第9話 クラスメート

7月に入り、学祭の準備も本格的になってきた。


俺たち、1年4組はお化け屋敷をやることに決まっていた。

おどかしたりするのは得意じゃなかったが、裏方仕事ならと思い、俺も放課後の制作チームに加わっていた。


「あっ、こっち、もうペンキ無くなりそう。誰か、買い出し行ける人いるー??」

「俺、行くわ」「あたし、行けるよ!」


女子の呼びかけに、俺が立ち上がるのとほぼ同時に、もう一人、立ち上がった女子がいた。


「仲良く行ってこいよ!!」「郁奈、気をつけなよ!!」


口々に茶化されながら、俺たちは教室を後にした。

廊下に出ると、それぞれの教室から賑やかな声が聞こえてきた。

中には、ラジカセで洋楽のパンクロックを流している教室もあって、何かいいなと思った。


「近江は、部活何やってるの?」

「軽音楽部」

「えっ、うちの学校って軽音楽部あったっけ?」

「まあ、幽霊部みたいなもんだけどな」

「何それ?」


高坂郁奈こうさかふみなは首を傾げた。高坂は俺と昂と同じ中学出身で、高校では陸上部に所属している。今は走り高跳びをやっているらしい。明るく快活で、運動も得意な高坂は中学の頃から友達が多かった。



「あれ、お前らも買い出し?」


校舎を出ようとしたところで、誰かに声をかけられた。


「あ、藤永先生」

「おう」

「先生、パシリですか?」

「違えよ。俺から、買い出しに行くって申し出たんだよ」

「そうなんですか」

「乗っていくか?街まで遠いだろ」


そう言って、先生は俺と高坂を自分の車に乗せてくれた。

丘の上にある高校から、街までは徒歩だとかなり距離があった。

とくに、俺たち汽車通組は駅から歩くしか移動手段がないため、やや不便だった。


しばらくして、一番近いホームセンターに到着した。

目当てのペンキと必要なものをカゴに入れ、会計を済ませる。


平日夕方のホームセンターは、どことなく閑散としていた。

買い物を終えた藤永先生とレジ前で合流し、学校へ戻る。



「コンビニ、寄っていくか?」


飲み物の冷ケースからコーラを1本取り出す藤永先生。 


「コーヒーじゃないんですか?」

「俺、飲めないんだよ。コーヒー。飲むと眠れなくなる」

「えっ、かわいい」


藤永先生の計らいで、クラスメートたちに差し入れのお菓子を買ってくれた。



「ただいま」

「おかえりー!」

「これ、藤永先生からみんなに差し入れ」


教室に戻り、差し入れのお菓子を袋から取り出すと歓声が上がった。


「チョコもあるー!」「すげえ!!」

「藤永先生、めっちゃ優しいじゃん!!」

「よし、じゃあ、休憩にしようぜ」


窓の外では夕焼け空がグラデーションになり、深い色に変わっていく。

みんなで差し入れのお菓子を食べながら、休憩する時間も楽しかった。





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