第7話 災難
「さて、新メンバーの写真が撮りたいのだけどどうすればいいかしら?」
「写真機もなければ無地の場所もない。困りましたわね」
どうやらアタシ達の写真を撮るらしい。
写真か。昔、通りすがりの記者に一度撮られたきりだな。
結局その写真は悪意のあるデマに利用されて、あまりいい気はしなかったが。
写真機自体が高額なのにそれを持つ人にロクな奴がいない、というのはどうなのだろうかと当時は思っていた。
「二人はどうしてたの?」
「無理やり値切って撮影所でやりましたわ。ま、管理人から二度と来るなと言われたので無理でしょう」
「ああ……あの時の管理人は凄まじかったね……まるで鬼人のようだった」
「そうね……」
壁に貼ってある歌姫隊のポスターを見てお互い苦笑いをする。
言動から察するに、あまりいい思い出ではなかったようだ。
しかし、これで完全にお手上げ状態。
最悪新メンバーの写真は後回し……になるかと思われたが。
「ん……ある……」
「? ヤミシノ何が?」
「撮影機……神器だけどここにある……」
「え!? 嘘これ……」
ヤミシノが謎の収納袋から取り出した物。
それは紛れもなく撮影機だった……。
撮影機は高価すぎて一般庶民には手が出せない代物。
なのにそれを、ヤミシノが持っているのだろうか。
「ほう……これはかなりの高性能と見た。一体どこで?」
「天界のゴミ箱……壊れたから捨てたらしい」
「で、直して使っていると……神様って凄いですわね」
撮影機がゴミ箱に捨てられるとは、天界は物の価値観が違うんだなぁ。
何にせよ、これでカメラの問題は解決。
後は撮影所だけどどうすればいいかな?
「錬成……ステラなら出来る」
「あーなるほど、その手があるか。ミライさん、どこか錬成していい部屋とかない?」
「隣の部屋なら空いてるわ! こっちよ!」
ミライに案内され隣の部屋へと移動する。
役所はそれほど大きい訳ではないが、部屋の数ならそれなりにある。
中には使っていない部屋が多く、その大半は物置と化しているとのことだ。
原因は予算不足からくる職員不足らしいが。
「えーと、ここの鍵は……リリィ? リリィいない?」
「リリィ?」
「ここの職員の方ですわ。ミライさんとも仲が良く、実質側近みたいな感じですが」
「へぇー、一体どんな……」
「呼ばれて登場リリィちゃんの登場よ~♪」
「「……」」
近くの扉から現れたスーツ姿の女性。
赤みのかかった茶髪に整った美貌、高身長で大人なお姉さんと非の打ち所がない。
筈なのだが……、
「……やべー奴」
「ヤミシノ、それはダメ」
かなり直球に言ったな。
気持ちは分からなくないがもう少しオブラートに包もうよ。
「はい! この部屋の鍵よ。で、どうしたの? ここは空き部屋の筈よね?」
「歌姫隊に新しいメンバーが入ったから写真撮影をするのよ!」
「ふーん……あら、あなた達が新しいメンバー? いや~ん肌ピッチピチで羨ましいわねぇ! あっ、私はリリィ、ここの職員だから分からない事があったら遠慮なく言って頂戴! お姉さんが力になるわ!」
「は、はぁ……ステラ、です……」
「私はヤミシノ……リリィさん元気一杯……えねるぎっしゅ」
「ふふ、ありがとう。お姉さん元気だけは自信あるからねー。二人も若いんだからもーっと元気出してもいいのよ?」
所々お姉さんを感じさせるも、テンションが殆どを打ち消している。
今日一日味わった個性のパレードを振り返りつつ、アタシは何かを悟った。
もう、何が来ても、驚かない。
「はーい、空き部屋へようこそ~。で、こんな所で撮影するの?」
「ふっ、リリィさん。今、歴史が動く瞬間を見ることが出来ますよ……」
「あら~それは楽しみね」
イストレアが無理にハードルを上げていく。
期待には応えたいけど、ただ壁を無地にするだけだからね?
なんか豪華な城立てるみたいな言い方は勘弁してほしい。
「よーし、錬成!」
「へぇ、壁がどんどん……って、え?」
「はい終わり」
「えっ? もう?」
「うん」
各々が感想を言い終わる前に、錬成は終了した。
さっきまでオンボロだった部屋が何という事でしょう。
無地の部屋へと早変わり、加護の力は恐ろしい。
「凄いのね……加護の力?」
「う、うん……ヤミシノから貰ったんだよ」
「へぇ、神の加護か……ステラちゃん凄いのね!」
「神様さまさまですよ本当……」
とにかくアタシ達ができる撮影準備は終わった。
他にも必要な機材や魔法はあるが、その辺はミライやリリィが揃えてくれた。
中には明らかに見たこと無い物や高そうな物があったが、全員スルー。
これアタシよりミライ達の方が凄くないか……?
