第8話 『時』の能力
「全くもって時間の無駄だったよ」
裕也がそう言った瞬間、自信を取り巻く周囲の、いや、世界の時間が急速に遅くなっていくのが手に取るようにはっきりと分かる。
「まさか、本当に使えるとは、ね……。時間を停止させる能力ってことか?いや、どちらかと言えば、時間の流れを引き延ばしてるような、そんな感じがするな」
周囲を見渡しながら、裕也は全てが止まったような世界で独り言を呟く。近くの炎を凝視すると、ほんの少しだが揺れているのが分かる。
「時間遅延……タイムディレイとでも言ったところかな。まんまだけど」
そんなことを呟きながら、青年の元に、極々普通の足並みで歩いて近付く。
「……あ、ここで能力解除させて驚かせようと思ったんだけど、解除の仕方分からねぇ……」
どうしたもんかと一旦考え、とりあえず殴ってみるか、という結論に至る。
腰を下ろし、それっぽい姿勢で拳を構えると、青年の鳩尾に全力の拳をお見舞いする――。
「ごふぁ、っ!?」
拳が青年に触れたその瞬間、世界の時間が再び元通りに流れ始める。
(え、ちょ……能力ってこんなに簡単に解除されるの?何かに触れたら解除されるのか、はたまた時限式なのか……)
幾分かその場から後退した青年を余所に、自分のその拳をまじまじと見つめながら、裕也は首を捻る。
「なっ……な、何をした!?」
青年からの質問で、思考が引き戻される。
どう答えようか、と一瞬迷い、能力発動前に青年が言っていた言葉を思い出す。
「さっき、お土産を頂いたからね。お礼に俺からも教えてやるよ。寛大なお兄さんは、『炎』を操れるんだったっけ?生憎、俺は『時』を操る能力を持ってるんだよね」
青年を見下し、「今知ったんだけど」と苦笑しながら。
「どっ……どういうことだ!?能力を手に入れたのは俺だk――」
…………。
「はい、能力発動っと。確かに、一度やってしまえば、二回目の能力発動も簡単だな。意識すれば、それだけで発動できるってのも分かったし」
さっきの疑問の結論として、もう一度試してみれば良いだろう、という至極簡単な考えに至った裕也は、青年の意思など全く介せずに躊躇なく能力を発動させる。
なお、既に裕也の脳内では、青年は被験体のモルモット同然の扱いだった。
「とりあえず、触れたら解除する説で行くか」
今度は青年の横腹に思いっきり横殴りを――。
「かはぁ、っ!?」
再び強打を、それも横腹に食らった青年は、今度はよろける程度では済まず、されるがままに横に吹き飛ぶ。
「うん、触れたら解除するって説の方で合ってるっぽい……な!?」
真横から飛んできた火炎に驚き、咄嗟に後ろに飛ぶ。
「……遊びは、終わりにしようか……」
二人の間に現れた火炎は、そのまま上下に広がり、周囲と同様の大きな壁を作りだす。
「はぁ……はぁ……残念だったね。君は僕を倒す手立てがあったなら、すぐにそうしておくべきだったんだ」
「何を言ってるんだ?これくらい、能力を使え……ば……?」
途中で、裕也は自身に起こっている違和感を感じる。
「ゴホッ、ゴホッ……意外と効くのが早かったね。今頃、めまいで立ってるのもままならないんじゃないのかい?」
「……クソ……何、が……?」
なにが起こったかも全く理解できないまま、裕也はその場に崩れ落ちる。
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