第4話 仕事

「え、契約を解除? どういう事?」

「落ち着いて……一個一個話すから」


 困惑するアタシとやけに冷静なヤミシノ。

 いやいや、だっておかしいでしょ。

 家を爆破されていきなりクビになるって辻褄が合わない。

 さっきは冷静なヤミシノ凄いと言ったが、ヤミシノさんなんで冷静なの? に訂正だ。


「さっきの爆発……あれは辞表付きの流星が家に激突した時に起こる物……だからやったのは上司」

「……爆発と辞表ってセットなの?」

「うん……ウチは解雇されるとき会社から借りた家を爆破される……これは百年続く伝統」

「無茶苦茶な伝統だ……」


 周囲の被害とか考慮しないのか。

 家から出てけならまだしも、家を爆破は聞いたことが……いや、そんな発想にはならないだろ。

 サポート相談室ブラック通り越して世紀末突入してるじゃん。


「で、解雇される原因は? いくらクソ企業でも理不尽に他人の家を爆破したりしないでしょ?」

「たまにある……けどまぁいい……で、原因は……」


 たまにあるのかい。

 気まぐれで下界に無差別攻撃仕掛けるとか本当ロクでもない。

 神様はよっぽどストレスを下界にぶつけてたいらしい。


「ステラが引き当てた加護……それを渡したから」

「え? どういう事?」

「上司曰く、ガチャとはいえEXクラスの加護なんて与える馬鹿がいるか、そんな物与えたら大赤字だろうが……と」

「はぁ?」


 つまり貴重な加護を与えたから、ヤミシノをクビにしたって事?

 何それ納得できない。

 アタシは正当な手段で加護を手に入れたんだし、ヤミシノだってマニュアル通りの行動をしたまでだ。

 こんな無茶苦茶な事があっていいのだろうか。

 でも……


「ごめんねヤミシノ……アタシが当てたから……」

「大丈夫……丁度上司に見切りをつけて辞めようと思ってたから……ないすたいみんぐ」

「……」

「落ち込まないで……悪いのは理不尽な上司……ステラは背負う必要無し」

「ヤミシノ……」


 間接的とはいえ、アタシはヤミシノの仕事を奪ったようなものだ。

 でもヤミシノはそんな事気にもとめてない。

 優しい……こんな子が理不尽な目に合うなんて酷すぎる。


「なんなら天界倉庫に潜り込んでEXスキルをばら撒く?……きっと上司は怒り狂うだろうけど」

「はは……それは面白そうだけど神様相手はねぇ……」


 さり気なくとんでもない冗談を言うヤミシノ。

 神様というのはこんな子ばかりなのだろうか?

 天に立つ者がクレイジーなのは、あまりいい気分がしないが……。


「あ、でも一つ心配が……」

「ん? 何?」

「んと……これを見て……」


 そう言うと、ヤミシノは自分の右腕をこちらに差し出した。

 何をするのか、と疑問に思いながら数秒ヤミシノの右腕を見つめていると、


「!? 今、右腕が……!」


 一瞬だが、ヤミシノの右腕が透明になった。

 まるで消えてしまうかのように……。

 一体ヤミシノに何が起きているのだろうか?