「じゃあ撮影するわよ~? はいポーズ!」
◇◆◇
撮影から少し後だ。
写真をポスターにし、それをあらゆる店に張ってもらえるよう交渉する。
これが歌姫隊最初の仕事だった。
もちろんタダで置いてもらえる訳もなくそれなりにお手伝いもしたうえだ。
なのだが、
「なぁんでこんな目に合うんですかぁああああああああ!?」
全力で走る後ろから、猛突進してくるオオトカゲが迫っていた。
ポスターを張る為に害獣駆除を依頼され、引き受けたのだがその相手がまさかのオオトカゲ。
毎年捕食被害が多く出ている危険なモンスターだ。
パシィン!
「ひぃっ!」
舌がアタシの隣を通りすぎる。
オオトカゲはそこそこ速いものの、加護のおかげで追いつかれる心配はない……と言いたい所だがオオトカゲは自身より長い舌を伸ばし、アタシを飲み込もうとしているのだ。
舌との距離、約二センチメートル。
下手をすれば食われるな。
「錬成の壁は登るしこいつなんなのよぉおおおお!」
「ステラ……任せて」
丘の向こうに堂々とした姿で立ちはだかるヤミシノ。
今、リンネとイストレアは別行動しており、頼れるのは彼女だけ。
神様、後はお願いします!
「錬成!」
オオトカゲを錬成の柱で打ち上げ、空に浮かせる。
このまま落としてもオオトカゲにはダメージが殆ど入らない。
だが、アタシの役割はこれでいい!
「つらぬけ……!」
ヤミシノが神器の弓を取り出しビーム状の矢を放った。
矢は十、二十と拡散し、その全てがオオトカゲに集中する。
一発の威力がデカいうえ追尾機能付き。
オオトカゲとてひとたまりも無いだろう。
「グァアアアアアアアアアアアア!」
矢の雨がオオトカゲに命中し、やがて爆発四散した。
アタシとヤミシノの完璧なコンビネーション。
オオトカゲなんて即死不可避な敵、昔なら避けていたが上手くいってよかった。
「ヤミシノ、ありがとう!」
「ううん……ステラがサポートしてくれたおかげ……」
「そんな事無いよーヤミシノのちか……ぶぇ!?」
「ぐぉっ」
完全に油断していた。
地面からいきなりオオトカゲが現れ、アタシ達は飲み込まれた。
一瞬の出来事、その動きはまさしくハンターの動きだ。
「うぇえええええ臭いよベトベトしてるよ気持ち悪いよぉおおおおおお!」
「うぅ……ゲロより酷い……ふぁっく」
まさしく地獄と呼ぶに相応しい口内。
所々当たる場所がドクドクしているし、ベトベトが服の中に入り込んで体中ゾクゾクする。
あぁ……このまま食われて胃液で消化されてしまうのか。
短い人生だったなぁ。享年十八、ステラ、この地に眠……
「ペッ」
「ぶぇっ……え?」
死を覚悟した時、何故かオオトカゲの口内から吐き出された。
これはこれで助かったが一体何故?
と、オオトカゲとアタシの目が合い、身体中が震えたと思ったら……
「オェェェェェ……」
オオトカゲは地面にゲロをぶちまけた。
滅茶苦茶気持ち悪そうで、何かいけない物を食べたみたいだ。
え、何そういうことなの。
アタシ、ゲロ出すくらいマズいってこと?
「うぇっ……なんか舐められて……ステラ助け……ふぇぇ……」
口直しと言わんばかりにヤミシノを高速で舐めまくるオオトカゲ。
舌と匂いのサンドイッチでヤミシノの表情が更に険しくなる。
へぇー、オオトカゲの分際で選別するんだ。
別にオオトカゲに食われたい訳ではないよ?
でもさ、なーんか腹が立つのは気のせいかなぁ?
「ペロペロペロペロ……」
「うっ……も、もう無理……オェッ……」
とうとう、キラキラしたものがヤミシノの口から吐き出される。
オオトカゲの唾液と腐臭で埋め尽くされ、辺りは地獄絵図と化した。
しかし、そんな中でもオオトカゲの元へ歩き出す。
胸に秘めた怒りを、アタシはどうしても放置できない。
そしてすぅっ、と息を吸い
「こんのグルメ野郎がぁあああああああああああああああああああ!!」
錬成で作った土の拳をまとい、怒りのままに突撃した。
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