第13話 後夜祭

3日間の学祭も今日が最終日。

あっという間だったな、と思う暇もなく、俺たちは最終日も朝から忙しく過ごしていた。


最終日の今日は、学祭の最後の締めに校庭で花火が上がるらしく、みんなそれを待ちわびていた。


「後夜祭の花火を見ながら告白したらカップルになれるらしい」


そんなジンクスがあるんだと、クラスの男子が得意げに教えてくれた。先輩たちから聞いたというそれは、代々、我が校の伝統らしかった。


「3年のバスケ部の先輩が、1年の時の後夜祭の花火で告ってカップルになったんだけど、今もめっちゃラブラブでさ。来年、卒業したら結婚するんだって!」

「すげえ!!」

「俺もそんな青春過ごしてえな」

「お前は、郁奈ちゃんって嫁がいるくせに何言ってんだよ」

「嫁じゃねえよ!」


なぜか、俺と高坂はクラスで公認カップル扱いされている。付き合うどころか、告白だってされたことないってのに…。大体、高坂とは中学の頃からの気心がしれた友達ってだけで、別に付き合うとかそんなんじゃ…。


「妄想してんなよ、快都!」

「してねえって!」


高坂は、俺のことどう思ってんのかな。そんなこと、聞いたこともないけど。



やがて辺りは暗くなり、後夜祭のイベントもいよいよ最後の花火を残すのみとなった。


「ねえ、もうすぐ花火上がるよ!」

「どこで見る?」

「あっ、あの辺は?」

「いいな、行こうぜ」


俺たちは、花火が見やすそうな場所を見つけ、そこに陣取った。


「たーまやー!!って、言うんだよね?」

「そうそう」


もうすぐ打ち上がる花火に男5人で盛り上がる俺たち。女っ気がないのはいつものことだ。



「近江、ちょっといい?」


後ろから声をかけられて、振り返ると浴衣姿の高坂が立っていた。


「えっ、それ、どうしたんだよ?」

「6組の子に借りちゃった。どう、かな…?」

「…まあ、いいんじゃね?」

「ありがと」


僚一たちとは少し離れたところで、高坂と並んで空を見上げる。

いつもとは違った雰囲気に、何を話せばいいのかまったくわからない。



「近江ってさ、好きな人…いる?」


花火に照らされた高坂の顔は、びっくりするほど綺麗だった。


「いねえよ。高坂は?」

「あたしは…」

「おうちゃーん!!花火、始まったよー!!」


高坂が何か言いかけたところで、俺と高坂の間に僚一が飛び込んできた。


「俺はやめとけって言ったんだけどね」

「絶対、今じゃないでしょ…」


やれやれといった様子の昂と准太。大示はその後ろであくびをしていた。


「あっ…ごめんね。じゃあ、あたし、行くね」


高坂はパタパタと走って行ってしまった。俺は、高坂が何を言おうとしていたのかが気になって、その後の花火はずっと上の空だった。


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