第6話 歌姫
「どうして消滅の危機なの?」
「アルストリア国が予算削減の為にラムダを滅ぼそうとしているのですわ」
「なっ……!」
リンネの言葉に衝撃を隠せない。
アルストリアはラムダが存在する国だ。
気候や土地に恵まれ、農作物中心の発展を遂げてきた。
ここラムダでの料理が安いのもその豊富な食料のおかげなのだ。
「滅ぼす……理由は……」
「「「何もないから」」」
「……シンプルな理由だ」
三人が口をそろえて言う。
確かにラムダには何もないが、それを町長も認めるか。
「でもこのまま見過ごす私じゃないわ! そこで歌姫隊を結成したのよ!」
「歌姫隊? あのー何が何なのかイマイチ……」
「今から説明するわ。歌姫隊というのはラムダのシンボルとなるべく結成されたパフォーマンス集団。歌やダンス、劇やファンとの触れ合い等、とにかく幅広い活動をするの!」
「へぇ……」
「大体理解した……」
つまりこういう事だ。
何もないなら作ってしまえばいい。
シンボルは観光スポットだけとは限らないし、何なら伝説の勇者が生まれた町、でもいい訳だ。
パフォーマンス集団が活動する町というのも悪い着眼点ではないし、むしろ人気が出ればそれなりの収益が出る。
この町長、かなりアクが強いが意外と考えていたんだな。
「そしてボクとリンネで形成されたのが歌姫隊……という訳さ」
「ふーん、何か選考基準とかあるの?」
「なんというかビビっと来たの。町中を歩いていたら奇怪……じゃなくて美人な二人組が言い争いしていたからスカウトしたわ」
「ちょっと、聞き捨てならないワードが聞こえましたわねぇ……?」
どういう事かとミライに問い詰めるリンネ。
街の危機だというのに選考基準があんまりだ。
町長公認の奇人二人組をスカウトして、本当にこの街は大丈夫なのだろうか。
混沌とした言い争いが行われている中、隣にいたヤミシノがソファーに寄りかかっているイストレアに話しかけた。
「二人は知り合い……?」
「ご名答。ボクとリンネは知り合い……いや、互いを求めあう熱い関係、かな?」
「おー……そこまで密接に……あだるてぃっく」
「イストレアさん、過度な脚色はやめてくださいませんか!? ただの古い付き合いです!」
今度はイストレアに突っかかるリンネ。
色々と忙しく動き回るな。
「で、今後はどうするの?」
「今、一つ決まったことがあるわ!」
「へぇーかなりスピーディーに決まっていくね」
「ステラ、ヤミシノ! あなた達二人に歌姫隊に入ってほしいの!」
「「「「ん?」」」」
町長を除く四人が首を傾げる。
え、なんで今の流れでアタシ達がスカウトされるの?
まさかとは思うがこれは……
「ハメられた……?」
「いえ、わたくし達も初めて聞きましたわ。ミライさん、唐突にも程があるのでは?」
「うーん、ステラもヤミシノも可愛いし素質はあると思うの。どうかしら?」
アタシ達をじっくり見まわすミライ。
え、その可愛いにアタシは入ってないよね?
そんな事今まで言われたこと無いし誰かが否定するだろうと思っていたが、
「……一理ありますわね」
「リンネ!?」
「ボクはも大歓迎だよ。ミライの突発的な発想は面白そうだしね」
「イストレアまで!?」
何故か二人が納得している状況に困惑するアタシ。
自画自賛したい訳ではないがまさか可愛い、を認められるとは。
てか、本当に行き当たりばったりだなこの歌姫隊!
「いやいや! ヤミシノは可愛いけどアタシは違うでしょ!?」
「私……可愛い……なんだかポカポカしてきた……」
隣を見ればヤミシノが顔を赤くして俯いていた。
うわ、それは卑怯だよ。
なんかこっちまで照れてくるじゃん。
「そうですか? ステラさんも十分可愛いと思いますが?」
「え……!? ち、ちょっとリンネ……!」
リンネが近づき、アタシの顔をじっくりと見だした。
「ほら、まつげも長いし目もパッチリしてる。ヤミシノさんとは違う魅力がありますわ」
「そ、そんな……」
誉め言葉の連続に更に照れしまう。
普段褒め慣れてないせいか、自分が自分でなくなる感覚に襲われる。
というかリンネ顔近すぎ!