「私は労働の神……労働の場所を失った今、私の存在は消えてしまう……」

「え!? な、なんで急に!?」

「辞表を叩きつけられたのはさっき……でも辞表自体はもっと前から完成されてた……」


 つまりヤミシノを解雇させる辞表は夜の時点で完成されており、何らかの理由でヤミシノの家に送るまでにラグが生じたという事か。


「今の私は供給源を失ったタンクと同じ……活動している限り生命力は減りつづけ、消滅する運命……」

「そんな……」


 あまりにも唐突すぎる。

 働き場を失い、その次には命まで失うというのか。

 そんな運命、悲しすぎるよ……。


「な、なんとかならないの!?」

「働き場と契約さえすれば……何とかなる……かも」

「そうか……」


 働く場所さえあれば労働の神であるヤミシノに生命力を与える事が出来る。

 が、今の時代働き場を一日で探す等困難。

 アタシが拾い物で稼ぐくらい、昨日今日で職に就くのは難しいのだ。


「場所はある……私の美貌を生かせばお金持ちの娼婦くらい余裕……えちえち」

「しょっ……!? ダ、ダメだよそんな事したら!」

「……? 娼婦も立派な職業……別に問題はない筈……」

「確かに職業ではあるけど……と、とにかく! 身体を売るのは絶対ダメ! もっと自分を大事にして!」

「……いえすまむ」


 取り敢えず納得させることは出来たようだ。

 別に娼婦そのものを否定する訳ではないが、ヤミシノが見知らぬ人に身体を売る場面なんて見たくない。

 娼婦はあくまで最終手段だ。


「でも他に方法は……?」

「うーん……」


 しかし、その代用案がアタシにあるかというとそうでもない。

 第一、そんな方法があれば昨日のアタシが実行している。

 時間だけが無残にも過ぎていく中、アタシは必至でヤミシノを救う方法を考えた。

 そんな時だ、


「……それって個人がヤミシノを雇う場合でも可能なの?」

「可能……ただ、そんな人がいるとは……」

「じゃ、じゃあ! アタシがヤミシノを雇うよ!」

「え……ステラが……?」


 ヤミシノが困惑した表情でこちらを見つめる。

 そりゃそうだ。

 あって間もない人からいきなり勧誘されたら誰でもこうなる。

 アタシならお断りする場合だ。


「い、いや……アタシが雇えばヤミシノが消えることも身体を売ることもないし結果オーライかなって……」

「給料は?」

「ま、まだ決まってません……」

「仕事内容は?」

「な、なんか手伝いとか……こう色々……」

「ステラは何をしてるの?」

「冒険者……だけど稼ぎが……」

「残業の有無は?」

「一応無い……ように善処します」


 曖昧すぎる待遇に険しい表情をするヤミシノ。

 アタシ自身、誰かを雇った経験が無いうえ突発的に決めたことなので詳しい事を何も決めていなかったのだ。


「雇い主として最低……ブラック……行き当たりばったりすぎる……」

「返す言葉もございません……」

「だけど……面白そう」

「え?」


 面白そう……?

 グダグダで無計画なアタシの提案を面白そうと言ったのか?


「今の時代どこへ行ってもブラック……なら面白そうな所で苦労したほうがまだいい」

「ま、まだ……」

「それに……見ず知らずの私を助けようとするステラと……未来を見たくなった」

「……それは神様っていう立場から来た発想?」

「ううん……これは私の好奇心から来た発想……わくわく」


 未来……か。

 自分の過去を振り返ってもアタシの人生は普通だった。 

 特に飛躍した出来事も無く、人並みに苦労し、人並みの幸せを得て暮らしていた……。


「アタシの未来なんてきっとつまらない物だよ?」

「それは私もそう……でもステラとなら……未知の可能性を感じる……」

「未知の可能性……」

「現に私とステラは出会った……今日までの出来事は過去の自分にも予測の付かないもの」

「そうだね……」


 思い返せば昨日今日の出来事は凄まじかった。

 元居たパーティを抜け、新しい街でヤミシノという神様に出会い、物凄い加護を貰った……。

 ここ十年生きていて、こんな目まぐるしい変化はなかっただろう。


「じゃあヤミシノ……あなたを雇います」

「ん……これからよろしくお願いします」


 と、ヤミシノがアタシの手をぎゅっと握りしめた。

 その瞬間、淡い光を放ちだしやがて光は、アタシ達二人を包み込む程大きくなった。


「これで契約は完了……もう大丈夫」

「本当!? あーよかったぁ……」

「ステラは変……突っ走りすぎというかなんというか」

「はは……よく言われる」


 昔からアタシは計画性も無く突っ走る癖がある……らしい。

 それが良かったのかというとそうでもなく、今までの結果は半々、と言ったところだ。

 まぁやらないよりはマシ、と考えてるので別に気にしたことはないのだが。

 今回も見ず知らずの女の子を救えたし、結果オーライだろう。


「……これからよろしくねヤミシノ」

「うん……ありがとうステラ」

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