第19話 合格点
総合学力テストもどうにか終わり、結果発表の日がやってきた。
藤永先生から答案を用紙を受け取った俺の手は震えていた。
「おーちゃん、何点だった?俺、92点!」
92点の答案用紙を手にした僚一が覗き込む。昂とは相変わらず会話がなかったが、
テストの結果は94点らしかった。
「きっしーは?」
「97点」
「やばっ」
わいわい盛り上がる僚一たちの声も耳に入らないまま、震え続ける俺。
震える俺の手から答案用紙を奪い取る藤永先生。
「80点。合格だな」
「やったー!!」
俺たちは、念願の夏フェスに行けることが決まった。
夏フェスの日程は8月16日、17日と夏休みの最後だった。
放課後、俺たちはいつものように屋上に集まっていた。
「ねえねえ、RSRってどこでやるの?」
「石狩だな」
「石狩ってどこ?札幌より遠いの?」
「大体、同じくらいだな」
「何時間かかるの?」
「4時間半あれば着くかな」
「超楽しみ!!」
盛り上がる僚一と藤永先生の横で、黙ったままの昂とバツの悪そうな俺。
夏フェスに行けることになって嬉しい気持ちと、昂とのことでどうすればいいかわからなくなっている気持ちがごちゃ混ぜになって複雑だった。
帰り際、見かねた藤永先生が話しかけてきた。
「仲原とケンカでもしてるのか?」
いつもなら、すぐに言い返すはずの俺の返答はない。
「悩みがあるなら、何でも聞くぞ?」
「実は高坂とのことで、昂とちょっとあって…」
「なるほどな。仲原も高坂のことが好きだった、と」
「えっ、まだ俺、何も…てか、えっ?何で??」
「お前、高校生の仲違いって言ったらそれしかないだろ?」
「そんな単純な話じゃないんですけど…」
これまで、色恋沙汰とはまったくの無縁で過ごしてきた俺にとって、
今回のことはまさに一大事だった。
「昂が、俺に郁奈のことをもっと考えてろって言った後、何か急に怒り出して、それから口聞いてもらえなくて…」
「どうして、仲原は怒ってるんだと思う?」
「それが、よくわからなくて…」
「そうか」
藤永先生は何か思い当たるような節でもあるのだろうか?
少し黙り込んだ後に、静かに口を開いた。
「仲原は、もどかしいんだな」
「もどかしい?」
「そう。お前らがようやく結ばれて嬉しい反面、いつまでも受け身な近江にイライラしてるって感じかな」
「俺のせい…」
「近江さ、もっと自信持ってもいいんじゃねえの?高坂が選んだのは、他でもないお前なんだからさ」
俺は帰り道、藤永先生に言われた言葉の意味を一人、考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます