第3話 目覚め
「今日はリフォームしてくれたお礼よ。お代はいらないわ」
「いえ、でも……」
「遠慮しなくてもいいのよ。その代わり、またここに来て話を聞かせてくれれば嬉しいわ」
「はは、ではお言葉に甘えて……ごちそうさまでした……」
「ふふ、またいらっしゃい」
ネメシスさんに見送られ、飲み屋を後にする。
今日は色んな事が多すぎて整理出来てない。
パーティーから追い出され、街に来てなけなしのお金で飲んでいたら神様のセールスマンから超強い加護を貰った……。
うん、意味が分からない。
「どうだ、この強さ……どんな勇者にも引けを取らないバランスブレイカー……無敵だぞ」
「これバランスブレイカーってレベルじゃないよ……ただの錬成があそこまでの力を発揮するなんて予想外すぎ……」
「……まあ加護ですし……仕方ない」
「……そうだね」
隣のヤミシノを肩で担ぎながら、飲み屋街を歩いていく。
酔いが覚めたアタシとは違い、ヤミシノはかなり飲んだ為歩くことが出来なかった。
だからこうして家まで運んでいる訳だ。
「でもこの力怖いなあ……加護を持つってこんな感じなんだね」
「怖い……? ステラは魔王を倒したいとか、支配者になりたくない……? 不思議……」
「はは……アタシが冒険してるのは手っ取り早くお金を稼げたからであって、別に支配欲とかはないよ」
「ふーむ……ステラは変わり物……」
どこか納得出来ていないヤミシノ。
そう、アタシは別に名声の為に勇者をやっていた訳ではない。
ただの成り行きなのだ。
冒険者として活動していたある日、聞いたことも無い神様から「今日からお前は勇者だ!」と言われ勇者の印を勝手に付けられた。
勇者になった事で今までのクエストがランク制限により受注できなくなり、実力が無いアタシは追い込まれた。
何とかオーランドのパーティーに入れた事で危機は脱せたものの今度はクビ宣告……波乱万丈である。
「この力どう使えばいいのかなぁ……」
「その力をどう使うかはステラの自由……あ、変な事には使わないで……職場の信頼がガタ落ちする……元から最悪だけど」
「そんな変な事はしないから……家ここだよね? んしょ」
家までついたので、ヤミシノを肩から降ろす。
まだ足元がふらついているが大丈夫だろう。
「今日は楽しかったよ。ありがとうね」
「ん、ステラ泊まる場所……よかったら……」
「ああ、大丈夫だよ! アタシ冒険者だから野宿とかへっちゃらだし!」
「……でも」
「いいから。というかヤミシノも知らない人を家に上げちゃダメ。一人暮らしの女の子なのに無防備すぎるよ?」
「……わかった。ステラ、また会えたら……」
「うん、また……」
ヤミシノの家を後にし、アタシは闇の中へと消えていった。
さて、ここからどうしようかな。
ヤミシノに無防備なのはいけない、と言った後だし野宿はダメだよね。
はあ、人気の無い場所で一夜を明かしますか……。
◆◇◆
「なるほどね……大体わかった」
人気が無い路地。
夜が明け朝日が差し込む中、アタシは自身が得た加護について色々調べていた。
何が強くなったのか、何が出来るようになったのか。
その作業で夜を明かす結果になったが、加護について大体理解は出来た。
出来たのだが……。
「えいっ」
“軽く”五十メートルの距離を走る。
自分的にも全力を出した訳でもないのに、気づけば五十メートル地点を突破していた。
秒数にしてざっと一、二秒……これは。
「人間の身体能力じゃないよね……」
身体魔力強化EX、その名の通り身体能力と魔力を強化する加護なのだが……想像より遥かに強化されている。
まず身体能力、速さはさっきの通りだ。力もその辺の石が軽く握っただけで粉々になった。力に関しては油断するとあちこちを傷つけそうで制御に苦労しそうだ。
「次は……アイテム生成」
薬草と水と空きビン、これらを合成させる。
すると材料が一瞬だけ光り、ポーションが生成された。
以前なら十秒くらい掛かっていた作業が一瞬で。
その成長にも驚いたのだが、更にアタシが驚いた点がある。
「なんでハイポーションが出来てるの……」
鑑定魔法で生成されたポーションを見ると回復量が通常のポーションとは桁違いだ。しかも色が通常のポーションである緑色ではなく赤。
これはハイポーション……そう断言せざるを得ない。
ハイポーションなんて代物、魔女クラスの者でなければ作れない筈。材料だって高級だし時間も通常のポーションより遥かに時間もかかる。
そんな凄い物をアタシは拾い集めた材料であっさりと作ってしまったのだ。
「……これは使いどころを見極めないとなぁ」
ケタ外れな力というのは一歩間違えれば人を悪の道に引きずり込んでしまう。
過去の勇者が加護に毒された結果、国全体を敵に回す反乱を起こす事例だってあった。
加護には救世主にも厄災にもなる力が秘められているのだ。
まさか軽い気持ちでやった加護ガチャでこんな結果になるとは。アタシ自身も思わなかった。
酒の勢い、というのは本当に恐ろしい物だ。
ドガァァアアアン!!
