第2話 明晰夢
(……ここは……どこだ?)
目を覚ました裕也は、自分が知らない場所にいることに気付く。
そこは、視認できる限り、際限なく真っ白な空間だった。そこには天井は無く、床もあるのか怪しい。では、どこに立っているのか?それは、裕也自身にも分からず、“何か”の上に立っている、としか表現の仕様が無かった。
(つまり、明晰夢ってやつか……――!?)
いつの間にか、目の前に人の形を模した“何か”がいた。ついさっきまで何もいなかったのにも関わらず、兆候も無く唐突に現れたのだから、驚くのも無理はなかった。
「私は、君であり、この世界の理をも支配する力を持った存在。私を手にした君には、世界を救うことも、破滅に導くことも容易いだろう」
目の前の“何か”が何を話しているのか、裕也にはさっぱり分からなかった。いや、正確には理性面で理解できなかった。しかし、本能的に、その“何か”が言っていることは全て事実だと理解する。
「君に与えられた力……それは『時』」
――――――
「いてててて……」
目覚めとともに、裕也に関節痛が襲いかかる。
どうやら、机に伏したまま寝てしまったらしく、そのせいで関節痛が起こったようだった。
「あ、ユウくん、おはよう」
横を見ると、金髪の、かなり美形の女の子がこちらの顔を覗き込んでいた。
「家の前でいつも通り待っておこうって思ってたけど、なかなか出てこないから、心配してきちゃったよ。急がないと、遅刻しちゃうよ?」
朝起きて、目の前に女の子がいたら驚く――
「え、まじ?今何時?」
――というのが、男子として普通の反応だが、裕也は全く動じない。
「もう……ちょっとくらいは驚いて欲しいんだけど……今は七時五十分くらいだよ」
そう言って、その女の子は不貞腐れたように頬を少し膨らませながら、しかしちゃんと裕也の質問に答える。
「いや、今更目の前に幼馴染がいるからって、どうやって驚けと」
その女の子、綾坂結衣は、裕也の幼馴染だった。断じて恋人というわけではない。断じて違う。
Q.裕也たちが通っている高校は、電車で約十五分掛かります。その電車は、裕也たちがいつも乗る駅に三十分ごとに来て、裕也たちはいつも七時五十五分の電車に乗っています。
駅まではおよそ徒歩五分で、降りた駅から学校までも、これまた徒歩五分ほど。そして、学校は八時四十分に始まります。
もし、裕也たちがいつも乗る電車に乗り遅れた場合、どうなるでしょうか?
「いや、全然大丈夫……じゃねぇよ!遅刻確定だわ!」
「どうしたの、ユウくん?」
「今から急いで準備して行けばまだ間に合う!諦めるにはまだ早いぞ!お兄ちゃん!」
「元々はお前のせいだろうがああああああ!!!」
何故か胸を張ってドヤ顔で応援する千佳。ちなみに、張る胸はない為、彼女相手にその言葉の言い回しは間違いである。
「あぁ!?喧嘩売ってんのか⁉!?出てこいワレ!」
「千佳ちゃんまでどうしたの!?」
「結衣!三分で支度するから少し待っててくれ!」
「仕方ないなぁ……幼馴染のよしみで待っといてあげるよ」
普通に優しい裕也の幼馴染。どこぞのブラック企業の上司とは大違いであった。
ちなみに、ブラック企業の上司も裕也たちの高校と登校時間は一緒だが、徒歩で十分程のため、かなり余裕があった。
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