第10話 日常再開(予定)
「怒られちゃったね」
「私達がエスカレートし過ぎただけ……無理もない」
「そうだねー」
早朝、起きたら目の前にリンネとイストレアがおり、「仮にも歌姫隊、身体的損傷を伴うプレイはお控えください」と釘を刺されてしまった。
確かに人の目の前に出る仕事で傷跡等はご法度、見てくれる人を心配させてしまう。
こればかりはリンネが正しいのでアタシ達は反抗する権利がないのだ。
しかし、
「この惨状を見てスルーってあの二人……」
「普通じゃない……気がする」
レズセックスや媚薬、そしてアタシ達のアブノーマルな性癖にリンネ達は触れなかった。
首絞め、という行為に関しても歌姫隊を前提にした注意だったし首絞めという行為自体を否定していない。
寛容、もしくはあえて触れないというが考えはしにくい。
何故ならアタシ達はここに来たばかり、普通、居候初日にこんな事されたら何かしらの注意をする筈なのに……。
「ま、後でわかるでしょ。それより首の跡どうしよっか」
「私は気にしない……けど周りは気にする」
身体中に付けられたキスマークは服で隠せば何とかなる。
しかし、首の跡。
マフラーでも使おうかと思ったが今は暑いしヤミシノも嫌だろう。
つけた本人が言うのもなんだが、これをどうにかする方法は……あ。
「これを弄って……錬成」
「……?」
「よし、こんな感じかな」
「チョーカー……?」
その辺にあったアイテムを組み合わせ、チョーカーを作り出す。
少し大きめに作ったから首の跡も多少は隠れるだろう。
そしてこのチョーカー……少し細工を仕掛けた。
「ヤミシノ、これ付けてみて」
「ん……できた」
「よし、じゃあ……!」
「!?……かはっ、うぐっ……」
「ふふ、成功してよかった」
チョーカーを付けた途端、ヤミシノが心臓を抑え地面に屈服しだした。
実はアタシの意思を伝ってヤミシノの心臓を握りつぶせるようチョーカーに細工を仕掛けたのだ。
今は手加減したが、本気で握りつぶそうと思えば一瞬で潰せる。
まさに悪魔のチョーカーだ。
「あっ!……はぁ、はぁ……」
「どうだった? 心臓を潰される気分は」
「うぷっ……ステラのまた違う一面……最高……」
「あはは、もう逃げられないんだよ? 逃げたらヤミシノは死ぬ。分かってる?」
「うん……もう一生ステラの側にいる……ステラ、面白すぎるから……ステラ……ステラ……ステラァ」
チョーカーのせいかヤミシノが犬に見えて仕方ない。
自分の思い通りに動く女ってなんて素晴らしいんだろう。
そして自分はここまで一途な女に好かれて幸せ過ぎないか。
「じゃ、ご褒美あげるね。ちゅっ」
「んぅ……」
軽く触れただけのフレンチキス。
だが今はこれでいい。
過激なディープキスは夜のお楽しみに取っておけばいい。
「じゃ、着替えよっか」
「うん……」
クローゼットから服を出し着替えの準備に入る。
そう、アタシ達は表と裏を使いこなす。
今アタシ達に求められているのは日常、ありふれた関係であるアタシ達を再び出すことである。
こうして二人の表と裏を使い分ける日常が幕を開けた……。
◇◆◇
「ふぅ、そろそろ休憩にしましょうか」
「ぜぇ、はぁはぁ……」
役所の空き部屋。
白く無地だった場所を錬成で鏡を取り付け、アタシ達は歌やダンスの練習をしていた。
今、アタシ達歌姫隊はラムダの祭りで披露するパフォーマンスに向けて行動している。
しかし、それが順調であるかと言われると怪しい所であるが。
「動きはあってきました。もう少しの所ですわ」
「はぁ……そうだね……」
冒険者をしていた事もあって体力面では問題ない。
しかし、歌やダンスといった初めての経験。
今まで挑戦したこと無い事にアタシは四苦八苦しながらもなんとかやり遂げているのだ。
「さて、後はオーラですね……」
「オーラ?」
「あら? ステラさんはオーラを知らないのですか?」
「全然聞いたこと無い。ヤミシノは?」
「聞いたことはある……でも詳細は不明」
