第5話 出会い
「ねぇヤミシノ。どうして“未来“なんて言ったの?」
「未来は神様でもわからない……だからこそ未知の可能性を感じたなら迷わずそこへ行け……と古い知り合いに」
「ふぅん……」
かつてあったヤミシノの家より向こう。
アタシとヤミシノはお金を稼ぐ方法を探して、街を歩いていた。
ヤミシノが消滅する危機は去っても、金銭面の危機は未だに残っている。
早急に対処しなければ、アタシ達は餓死という形で消滅してしまうだろう。
「やっぱポーションや武器を売るのは無理なのかなぁ」
「過度に生産すると市場崩壊を再び招く……それだけステラの能力はケタ外れ」
「そうなんだよねぇ……はぁ」
市場崩壊、それはかつてハイポーションやミスリル剣等、レアアイテムが大量流入したことで引き起こされた騒動である。
原因は生産系の加護持ち冒険者が一攫千金の為に大量生産した為なのだが……その結果、高品質なあらゆるアイテムの値段が大幅に下がった。
加護のないアイテム生成者は稼げなくなるばかりか市場は大混乱、一時期は低品質ポーションが無料で配られていたくらいだ。
最終的にアイテムの流入整備や冒険者規約の改定により、市場はなんとか安定をより戻せたが、以前のようにアイテム売買だけで生活する事が実質不可能となってしまったのだ。
「絶大な力が滅ぼすのは命だけではない……加護を授ける時、神様が必ず助言する言葉」
「アタシ聞いてないけど」
「……忘れてた……てへ」
真顔のまま舌をぺろっと出すヤミシノ。
おい神様、大丈夫か。
その適当さがまた変な事を起こしそうで不安なのだが。
「……取り敢えず冒険者ギルドに行こうか」
「ん、賛成」
前は実力不足で敬遠していたクエストが受けられるかもしれない。
神様のヤミシノもいるし大丈夫だろう。
生活費とヤミシノの給料。
今まで以上の事が求められている現状にアタシは気を引き締めた。
◇◆◇
「ダメだぁ……はぁ」
「ここの冒険者ギルドは名ばかり……大抵の事は住人がやってしまうからロクな依頼がない……ふんすこ」
ギルド内の休憩所。
何の成果もあがらすっかりお手上げ状態だ。
ヤミシノも若干不機嫌なようで水とストローでぶくぶくさせて遊んでいる。
面白いのかなそれ。
「ラムダは元々寂れた街……職を探すのが難しい」
「変な魅力はあるのに職はないんかーい」
「同意……何もなくてもここには謎の魅力がある」
そう、ここは何だかんだ居心地がいいのだ。
前来たときもそうだったが、ここには謎の魅力があり事実アタシが今まで行った街の中でも一番である。
まあアタシ自身が沼に漬かっているだけ、という解釈もできるがこの街からはしばらく離れるつもりはない。
……ネメシスさんにまたおいで、と言われたしね。
「「よろしくお願いしまーす!」」
「ん?」
ギルドの外から掛け声が聞こえた。
客引きか何かだろうか?
「ふっ、このボクの美しさにひれ伏……」
「イストレアさん! あれほど言ったのにまた変な事を……ああ、すみません皆様方! この子少し虚言壁があって……おほほ」
「虚言……だと? リンネ、キミはボクの魅力を理解していないようだね……」
「ああーもう! その辺の話は後でたっぷり聞きますから! 今は呼び込みに集中してくださいまし!」
「大道芸人……?」
「かなぁ……?」
ギルドの外に出ると、二人の少女が呼び込みをしていた。
が、店の呼び込みにしてはコント色が強すぎる。
大道芸人の勧誘にしては奇抜な恰好やメイクでもないし、第一芸を披露していない。
彼女達は一体何をしているのだろうか?
