第1話 始まりを告げる流れ星
――四月一日午後十時頃、日本のとある街の、とある一戸建ての家にて。
その家で二人暮らしをしている兄妹の兄の方、雨宮裕也は、明日から再び始まる高校という悪夢から現実逃避するために、二階の自室のベランダで、春の夜風に肌を当て、のんびりと夜空を眺めていた。
……予定では、の話だが。
「だから言ったんだ!早めに宿題は終わらせとけって!」
「んなこと知らないもん!今年が受験の年だからって、ほんのちょっとしかない春休みにこんなに宿題を出す先生が悪いもん!」
実際には、夕方に宿題を全くやっていないことが発覚した妹、千佳に泣き付かれ、半ば強引に宿題の手伝いをやらされていた。勿論、このアシスタントに給料はない。
「あのなぁ、こういうのは他人にやらせても意味ないんだぞ?」
「お兄ちゃん!喋ってる暇があったらさっさと手を動かして!」
「はぁ……」
どうやら、このアシスタントには給料どころか、人権すらないようだった。
「明日から俺も学校あるんだけどなぁ……」
「お兄ちゃんはこんなに可愛い妹が徹夜で宿題を頑張ったけど、結局間に合わなくて、先生に新学年初日から怒られて、イライラしながら帰ってきてもいいの⁉︎」
(可愛い妹とやらがどこにいるのか教えて欲しいところだけど、普通にありそうな話だから怖い……というか面倒臭い)
「はいはい、分かった分かった。だけど、流石に一時をすぎたら寝るからな?」
根負けするアシスタント。しかし、それでも最低限の睡眠時間は奪われる訳には行かず、条件を提示する。これでも、裕也は普段、十一時には寝るという健康的な生活を送っているため、かなりおまけしてあげているつもりだった。
「それまでに数学と歴史と地理と理科を終わらせれたらいいよ」
……そんなアシスタントの最後の抵抗も、無慈悲に切り捨てられたのだった。
何故なら、とても三時間で終わるような量ではなかったから、というのと、兄妹共にバリバリの文系だったから、という二つの点が挙げられたからだ。
ちなみに、この会話中、千佳の方は、一切手を止めていなかった。兄と違い、妹は器用なのだ。もう少し、その器用さが宿題管理の方にも回って欲しいところではあるが。
(まあ、流石に今年から高二だし、中二レベルだったら余裕だろう)
そんなことを考え、裕也は千佳に抵抗するのをやめ、黙々と宿題を解き始めた。
――それから、数時間が経ち、
「あ〜!終わった〜!」
「うっせぇな……近所迷惑だろ……」
一仕事やり終えた後みたいに、千佳は座ったまま背を大きく伸ばして深い溜め息と歓喜の声を上げる。しかし実際に宿題の大半を片付けたのは裕也である。
そんな裕也の方は、この数時間の間、精神と時の部屋にいたのではないか、と勘違いしてしまいそうなくらい窶れていた。
「割と時間かかったな……、結局二時かよ……」
裕也は、背もたれにもたれ掛かって背後にあった時計を見て、予定していた時間から既に一時間も経過していたことに気付く。
(明日……起きれるかな?いや、明日っていうか今日か。まあ、自称可愛い妹の頼みなら仕方ないだろう……)
ふと、外を見ると、月明かりがなく、いつもより夜空が暗く見えた。
「そういえば、今日は新月だったっけ」
「あ、お兄ちゃん!流れ星!」
「おぉ、流星群か?でもそんな時期だっけ?」
いつの間にか裕也の隣に来ていた千佳が、空を指差す。同時に、流星群というレベルじゃない程の流星が裕也の目に映った。
――この時、彼らは思いもしなかっただろう。この謎の流星群によって、日常が壊されるということを。
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