第17話 彼女
「と、いうわけで」
俺と高坂は、二人並んで屋上に立っていた。
「俺たち、付き合うことになりました」
目の前には唖然とした表情のメンバー。それもそのはず、昂以外は高坂と会うこと自体、今日が初めてだった。
「よっ、ご両人、おめでとう!!」
一人、浮かれた調子の藤永先生が混ざっているのはさておき、
俺たちは総合学力テストを3日後に控えていた。
「じゃあ、あとは、近江が数学で合格点を取って、みんなで夏フェスに行くだけだな!!」
「ねえ、彼女さんは名前なんていうの?」
「高坂郁奈です。よろしくお願いします」
「宮村僚一です。よろしくねー!」
「岸田大示です。よろしく」
「藤永陽也です。よろしくっ☆」
目の横でピースをしておどける藤永先生。もう、やだ、この人…。
「何してんすか」
「えー、いいじゃん。俺も混ぜてよ!」
「昂、助けて…」
俺は昂に助けを求めたが、昂はただ曖昧に笑ってごまかすだけだった。
その日の帰り道、軽音楽部の部活動を終えた俺と昂はいつものように薄暗い坂道をゆっくり歩きながら駅へと向かっていた。
「快都はさ、高坂の気持ちに全然気付いてなかったんだね」
「気付かねえよ…」
「中学の時から、あんなに快都のことが大好きって感じだったのに」
「お前、よくそういうのがわかるよな?」
「わかるよ、そりゃ…」
言いかけて、昂は黙り込んだ。俺、何か気に障ることでも言ったのか…?
「快都は、恋愛には本当疎いからな」
「悪かったな」
「いや、それでいいんだよ。快都は」
何だよ、それ。
「でもさ、高坂の気持ちも、もっと考えてあげた方が良いんじゃない?」
「何で、昂がそんなこと言うんだよ。お前には関係な…」
「関係あるよ!俺も好きだったんだよ、高坂のこと」
気が付かなかった。
まさか、昂が高坂のことを好きだったなんて…。
「だって、昂、今までそんなこと一言も言ったことないだろ?」
「…言えるわけないだろ。だって、高坂はいつだって快都のことしか見てなかったんだからさ」
絞り出すような声で告げる昂。こんな昂は今まで見たことがなかった。
「じゃ、じゃあ、どうすればいいんだよ?やっぱり、付き合うのはやめた方が…」
「そんなこと言ってないだろ!」
「だって…」
「もう、いいよ」
昂は呆れた様子で、駅まで走っていってしまった。
一人残された俺は、ただその場に立ち尽くすしかなかった。
俺と昂は、今まで一度もケンカすらしたことがなかった。
なのに、このことで昂との仲がぎくしゃくするのは絶対に嫌だと思った。
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