そんな事を思っていると、後ろから不穏なオーラを感じた。
「むぅ……ステラ、口説かれてる……」
「あら、そんなつもりはありませんのよ? ヤミシノさんすみませんでした」
「……?……別に大丈夫……?」
自分のやった事を理解していないのか、頭にハテナを浮かべるヤミシノ。
記憶喪失? にしては早すぎる。
うーんわからん。
ヤミシノは不思議だ。
「で、どうするんだい? ボク達は歓迎するよ」
「うーん、ヤミシノはどうしたい?」
「……興味……ある……面白そう」
「……そっか」
ヤミシノは絶対乗ると思っていた。
誉められた時凄く嬉しそうな表情をしていたし、なによりこんな面白そうな事、ヤミシノが食いつかない訳がない。
だが、アタシはどうだ?
正直少し迷っている。
今までの人生でここまでの役割を任されたことがあっただろうか。
そして平凡で誰かを後ろからしか見る事が出来ないアタシが、みんなの前に出て誰かを笑顔に出来るのか?
新たな事への挑戦に対する迷いや不安。
それがアタシの決意を揺らがせ判断を鈍らせる。
と、自問自答に苦しんでいるとヤミシノがアタシの服をちょいちょいと引っ張った。
「ヤミシノ、どうしたの?」
「何も考えなくていい……」
「え?」
「ステラは突っ走ればいい……それがステラらしいから……」
「……」
根拠も無く無鉄砲な答え。
要約すれば“細かいことは気にするな”だ。
迷ってる人間に出す解答としては賛否が分かれるだろうが、アタシにとっては一番のベストアンサーだと納得出来た。
何故ならそれが、ある意味アタシらしい前の進み方だろうから。
「……アタシもやるよ、歌姫隊」
「……ほう」
「この先どうなるかわからないけどさ、どうなるかわからない部分も含めて楽しもうかなって。これでいいかなヤミシノ」
「うん……ステラらしい……と、思う」
「はは……アタシらしさを本人が理解してないんだけどね」
「決まりね! ステラ! ヤミシノ! ようこそ歌姫隊へ! これからよろしくお願いするわ!」
「おわっ! い、いきなり何!?」
何故か空中で一回転してからこちらに向かい、頭を下げたミライ。
「細かいことは気にしなくていいわ!」
「いやいや……」
今、一回転をする必要性はあったのか。
ありとあらゆる状況を想定してもその行動パターンは絶対に生まれない。
ほら、ヤミシノが困惑した表情でおろおろしている。
アタシもさっきまで決まっていた決意が崩れかけたぞ。
「まぁこれからよろしくお願いしますわ」
「あぁ、今日は美しい者が二人も生まれてしまった。素晴らしい日だね今日は」
あ、これは日常なんだと二人の反応から察する。
よくよく考えたら濃いメンツが揃ったものだ。
エキセントリックな町長にお嬢様と厨二王子の古参メンバー。
ある意味ラムダに革命を起こすには持ってこいの人選だろうが、アタシは決意とはまた別の不安がよぎっていた。
◇◆◇
おまけ ステラが元いたパーティのその後
「なぁんで誰もいないの!」
ステラと別れた後、やり切れない気持ちで仲間たちの元へいくと待っていたのは絶望。
ある者は結婚し引退、またある者は犯罪を起こして逮捕、酷い者だとオークに捕まってぐへへな事をされているらしい。
つまりぼっち。オーランドの味方は誰もいなくなった。
「うわぁああああああああん! 私が悪かったからだれか戻ってきてよぉ!」
草原の中心地で一人虚しく叫ぶオーランド。
彼女の動向は一体どうなるのか。
続いたり続かなかったり。
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