「!? な、何!?」
突如、辺りに爆発音が響き渡った。
やがて音が消え辺りを確認すると、東の方角で煙が発生しているのが見えた。
「あの方向……ヤミシノの家が……!」
確かヤミシノの家は煙が発生している辺りの筈。
直接の原因でなくとも、周辺で火事が起きている事には間違いない。
心配だ、様子を見に行かないと……!
そう思い立ち、アタシは全速力でヤミシノの家に向かった。
◇◆◇
『おい、なんか爆発音がしたぞ!?』
『なんだよ! 目覚まし時計の癖に鼓膜を破壊しようとするんじゃねぇ!』
『俺のへそくりの隠し場所があああああああああああああ!』
爆発現場に着いた時、辺りは混沌としていた。
煙の位置……あそこはヤミシノの家じゃ……!
今すぐにでも向かわなくては。
だが、地元住民が広場でごちゃごちゃと話しているせいで前に進めない。
おまけに火薬の匂いが充満しているせいで、酔い覚めたばかりの頭をクラクラとさせる。
あーどうしよ……このままじゃヤミシノの家に進めない。
「……そうだ」
と、アタシは一旦広場を抜け裏路地に回った。
ヤミシノの家の位置は分かっている。
ならば……
「錬成!」
アタシは地面に錬成をかけ人一人くらいが通れるくらいの穴を開けた。
うん、前より精度も上がっている。
これなら何とかなりそうだな。
「ほいほいっと……」
穴に入り目の前の土壁に錬成をかける。
すると土壁が崩れ、巨大な一本道が完成した。
そう、アタシは地面の穴を通りヤミシノちゃんの家に向かおうとしているのだ。
「空気とか大丈夫かな……まあ身体能力強化されてるし少しくらい大丈夫か」
酸素の心配をしつつアタシは全速力で穴の中を駆けた。
待っていてヤミシノ。
今、そっちに向かうから……!
◇◆◇
「ステラ……?」
「ぷはっ……一六回目でやっと当たった……」
「大丈夫……? 全身土だらけで汗だく……」
「ああ、大丈夫大丈夫。ちょっと無計画すぎただけだから……」
「……?」
燃え盛る家の前。
縮こまっているヤミシノの近くで、アタシは地面から顔を出した。
アタシの惨状にヤミシノは首をかしげているが仕方ない。
実は方向は分かっても穴から家までの正確な位置を把握していなかった。
しかもヤミシノの魔力を詳しく知らないせいで魔力探知も使えない。
そのせいで何度も穴を開けては閉じて、開けては閉じて……という作業を延々と繰り返していたのだ。
結果的にヤミシノの元にたどり着けたもののこれでは効率が悪すぎる。
肝心な所で頭が回らないんだよなぁアタシ。
「なんで……来たの?」
「ん? ヤミシノが心配だったから……かな?」
「私とステラは昨日会ったばかり……赤の他人に近い……」
「あー、確かにそうだけど……まぁヤミシノの事と家を知っちゃったし? 見捨てる訳にはね? それにヤミシノ、結構いい人だったから……じゃだめ?」
「わからない……助ける理由が浅い……すかすか」
アタシの行動原理が理解出来ないヤミシノ。
まぁ理由にしては少し物足りないかもね。
アタシだって気づいたら突っ走ってたし、理由なんて即興で考えたアドリブみたいな物だ。
ま、そんなのどうでもいいし本題に入りますか。
「で、何があったの? この爆発ただ事じゃないでしょ?」
「急の出来事だった……けど原因はわかる」
「え? わ、わかってるの?」
「うん……少し意外だったけど……」
流石神様、爆発でも冷静に対処し原因を突き止めてしまうとは。
元々感情が表に出にくいだけかもしれないが見習わなければ。
無計画に穴を開け続けたアタシとは大違いだな。
「サポート相談室……クビになった」
「は?」
ヤミシノが懐から封筒を取り出し、中身をアタシに見せた。
そこには……
『当社は貴殿の契約を解除します』
と、やけにリアルな一言が添えられた手紙があった。
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