第15話 猛勉強

それからの俺は、必死だった。


とにかく、夏フェスに行きたい一心で、好きなギターを弾くことも、お気に入りのテレビ番組を見ることもせず、ひたすら数学の問題を解き続けた。


「急にどうしちゃったのかしら、快都」

「さあな」


家でも、帰宅するなり部屋にこもって勉強を続けた俺のことを、

初めは家族も訝しがっていたが、急にやる気が出たんだろうとのことで納得された。

夕飯を食べないこともあったので、 それはさすがに心配されたが、今は食事の時間すら惜しかった。


学校でも、休み時間の1分1秒が惜しかった俺は、絶え間なく勉強し続けた。

そして、突然、倒れた。


「快都、快都!?」


休み時間、いきなり自分の席から崩れ落ちた俺は保健室に運ばれた。



「あのねえ、近江くん」


養護教諭の森内先生が呆れたような顔で言う。


「勉強するのは立派だけどね、ご飯はちゃんと食べないと。それに、最近、ちゃんと寝てないでしょ?」

「はい…」

「無理しちゃダメよ。若いからって」


森内先生はそう言って、少し休んでいくように指示をして保健室を出た。

時計を見ると、4時間目が終わったところだった。


ふーっと息を吐いて、目を閉じる。そういえば俺、休むの忘れてた…。

夢中になると一直線なところがある俺は、時々、こうして電池切れのような症状を起こすことがあった。最近はほとんどなかったから油断していた。


ガラガラと扉が開き、誰かが入って来た。先生か…?


「近江、大丈夫…?」


声の主は高坂だった。高坂?なんで…。

平然を装った声で答える俺。


「おう、もう平気」

「良かった…。入るね」


そう言って、カーテンの内側に姿を見せた高坂は涙目だった。


「お前、泣いてんの?」

「だって、心配で…」


言いながら、涙を拭う高坂を俺は思わず抱きしめていた。


「…ごめん、心配かけた」

「うん」

「もう、大丈夫だから」


高坂の頭を軽くポンと叩き、体を離す。どんな顔をすればいいか、わからなかった。



しばしの沈黙の後、高坂は教室に戻るねと言って保健室を後にした。

問題はそこからだった。


いや、俺!何やってんの?何、何した、今??

高坂のこと、抱きしめた…よな?


嘘だろ…何やってんだよ、俺。


色んな感情がごちゃ混ぜになる。俺と高坂って、友達だろ。

友達って、抱きしめたりするのか…?


わかんねー…。


混乱する頭で、俺もひとまず教室に戻った。高坂はやっぱり普段通りだ。


「おい、快都、大丈夫か?」

「無理すんなよ!」


クラスメートが口々に声をかけてくれるが、まったく頭に入ってこなかった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る