第14話 天国と地獄

学祭が終わってからも、俺は高坂のことが気になっていた。

一方の高坂といえば普段通りで、それはもう、何もなかったかのように普段通りで…。でも、何で俺にあんなこと聞いたんだ?俺はとにかく、不思議でしょうがなかった。


高坂は傍から見ればスタイルの良い美人で、運動もできて、友達も多い。

彼氏がいてもおかしくなかったが、そういえば、中学の頃からそんな話は聞いたことがなく、俺や昂と適当につるんでは放課後に近くのコンビニや公園に行って暗くなるまで馬鹿話をするのが常だった。だからか、俺は高坂を女友達だと思ったことがない。


それはそれで、失礼な話なのかもしれない。けど、今さら女の子扱いするっていうのも無理がある。


俺の頭の中は高坂のことでいっぱいだった。



それから、とくに普段と変わらない日々を過ごした俺たちは、もうすぐ夏休みを迎えようとしていた。夏休みにどこに行くかで盛り上がるクラスメートたちを横目に、俺は大した予定もなく、夏休みに突入しようとしていた。


放課後、窓際の自分の席に座って、グラウンドで練習する陸上部をぼんやりと眺める。高坂は他の部員と一緒に楽しそうな笑顔を見せていた。



「何、恋煩い?」


突然、目の前に顔が現れたので、俺は思わずのけぞった。


「違いますよ」

「何、何?俺に相談してくれてもいいんだぞ?」

「藤永先生、そういう話、好きなんですね」

「恋バナは誰だって好きだろ?」

「俺は別に…」

「何だよ、つれねえな。せっかく、いい話持ってきたのに」


そう言って、藤永先生は1枚のチラシを見せてくれた。


「RSR2002…?」

「ライジングサンロックフェスティバル。いわゆる、夏フェスだな」

「夏フェス!?」

「そう。これに、みんなで行かないかと思ってな。お前らの好きな、スネイルやモンパチ、ゴイステにハイロウズも出るぞ」

「行く」

「その前に、一つ、条件がある」


条件。何だ。俺は思わず、息を呑んだ。


「来週の総合学力テストで全員、数学の合格点を取ること」

「マジかよ…」


俺は絶望的に数学が苦手だった。そのことは、数学教諭である藤永先生もよく知っている。というより、知らないはずがなかった。


「ちなみに、合格点って…」

「80点だな」

「無理…」

「お前、始める前から無理って言うなよ?もうフェスのチケットも人数分取ってんだぞ。いくらしたと思ってんだよ」

「一発合格?」

「もちろん!」


天国から地獄へと、一気に叩き落されたような気分だ。

でも、こんな機会は滅多に無い。絶対に、全員で夏フェスに行く。


こうして、俺の夏フェス奪取計画が始まった。






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