「そうですか……でしたらこちらを」
リンネがカバンから雑誌を取り出し、印のついたページを見せてきた。
タイトルは『めざせ、オーラマスター!』
クソガキが十秒で考えそうな見出しに頭を抱えるも、内容は意外と真面目な物だった。
オーラというのは魔力を外部に放出し、具現化する物の事らしい。
自身に秘められた魔法の力を限界以上に引き出すことが可能で今までに見たこともない魔法を出すことが出来るという。
ただし、使用するにはコンディションを最高まで高めなければならない。
早い話が気持ちの問題という訳である。
「オーラはパフォーマンス等コンディションが上がりやすい状況で発生しやすい。つまり歌姫隊にも言える事だと思いますの」
「はー……リンネやイストレアは使えるの?」
「一応使えますわ。こんな風に……!」
「!?」
リンネの身体が唐突に光りだし、その光が部屋全体を包み込んだ。
しかし、その光に眩しさは殆どなくむしろ心地よささえも感じさせた。
「おや、オーラパワーを使っているのかい? ならボクも……ふっ!」
イストレアから黒色のオーラが放たれ、リンネのオーラと混ざり合う。
すると周囲が幻想的な空間へと変化し、無地の練習場が跡形もなく消え去った。
「これは……」
「凄い……」
気づけば、黒煙に包まれた不気味なお城が目の前にあった。
コウモリが飛び交い、死体の数々が転がりそして城にべったりとついた赤い血。
二人はどこだ、と探していると二人は城の前に作られた処刑場の前に立っていた。
「さぁ、終焉の時だ……」
イストレアは黒いスーツ、そしてリンネはボロボロのウエディングドレスを着ていた。
イストレアが懐から剣を出し、リンネの首元に突き立てる。
首元に当たっている刃先からは血が流れ、あたかも現実のように錯覚させる。
そして、
「終わりだよ、お嬢様」
空に掲げた剣がリンネの首元に振り下ろされた。
まさに一瞬。
首のなくなった胴体からは血を噴き出し、イストレアを赤黒く染め上げる。
何もない練習場を血みどろにまみれた処刑場にする力。
これがオーラの力なのか。
◇◆◇
「ふぅ、こんな感じでしょうか」
「凄い……としか言えない」
瞬きしている間に、部屋は元通りになっていた。
リンネの首も繋がっているし、イストレアに血は一滴も付いていない。
幻術の類、にしてはリアルなあの世界を創り出す力というのは凄まじいものだ。
「アタシにも出来るかなぁ……」
「加護があるなら出来るのでは? 案外三秒くらいで出来たり……」
「あ、出来た」
「……」
「フラグ回収……まさしくお決まり」
オーラ出ろ、と念じたらアタシの身体が光り輝きだした。
リンネは呆れているし、ヤミシノは対抗してオーラを出そうとしている。
まさかあっさり出来るとはねぇ……。
もう加護さえあれば人生イージーモードなのでは?
◇◆◇
「ごくっ……ぷはぁ」
外で水を飲んで一息つく。
休憩時間のつもりがあの後オーラの練習に熱が入ってしまい、気づけば二時間くらい経過していたのだ。
何だかんだヤミシノもオーラを出せるようになっていたし、それはそれでよかったんだけどね。
「ひぃっ! や、やめ……ぐはぁ!」
「ん?」
裏路地の方から謎の断末魔が聞こえた。
確かあそこは立ち入り禁止の場所。
しかし、興味本位な心には勝てず、アタシは様子を見にいってしまった。
「ふぅ……しつこいんだよ君たちは……おや?」
「へぇ……」
そこにいたのは謎の男に剣を突き立てるイストレアだった。
謎の男は刺し傷以外にも骨折や殴打の跡があり、手ひどくやられたとみられる。
しかし、この状況は普通ではない。
仲間が知らない人を殺す場面など想像できるだろうか?
だが、そんな状況でもやけに冷静なアタシ。
案外、裏人格を開放したのは間違いじゃなかったのかもしれない、と内心考えていた。
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