とお別れの挨拶をしてから、私はお風呂に入る。

「暑い・・・・。早く寝よう。」

色々やっていたら二十三時半過ぎになった。明日も朝が早い。アラームをセットして、枕元にスマホを置いて、素早く目を閉じた。


なんだかんだ、こんな生活をしていったその二年後、同じ大学生の男からプロポーズされた。後、私のお腹の中には赤ちゃんがいる。独りでは無理だったので、許可した。相手が優しければ、私はどうでも良かった。

結婚式を挙げてから、私は一人の男の子を産み、名前は何事にも純粋に生きられるようにとつけられたのは、赤咲純(あかさきじゅん)。私と夫は、これからが楽しみで仕方が無かった。

あの物騒なニュースは、ヤクザによる事件だったという事が発覚し、一件落着したらしい。

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