第20話 仲直り

昂と話さなくなって、2週間以上が過ぎようとしていた。


毎日のように一緒にいたのに、こんなに長い間、話さなくなるなんて信じられなかった。家にも迎えに来ていた昂が来なくなり、家族も心配し始めていた。


「最近、昂ちゃん来ないわね。具合でも悪いの?」

「いや、元気にしてるよ」

「あら、そうなの?」


母も昂のことが大好きで、昂ちゃん、昂ちゃんと言っては小さい頃から実の息子のようにかわいがっていた。そんな昂が急に姿を現さなくなって、心配しないはずがなかった。


この頃、俺は一人で学校に行くことに少しずつ慣れ始めていた。でも、この先、昂と話ができないままだったら…と思うと、想像するだけで怖くて不安でたまらなかった。


同じクラスの俺たちは、学校でも話を交わすことはなかった。

俺たちが仲が良いことを知っているクラスメートたちも、違和感を感じ始めていた。


「快都さ、最近、昂と一緒にいないよな。何かあった?」


クラスメートの吉岡が不思議そうな様子で聞く。


「ああ、ちょっとな…」

「ケンカ?」

「まあ、そんな感じ」

「難しいんだな、幼馴染ってのも」


幼馴染か。初めて出会った小学1年生の頃から9年。

初めてのケンカ。もう、無理なのかもしれないと内心、弱気になる俺がいた。


でも、やっぱりこのままでいるのは嫌だった。



ある日の学校帰り、俺は思い切って昂に話しかけることにした。

先に校舎を出た昂が玄関を抜けたところで呼び止める。


「あのさ!」


昂は自分が話しかけられたことに気付いてはいたが、返事はなかった。


「俺、昂と話がしたいんだ」

「俺は別に、話すことなんてないけど」


昂の声は冷たかった。だけど、ここで怯むわけにはいかない。


「悪かった」


俺は大声で叫んで、頭を下げた。通り過ぎる生徒たちがこちらを見ている。


「何で、快都が謝るの。別に悪いことしてないでしょ」

「俺、昂の気持ちも、高坂の気持ちもちゃんと考えてなかった。自分のことばっかりで…。だから、それを謝りたくて。俺、昂の気持ち、絶対、無駄にしないから。高坂のこと、誰より大切にするって約束するから。だから…」


俺は知らない間に涙を流していた。


「俺と、また前みたいに仲良くしてください」


夕暮れ時の空に、俺の言葉が吸い込まれて消えた。

昂は遠くを見つめるような表情をした後、俺に向き直って優しい声で言った。


「帰ろう」


俺たちは、一緒に駅への道を並んでゆっくりと歩き出した。

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