第7話 バイト
人生で初めてのバイトは、想像していたよりもずっとハードなものだった。
まず、ライブハウスは基本、ライブが開催されている時以外は閑散としていて静かだと思っていたがそうでもなく。とくに、晴也さんのライブハウスでは毎日、自主企画などのライブの日程が組まれていたため、終始、人が大勢出入りしていた。
中には、全身にタトゥーを入れた厳ついお兄さんやピアスだらけのお兄さん、派手な髪色のお姉さんや露出の多い服を着たお姉さんもいた。
高校生になったばかりの俺たちには新鮮でとんでもない衝撃だった。
「新しいバイト君、高校生?」
「頑張ってるか?」
「かーわいい!」
スプリットタンのお兄さんと顔までタトゥーの入ったお兄さん、真っ赤な髪にピアスだらけのお姉さんに囲まれた時はさすがの俺も涙目になった。
でも、大抵のお客さんは優しかった。
みんな、晴也さんの人柄が好きでこのライブハウスに集まってきているらしく、晴也さんの後輩や友人関係の人たちもたくさん来ていた。
「晴ちゃん!」
ある日のライブ開演前、一人の女性が訪ねてきた。
「おう、茅夏。久しぶり!」
「こんにちは。この子たち、バイト?」
「そう。陽也の高校の教え子で、軽音楽部の俺たちの後輩」
「えー、そうなんだ?陽ちゃんの?あたし、吉川茅夏。高校時代、晴ちゃんと陽ちゃんとバンド組んでました。よろしくね!」
「よろしくお願いします!!」
茅夏さんは、高校時代に晴也さんと藤永先生と3人でスリーピースバンドを組んで活動していた。ドラム担当で、当時はその細身の体からは想像もつかないほどのパワフルな音を叩き出すことで評判だったらしい。
「ライブはやったことあるの?」
「まだなんです。今度の学祭が初ライブの予定です」
「何やるの?コピー?」
「はい。175Rとゴイステとモンパチはやりたいなと思ってるんですけど。あっ、でも本当はブルーハーツもやりたくて」
「ブルーハーツ、いいね!やっぱり、リンダリンダ?」
「俺は、終わらない歌がいいかなって」
「終わらない歌、最高じゃん」
茅夏さんはニコニコしながらそう言った。
「茅夏さんは、今もドラム叩いてるんですか?」
「うん。仕事終わりにここに来て、たまにドラム叩かせてもらってるよ。あとは、ライブにサポートメンバーで入らせてもらったりするくらいかな」
「バンド、やらないんですか?」
「やりたいんだけどね。仕事するようになったら、結構忙しくなっちゃって」
「そうなんですね」
「君たちが羨ましいよ。思う存分、青春しなよ!」
青春。そうか、俺たちの今って、青春なんだ。
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