第6話 炎を操る者
「はぁ……はぁ……くそ暑ぃ……」
「もうちょっとだから頑張って!」
十分ほど走ったが、既に裕也はバテていた。
普段運動しない上に、滅茶苦茶暑いため、仕方ないと言えば仕方なかった。
しかし、千佳を負ぶいながら前を走っている結衣は全く疲れた様子を見せていないため、無事に今日を過ごせたら少し運動しよう、と裕也は心に決める。
「見えたよ!あそこ!」
結衣の言葉に反応して、顔を下げながら走っていた裕也は顔を上げる。その最中、一瞬だけ視界の端に何かがちらつく。
「――っ!ユイ、下がれ!」
「……え?」
直後、先導していた結衣の眼前ギリギリのところを炎が横切り、その炎はそのまま壁を形成する。
「どういうことだよ……」
裕也が、独り言を呟く。
いつの間にか、裕也たち三人を中心とした円を描くように、周りは炎の壁に囲まれていた。
「やあ、こんばんは。夜の散歩中かい?」
のどかな声色とは裏腹に、背後からゾクリとした気配を感じ、二人は咄嗟に後ろを振り返る。
そこにいたのは、恐らく裕也たちよりも少し年上であろう青年だった。顔はフードで隠れていてよく見えないが、あまり健康的とは言えないくらい痩せた体格をしていて、左手には包帯を巻いている。
何より驚くべきところは、その青年がいる位置だった。
「ねえ、ユウくん……」
「あぁ、なんで、あいつのいるところだけ炎が避けているんだ?」
青年は、炎の中にいた。しかし、まるでその青年を避けるかのように炎は楕円状に軌道を描いていた。
「その目は、不思議がっている目だね。そこの可愛いお嬢さんに免じて、特別に教えてあげるよ」
そう言うと、青年は徐に裕也と結衣の間を指差す。
「「――なっ!?」」
直後、異変を感じて咄嗟に左右に別れた二人の間を一筋の炎が通過する。
「今見せた通り、僕は炎を操ることができる。ついでに言うと、この火事を起こしたのも僕だ。ここまで理解できたかな?」
二人とも、理解はできないが下手な事をしたら殺される、と言うことだけは感じ取れたため、静かに縦に一回相槌を打つ。
「うん、君達が理解ができる頭のいい人たちで良かったよ。さっき、急に襲い掛かられたものだから、びっくりしちゃって焼き殺しちゃったんだ」
青年は、その時のことを思い出したのか、クククッと薄ら笑いを浮かべる。
「おっと、話が逸れたね。それで、本題なんだけど、君達を殺すのは容易い。だけど、それだけじゃ詰まらないから、少しゲームをしようと思うんだ。勿論、ゲームにクリアしたら、殺さないでおいてあげるよ。やるかい?」
「もし……乗らなかったら、どうなるんだ?」
「その場合は君達を焼き殺して、別の遊び相手を探すことにするよ」
裕也の質問に、青年はその返しを想定していたように即答する。
「で、どうするんだい?」
裕也と結衣は目を合わせ、互いの意思を確認する。
「やる」
「やります!」
「よし、参加者は集ったことだし、ルールを説明するよ」
そう言うと、右手の人差し指を立て、左手でさっきと同じように、裕也と結衣の間を指差す。
すると、青年の近くから発せられた炎はさっきと違い、二人の間に炎の壁を形成する。
「ルールその一。そこの男子君は、僕の炎をこの円の中で延々と避け続けて貰います」
次いで、今度は右手の中指を立て、左手で結衣の後方を指差し、結衣とデパートとの間にあった炎を消し、一本の道を作る。
「ルールその二。そこの女の子二人組は、デパートに走っていってそこで僕の炎と鬼ごっこして貰います」
次に、右手の薬指を立て、左手で自身の頭上を指差し、炎で『10:00』と描く。
「ルールその三。女の子二人組がデパートに着いたことを確認したら、このタイマーを起動させます。これが『0:00』になるか、そこの男子君が死ぬと、鬼ごっこが始まります。ちなみに、タイマーは僕の意思と無関係にきちんと時間通りに進むから安心してね」
次いで、青年は右手の小指を立てる。
「ルールその四。ゲームのクリア条件だけど、男子君は、日が昇るまで、もしくは僕が満足したらゲームクリア。女の子二人組は、この町から脱出するか、日が昇ればゲームクリアとします」
そして、青年は「そして最後に……」と言って、険しい表情を浮かべて、親指を立てる。
「ルールその五だけど……これが一番重要ね。僕を退屈させないように、全力で頑張ること」
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