「あのー、何をしてるんですか?」
「……ん? ああお見苦しい所を見せてしまいすみません!」
「もしかしてコントの邪魔……? ……続きをどうぞ」
「ほう、コント……か。人の解釈というのは実に面白いね。それもまた、ボクの美しさが引き出す可能性……」
「コントでもありませんし余計な解釈を与えないで下さい……はぁ」
アタシ達が介入した事により、混沌を極める現場となってしまった。
事実、通りかかる人達の何人かは笑っているし一人の少年がそばにお金を置いていった。
少年、これ多分見世物じゃないよ。
「もう、無理やりですが自己紹介を始めさせていただきます! わたくしはリンネ! 今、隣の痛い人と共に歌姫隊を組んでいます」
丁寧にお辞儀する赤い瞳の少女。
動くたびに長い銀髪の髪からフローラルな香りがただよい、こちらを心地よくさせる。
リンネという少女は全体的に品が良く、まるでお嬢様のようだ。
「ふっ、今紹介に預かった痛い人ことイストレアだ……」
青と緑のオッドアイの少女がドヤ顔であいさつする。
イストレアの金髪のポニーテールみたいに常時眩しいオーラを放っており、なんだかウザい。
いや、美少女といえば美少女なのだがなんかこう……ね。
「……メンタル強いねイストレア」
「何を言う。痛いというのはダメージを負っている事。つまり、ダメージを表情に出さないボクの美しさを称えているのだよ」
「イストレアさんはただアホなだけなのでお気になさらず」
完璧なのはガワだけかイストレア。
美しさを極めるなら中身もかなり重要だぞ。
というかラムダって本当に変わり者が多いんだなぁ。
この街に来てから驚いてばっかだなアタシ。
「歌姫隊……聞いたことない」
「確かに……なんだろ」
「そうですね……ここでは目立ちますし町長の元に行きませんか?」
「え、そんな簡単に会えるの?」
「町長はフレンドリーな方ですわ。サッカーやろうぜ的な感覚で会えます」
「気さくすぎないそれ?」
まあ街に来たばかりだし、町長に色々聞くのはいいかも知れない。
町長のいるところなら街全体の情報が得られるかもしれないし、ついでに職も探せる。
アタシの意図を感じ取ったのか、ヤミシノも軽く頷いている。
あらゆる情報を求めて、アタシ達は町長の元へと向かった。
◇◆◇
「見たことのないお客さん! これは久々に面白い事がおきそうだわ! あ、私はラムダ町長のミライよ!」
「は、はぁ……」
「ステラにヤミシノ……二人共いい名前ね! これからよろしく!」
「ミライさん……凄いテンション……はいぱわー」
ギルドから少し離れた役所。
少しお堅そうな場所で、アタシ達は町長に手を掴まれぶんぶんと振り回されていた。
その紅に輝くツインテールのように燃えるようなテンションのミライ。
サッカー感覚なフレンドリーさも納得できる。
「はぁ、ミライさん。お二人に街や歌姫隊の事について詳しく……」
「そうね、折角来てくれたんだもの! じゃあババッと説明しましょうか!」
ミライが足でドン! と足踏みすると一瞬で形成された魔法陣から黒板が現れた。
アタシと同じ錬成魔法? それにしては組み合わさる過程が見えなかったし、何より魔法陣の色が茶色ではなく銀色だった。
「別の場所から呼び出した……?」
「ヤミシノさんご名答ですわ。ミライさんは空間保管庫を使える稀な存在。あらゆるアイテムを保管庫に入れる事ができ、そこから取り出すことが出来ますの」
「相変わらずのスマートさ。まさしくボクと同等の美しさを感じさせるねぇ」
「はーすっごい……」
空間保管庫はウワサだけ聞いたことあるが、実際の所有者は見たことがない。
もう殆ど幻と言われた能力なのにまさかラムダで出会えるとは。
もしかしてこの街、かなりチートじみた人達がいるの?
「みんな何をコソコソしてるの? 本題に入るわよ?」
「ああ、そうだった。お願いします」
見ればミライは黒板に何やら文字や図を書いており準備を整えていた。
そして、全員が黒板に注目したところでミライがある一つの部分に線を引き出した。
「今、ラムダが大変なの!」
「「え?」」
大変なの、最初その言葉を理解出来なかったが、黒板の線を見て理解した。
『ラムダ消滅の危機』
事の重大さを、赤や黄を織り交ぜた太い線が示していた……。
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