第10話 学祭当日

そうして、いよいよ学祭が始まった。


俺たちのクラスのお化け屋敷の客入りは上々。

俺も当日はクラスメートたちと一緒におどかし役にも参加した。

せーので両手を壁から突き出した瞬間、壁の向こうで悲鳴が聞こえた時は思わずガッツポーズをした。


交代の時間になり、教室の外に出る。

他のクラスにも行ってみようと思い、廊下を歩き出す。


「おうちゃーん!」


廊下の向こうで、俺を呼ぶ声がした。

見ると、1組の教室の方から青いタオルを頭に巻いた僚一が手を振っていた。

この頃、俺たちはあだ名や下の名前で呼び合うようになっていた。


「俺たち、縁日やってんだけどさ、食べていかない?」


僚一の誘いで、1組のミニ縁日にお邪魔することにした。


教室に入ると、ホットプレートでせっせと焼きそばを焼く長身の男子がいた。僚一と並ぶと、まるで親子みたいな身長差だ。


「同じ軽音楽部でバンドメンバーのおうちゃんだよ。こっちは、幼馴染の准太くん」


僚一は、幼馴染だというその男子を紹介してくれた。


「4組の近江快都です。よろしく」

「山野辺准太です。僚とは保育園から一緒です。よろしくね」

「俺たち、中学で一緒にバスケしてたんだよ」

「バスケ?僚一が?」

「そうだよ!俺がキャプテンで、准太くんが副キャプテンだったの」


僚一はなんとなく運動神経が良さそうだなと思ってはいたが、まさかバスケ部だったとは。それも、キャプテン。人って、見かけではわからないものだな。


「今、意外って思ったでしょ?」

「思ったよ」

「やっぱり〜!」


僚一は楽しそうに笑った。


「もうすぐ俺たちも休憩だから、終わったら一緒に回ろう!」

「おう!」

「昂くんは、まだ店番?」

「うん、今は受付やってる」

「そっか。きっしーは何してるかな?」

「さあな。ていうか、参加してんのか、あいつ」

「教室で寝てそうだね」

「なあ」


僚一の交代の時間になり、受付の昂に声をかけた俺たちは7組に向かった。


7組は占いカフェという謎の雰囲気の出し物をしていた。

クラスにタロット占いができる女子がいるらしい。


教室をぐるりと見渡すと、一番隅のテーブルに突っ伏して寝ている大示が目に入った。やっぱり、寝てんじゃん。


「おーい、きっしー!」

「起きろよ」


僚一と交互に声をかけて肩を揺さぶると、しばらくして大示が起き上がった。


「…あれ、何してるの?」

「いや、こっちのセリフだよ。何、寝てんだよ」

「眠くて」

「せっかくの学祭なんだし、楽しもうよ!」

「うん…」


こいつ、絶対に乗り気じゃないなと思ったが、大示は黙ってついてきた。


それから、店番を終えた昂と合流して、4人で学祭を見て回った。

クラスそれぞれの色の出し物はどれも魅力的で興味深かった。

2組でもぐらたたきゲームをした時は、意外にも昂が一番夢中になって競い合ってたのもおもしろかった。


「はー、楽しかった!!」

「満喫したな」

「次、どこ行く?」

「3年生の教室も見たい」

「あ、いいな。行くか」


俺たちは、3年生の教室のある2階へと向かった。

うちの学校は1年生が4階、2年生が3階、3年生が2階と学年ごとに階が分かれている。職員室も同じ2階にあった。


「何で、学年ごとに階が違うんだろうな?」

「災害とかあった時に、逃げやすいようにじゃない?」

「逃げやすいって?」

「ほら、3年生になると足腰がさ」

「年寄り扱いかよ」


話しながら階段を降りる。すれ違う生徒たちの楽しそうな笑い声が響いた。

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